3−4
明日香の実家帰り3日目。
この日は全くと言っていいほど風が吹いてなかった。
本当に何も吹いていなかった。
この天気が逆に怖くて、嫌な予感がしたんだ。
「おい風紀!」
「ん〜、あと2分…」
寝言のように言う俺。
「早くしないと置いていくぞ?」
「ん〜、あと少しだけ…」
布団の中に蹲った。
ドンドンドン。
誰かがドアを叩く音がする。
「風紀〜! おきているの!?」
明日香の声だ。
俺は一気に目が覚めて、明日香の声を確認する。
「起きてるってぇ」
目をゴシゴシしながらあくびをする。
ダッシュで普段着に着替える俺。
昨日はあの後、夜の9時まで亮平が起きることはなかった。
あの衝撃のことを亮平は覚えていないらしい。
「へ? そんなことあったっけ?」
と、不思議そうな顔をしていっていた。
痛みも、もう無いらしい。
恐ろしや、明日香のお母さん。
しっかりと着替えてからドアを開ける。
「おはよ」
俺がまず挨拶をする。
そうしたらいつも通り明日香は笑顔で「おはよぉ!」と言ってきた。
昨日に続き、これが俺の朝だなぁと思う。
「今日はお母さん仕事でいないから、4人でどこかに遊びに行こっ!」
「そうだな」
と俺は言って、亮平を部屋の中から呼び出した。
下に行って、玄関まで行くと、そこには沙希が靴を履いて待っていた。
「お・そ・い! 風紀」
額に怒りマークがついているのは誰の目から見ても分かるだろう。
「ご、ごめん」
ここは素直に謝っていくのが安全策だ。
俺も靴を履いて外に出る。
まず庭があって、そこを通ると小さな門がある。
明日香が手馴れた様子でそれを開けた。
そこで、明日香はぴたっと止まった。
何か悩んでいる様子。
1分ぐらいロダンの彫刻「考える人」の格好をしてようやく答えが出た。
「じゃあ最初はゲームセンターにでも」
皆さん苦笑い。
只今の時間が10時。
ゲームセンターの時間ではないからだ。
「じゃあ…」
とまた明日香が悩みだした。
これじゃあ時間がもったいない。
「まぁ、まずゲーセンにでもいくか!」
考えるのが面倒だったので明日香の最初の意見に俺は賛成した。
「は〜い」と明日香は言ってから歩き出した。
明日香の話によると、ここからゲームセンターがある所までは20分掛かるらしい。
最初の10分ぐらいは話は続いたのだが、その後の10分は殆ど誰も喋らなかった。
こんなので、今日一日持つのだろうか。
少し不安になってきた。
そして重苦しい空気のままゲームセンターがあるところに到着した。
そこには色々な店が並べられている、
服も売っているし、電気製品も、食品なども。
映画館も一番上の階にある。
その一階下がゲームセンターとなっているようだ。
エレベーターでそこまで上がって行くと、音が五月蝿い場所に着いた。
「やっぱ五月蝿いな」
嫌そうな顔をして亮平が言う。
「ねぇねぇ見てみて! このモグラ! 超可愛い!!!!」
俺たちの気分も知らずに明日香はモグラ叩きを見ながらはしゃいでいる。
俺は一番に明日香に駆け寄った。
「明日香…相変わらず変なやつだな」
心に閉じ込めておくべき言葉が口にうっかり出てしまった。
「何よ! …罰としてこれをやってちょうだい」
そう言われ、モグラ叩きの棒を持たされた。
「何で俺が?」
「罰って言ったでしょ! 罰って!」
明日香の顔を見ると断れる自信がなくなった。
「はぁ…」と大きな溜息をついて、ポケットに入っている財布から、100円玉を取り出し、
機械の中へと入れる。
すると、モグラが一匹頭を出してきた。
そのモグラに躊躇することなく叩く。
2匹、3匹と出てきてだんだん叩けなくなってきた。
くそっ。
バシバシと棒を振り、モグラを一匹残らず叩きのめした。
「ふっ。見たか俺の棒さばき!」
そう言って後ろを見たときには誰も居なかった。
「ってちゃんと見てろよ!」
明日香はUFOキャチャーのところに居て人形を眺めている。
また、俺は大きく溜息をついた。
そして明日香に駆け寄る。
明日香が人形を見ている姿は、誰が見ても美しくて、安らいで、気持ちが軽くなる。
それぐらい可愛いのだ。
沙希と亮平は、明日香の後ろにトコトコ付いている。
まるで、しもべのように…。
そんなことをあいつ等に言ったら、殺されるんだろうな。
その後、俺たちは映画を見に行った。
明日香が「この映画みたい!」と言い出したので、明日香の顔を見ると誰もが首を横にふれないのだろう。
やっぱり俺も、しもべの一人なのだろうか。
しかし、その明日香は映画の途中で寝てしまうという事件を起こしてしまったのだ。
映画が終わると明日香は十分に寝たようで、「ん〜〜!」といいながら伸びをしている。
映画の後は皆で服を見に行った。
そのとき、明日香の顔だけが変わったのだ。
今日は明日香の実家帰り3日目。
この日は全くと言っていいほど風が吹いてなかった。
本当に何も吹いていなかった。
この天気が逆に怖くて、嫌な予感がしたんだ。
「や、大和君…」
そう言って、明日香の足がピタリと止まってしまった。
「おい明日香どうしたんだよ? 大丈夫か?」
いきなり止まった明日香に俺は疑問と心配を抱く。
明日香が誰かをじっと見ているようだ。
その明日香の顔は今にも無表情のまま泣きそうな顔で、見ていられなかった。
明日香の目の先を追っていくとある男にたどり着いた。
容姿はカッコイイ。性格は見た感じではよさそう。
その人を明日香は見続けている。
なぁ…明日香、誰だよ。
その男の人はこちらを向いてハッとした。
「あ、明日香!? 明日香か?」
タッタッタッタとリズム良くこちらに向かって走ってくる。
「や、大和君…」
「久しぶりだなぁ! お前遠い高校に行ったって聞いていたから」
「もう、近寄らないで…」
明日香は俺の後ろに着いた。
「ん? その人、新しい彼氏?」
新しい彼氏?どういう意味だよ。
「そ、そう…だから近寄らないで!」
そう言って明日香は俺の服をつかんだ。
俺はビクッてしてしまったが、何故か明日香がここまでこの人のことを拒絶している。
そんな明日香を突き放せるわけも無い。
女に触れて心臓がバクバクしているのを我慢して、その大和という男を見る。
「そうか。元彼の俺が出る幕じゃなさそうだな。また、会えたら会えたで話してくれよな!」
そう言って大和は元の場所に戻って行った。
「大丈夫か明日香?」
首を縦に振るだけ。
…相当ヤバイな。
俺と沙希と亮平は顔を見合って頷いた。
その日はもう帰った。
明日香は晩御飯も食べずに、部屋にこもっている。
…大丈夫なのかよ明日香。
大和という男は自分で元彼と名乗っていた。
そういや昔、「明日香って彼氏いたの?」とか、聞いた覚えがあるな。
そのとき明日香はビクついていた…。
明日香…お前の過去にも何かあったのか。
本日は、3話更新となります。