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私選和歌集  作者: 如月瑠宮
中古三十六歌仙より
56/73

その貳

うら風に靡きにけりな里の海人のたくもの烟心よわさは 藤原実方

 浦の風に靡いてしまう里の海人が焚く煙のような心弱さです。


※「語らひ侍りける女の、こと人に物言ふと聞きてつかはしける」歌。恋人が他の男と親しくしていると聞き贈った歌になります。




近江にか有りといふなるみくりくる人苦しめのつくまえの沼 藤原道信

 近江にあると言う三稜草を手探る人を苦しめる筑摩江の沼。会ってくれないで私を苦しめる貴女のようです。


※会うのを拒絶する恋人の元に送った歌です。恨み言が聞こえてくるかのような歌ですね。




今よりはうゑてだにみじ花すすきほに出づる秋は侘しかりけり 平貞文

 今からは植えてみようと思わない薄。穂に滲み出る秋の気配は侘しくなるので。


※秋の侘しさが滲む歌ですね。色好みとして名高く「平中」と呼ばれていたそうですが、歌人としては不遇だったそうでその事を考えてみると深みが増す気がします。




夏の夜のまだ宵ながら明けぬるを雲のいづくに月宿るらん 清原深養父

 夏の夜はまだ宵だと思っていたら明けてしまいましたが、雲の何処に月は宿っているのでしょうか。


※百人一首にも選ばれた深養父の一首です。題詞に「月のおもしろかりける夜、暁がたによめる」とあり、短い夜を詠んだ風情のある歌です。




梅が香を夜はの嵐の吹きためて槙の板戸の明くる待ちけり 大江嘉言

 梅の香を夜半の嵐が吹き溜めて、槙の板戸が開けるのを待っていたのです。


※朝、夜の間は閉まっていた戸を開けると梅の香りがしたのを味わい深く詠んだ歌です。初句を「梅の香を」としているのもあるようです。個人的には「梅が香を」の方が良いと思います。




行末のしるしばかりに残るべき松さへいたく老いにけるかな 源道済

 行く末の印として僅かばかりに残るべき松さえもいたく老いてしまったものです。


※「河原院の古松をよみ侍りける」歌。河原院は源融の邸の事で、後に歌人達の集まる場所になったようで風流な場所ですね。




涙やは又もあふべきつまならんなくよりほかの慰めぞなき 藤原道雅

 涙があの人にまた逢う為の手掛かりになるのだろうか。私には泣くより他に慰めになるものなど無いのに。


※伊勢の斎宮だった当子内親王と密通していた道雅の歌。題詞にはありませんがもしかしたら内親王の事なのかもと思うと切ないですね。

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