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Double Life  作者: Toki.
16/60

3−6


3日目の晩御飯、明日香は自分の部屋に閉じこもっている。


あの『元彼』にあったとき以来おかしい。


明日香が俺を彼氏と認めたときはいつもと何か雰囲気が違った。


いつもなら冗談交じりだったんだけど、今回は強がっているように見えたのだ。


明日香の過去に何があったかは分からないが、今の俺としては心配になるのは当たり前。


晩御飯の時も皆黙っていた。


あの明日香のお母さんさえ黙っている。


無理に盛り上げようとしてみたが、やはりそんな雰囲気じゃない。


明日香のテンションが上がっていない=周りのテンションもあがらない。







本当に明日香の存在は大きいな。


夜、沙希は明日香の部屋に入っていった。


鍵はついていないので入れることには入れる。


俺は座りながら、何か話をするのかと思って耳を澄ましてみたが、全く話し声は聞えない。


ただ、沈黙という音が流れるだけ。


外は夏と言うこともあり、俺達の気も知らず蝉や、鈴虫が鳴いている。


その音が無性に寂しくなり、あまり泣かない俺も涙が出そうになった。


『明日香の元彼』


優しくて、格好良かった。


何故か心の隅がチクチクとする。


気のせいとは思うが、気のせいとも思えない。


なんだろうコレ。


「はぁ〜」


胡坐をかきながら外を見て、大きな溜息をつく亮平。


「どうしたんだよ? 溜息なんかついてさ」


なんとなく久しぶりに声を出した感じがした。


「明日香が元気ないとさぁ、何か違和感があるな。と思ってさ」


渋々と亮平が明日香の事を語っている。


「お前はどうよ?」


不意にこちらを向く。


その仕草が男前に見えた。


「俺も。明日香と一緒に暮らしてるじゃん? 今までこんなことはなかったんだ」


そのまま俺は天井を見上げる。


「…羨ましいねぇ」


「今、そんな事言っている場合じゃないだろ?」


「いやいや、今だから言えるのさ。どこまで進んでいるの?」


亮平が変な事を聞いてきたからブッっとしてしまった。


「俺達そういう関係じゃないし、俺の体質知っているだろ?」


女に触れない。ある一部にはまともに喋れない。


この体質を知っているのは亮平だけだ。


家族にも言っていない。もちろん…明日香にも。


「そうだったな」


ヘヘヘと笑う亮平。


「明日香さぁ多分、風紀のこと好きだぜ?」


いやいや、それはないから。


心の中で亮平につっこみ。


「ないって」


「けどさぁ、好きでもないやつを『彼氏』なんて言えないぞ?」


悪ふざけって言うもんがあるだろぉが!


明日香はそういう性格なんだよ。


「あぁ、いいなぁ!」


亮平は心の叫びのように叫んだ。


しかし、今は夜。


できるだけ小声で。


「あぁ、いいなぁ!」


と二度目の心の叫び。


「だろ?」と少し亮平をからかって、二人で女の話をした。


噂話じゃなくて、女の話。


亮平は今まで付き合った人数とか、告白された人数とか。


因みに告白したことは無いらしい。


こんなにも長い付き合いなのに、そういうことは全く知らなかった。


無二の親友。


この言葉が俺の頭をよぎった。


こんなやつだけど親友なんだな。


心から許せる友達なんだろうな。


そう思った。


その日はその話をして就寝。


だけど、俺はなかなか寝付けない。


明日香のこと。


そればかり考えていた。


その時、廊下でガチャとドアが開く音。


その後にキーと部屋の向かいにある、ベランダが開く音がした。


俺の第六感が明日香だと言っている。


部屋のドアを少しずつ開けていって、ゆっくりと外を見た。




明日香。




やっぱり明日香だ。


そしてゆっくりとドアを閉め、明日香に近寄っていく。


一人にさせたかった。


だけど、心配でならない。


「よっ、明日香」


そう言って俺は手を挙げる。


「ふ、風紀…」


自分の部屋に戻っていこうとする明日香。


「なぁ、明日香!」


明日香の腕をつかんだ。


この俺が、女の腕を。


気を失いそう。


失神しそうなのを我慢して明日香にこちらを向かせる。


「明日香。何か言ってくれ」


何度も言うが、心配なのだ。


どうしようもなく心配なのだ。


「風紀…」


そう言って明日香に抱きつかれた。


「あ、明日香?」


心臓がバクバク言っている。


と言うか、頭が持つだろうか?


そのまま明日香は俺から離れて外を眺めた。


「私ね…」


ゆっくりと明日香は話し始めた。


ベランダから見る景色は自然が広がっている。


庭とは逆の方向なので、山が近く。


今にも熊が現れそうだ。


明日香の話を全て聞き終えると俺は明日香を抱きたかった。


だけど、抱けない。


「まだ心残りがある。大和君のことが好きなの」


そのように明日香の口から聞いたからだ。


「そうか…」


その言葉しか出てこなかった。


他にも何か言いたい。


何か言いたいけど、俺と同じ体験を受けた明日香。


『浮気』


そんなものじゃない。


明日香がぽろぽろと涙を流し始める。


「俺もさ、昔彼女が居たんだよ」


明日香はこちらをハッと向く。


「そいつにさぁ俺ベタ惚れで、束縛しちゃってたのかな? 浮気されちまって」


「そうなの…」


明日香もその言葉しか出せないようだ。


「俺さぁ、何も出来なかったんだよね。自分の無力さ。情けなくて、情けなくて…」


アハハと言いながら髪を掻く。


「だけど、自然とあいつのこと嫌いにならなかったんだ。そりゃ俺だって心残りはあったさ。だけど、こんな俺じゃ幸せに出来ないってそこで思って…諦めた」


涙が出そう。


「風紀なら幸せに出来たよ」


無理に笑顔を作ってそういう明日香。


月の光が当たって、余計悲しく見える。


だけどその顔は美しくて、俺の安らぎの場所。


明日香を失いたくない。


そう思えた瞬間なんだ。


風が吹く。


そよ風が当たる。


何故かその風で安心して俺も自然に笑みがこぼれる。


「明日香」


「なに?」


「明日でここも最後だな」


「そうだね」


「もうあの人とは大丈夫なのか?」


「もう大丈夫。私ね今日ずっと考えてたの」


「何を?」


「自分の気持ちに嘘は無い。けど、大和君には幸せになってほしい。だから私は一歩引く」


「ならいいけど」


そう言って明日香は「ありがと風紀」と言って部屋に戻っていった。




次の日の朝。


「おはよぉぉ!」


明日香がガン!と思いっきり俺達の部屋を開けた。


「お、おはよ…」


すると明日香は一瞬で顔を赤くしてドン! と思いっきりドアを閉めた。


俺達沈黙。


それは何故かというと、


「明日香…俺達が着替えているときに良く入って来れたよな」


着替え中だったのである。


「そうだね…」


俺達は着替え始める。


「でもよかったな」


主語が入っていない亮平の質問。


「何がだ?」


これは当たり前の疑問。


「だから、明日香が元気になって。お前らが昨日の夜いちゃついていたのが原因か?」


ニヒヒと言いながら聞いてくる亮平。


「お前な…」


と言って着替えは終了した。


今日はもう家に帰ることになった。


明日香と俺と沙希と亮平は玄関に行き、小母さん…じゃなくて明日香のお母さんにご挨拶。


「気をつけてね。」


そう言って明日香のお母さんは手を振った。


俺たち4人も「さようなら」と言って手を振る。


歩いて10分のバスの駅に着いた。


バスが来て、俺達は乗り込む。


その時明日香は立ち止まって、後ろを見て「お幸せに!」


そう言ってバスに乗り込んだ。


亮平と沙希は分かっていないようだったが、俺は分かっている。


なんとなく優越感に浸って帰り道を楽しんだ。
















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