3−5
明日香視点となります。ご注意ください。
私が実家に帰ったのは2つ理由があった。
ひとつはお母さんが帰っておいで。と言ったから。
もう一つは…大和君に会えるかもしれないと思ったから。
その2つ目の大和君になんと…出会った。
そのとき心が揺らいだ。
涙が出そうになった。
何も考えられなかった…。
私、傷ついているのに。
あなたのせいで。
「や、大和君」
と呟いた私はその後何も出来なかった。
放心状態になった。
誰かが私に「大丈夫か?」と聞いてくる。
大丈夫?
そんなわけが無い。
中3の終わりに、あんな出来事があったのだから。
私は、2年生の夏休みから付き合っている子がいた。
その子とは幼馴染で、昔から好きだった。
私の初恋はその子で、彼の初恋も私だと言うことが中2の夏知った。
「明日香…俺、お前が好きなんだ。付き合ってくれないか?」
大好きな大和君からその言葉を聞いたとき、私は天まで登りそうなぐらい好きだったのに…。
あんなことが起きるなんて。
私達はなんにも危険も無くただ普通に付き合っていた。
しかし中3の終わりごろ、私は大和君に公園に呼び出された。
最近何か変。
それは気付いていた。
だから、今日は気分治しに一緒に喋ろうと思っていたところだ。
公園に着くまでの10分間私はいろんな妄想を広げていた。
何が起こるのかな?
大和君にまた会えるんだなぁって。
けどその思いは公園に着いたとき一瞬にして飛んでいった。
そこにいたのは大和君…と女の人。
噂では聞いていた。
一つ上の美人な優しい先輩。
私が来たのを確認すると、大和君とその先輩は手を振ってさよならをしていた。
そのさよならをした後の大和君の顔が悲しそうに見える。
どうしたの…?
何でそんな悲しい顔をするの?
彼女が来たというのに…。
「よっ、明日香」
手を挙げてこっちによってくる。
「やっほ。大和君。」
3秒ほど沈黙。
「明日香今日は…」
その後をなんとなく聞きたくなかった。
「そうそう知ってる? 2組の弥生ちゃんがね、県統一テストで一番の点数取ったんだって! すごくない?」
私はわざと、大和君の話を止めた。
「へぇ…」
「それでね、弥生ちゃんったら…」
その後の言葉が出てこなかった。
何故か急に涙が出てきて。
「弥生ちゃんったらね、自慢…し、してく……くるの…」
涙が出てまともに喋れないよ。
「明日香…」
そう言って大和君は私の頭を自分の胸に引き寄せた。
だけど、私は大和君を突き放してしまう。
「…明日香」
何を言われるかは分かっている。
私はうつむいたまま、涙を流している。
「俺、他に好きな人が出来たんだ」
…分かってるよ。
分かってたんだよぉ…。
「だから俺と…」
私は、大和君の言葉を遮った。
「嫌! 嫌嫌嫌! 大和君と離れるなんて…嫌なの」
涙が止まらない。
「明日香…」
「嫌!!」
そのまま私は地面に座ってしまった。
足の力が抜けて立てないのだ。
「ごめん明日香」
大和君の声が聞えてくる。
「私は大和君の事好きなのに! 何で…何でよぉ」
「明日香…俺もお前が好きだけど。」
なんでそんなに大和君は私に優しくするの。
ただ…ただ辛くなるだけ。
「大和君の馬鹿」
そう言って公園は私の泣き声で埋まっていった。
大和君が近くにいるのはまだ感じる。
人生でこれほど泣いたことはないだろう。
今、天から地に落ちた…気分。
「明日香…分かってくれ」
そう言って大和君は私の前に座った。
「明日香…」
私の頭を触る。
「何でよぉ…」
涙が止まらなかった。
止まるまで家には帰れないと何故か今だけ冷静になっている。
冷静になっているが、涙が止まらない。
今気付いた。
私はここまで好きだった。
大和君はそこまで好きじゃなかった。
…そう思って自分を納得させた。
その日以来私は学校へは行かなかった。
大和君と喋りたくなかったし、会いたくも無かった。
受験勉強に集中して、第一希望の遠い学校へ進学した。
そこではある男の子と二人で暮らすことになってしまう。
その人を見るとなんだか落ち着くの。
大和君にどこか雰囲気が似ていて…。
そして今日、大和君に出会った。
その近くにはあの女の人がいて、何も出来なかった。
本当に会いたかった。
だけど、大和君の幸せを邪魔したくなかった。
「ん? その人、新しい彼氏?」って聞かれたときは少し悲しかった。
平然とした顔でそのことを言うから。
悔しくて本当は彼氏じゃないのに「そ、そう…だから近寄らないで!」と言ってしまった。
その後、落ち着きたくて風紀の服をつかんだ。
…落ち着く。
「そうか。元彼の俺が出る幕じゃなさそうだな。また、会えたら会えたで話してくれよな!」と言って大和君は彼女の元へ戻って行った。
涙が出そうになった。
だけど堪えた。
ここで泣いて、まだ心残りがあるなんて大和君に知ったら…。
我慢して、我慢して、やっと家に着いて自分の部屋で泣き崩れた。
3人は雰囲気を察してか、私の部屋に入ろうとはしなかった。
あり難い。
今はどうしようもなく一人になりたかった。