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伝説のカマイタチ

作者: 鈴木太郎
掲載日:2014/12/08

伝説の殺し屋カマイタチ。

相手に予告状を出し、その日時に必ず現れる。

逃れる術は死以外にない。

「いよいよ今日ッスね」

「ああ、そうだな」

「来るんすかね、そいつ」

「来るだろ、きっと」

「どんなヤツなんすかね?」

「知るかそんなもん。誰だろうと関係ねえよ。返り討ちにしてやる」

「古風な言い方ッスね」

「うるせえな」

「でもウワサはほんとだったんすね」

「おう。まったく予告状なんてふざけてやがるぜ。キャッツアイかよ」

「なんすか?キャッツアイって」

「知らねえのかよ、キャッツアイ」

「知らないッス。飲み屋ッスか?」

「違うって、バカ。泥棒の美人三姉妹だよ」

「へえ。そんなもんまでいるんすか」

「実際いねえよ。漫画だよ、漫画」

「あれ?そんな漫画あったかな?」

「今じゃねえよ。お前ほんとに知らねえのかよ。あれ?お前いくつだっけ?」

「二十一ッス」

「は?て事はお前、平成生まれかよ」

「まあそうッスね」

「じゃあポケベルも知らねえな」

「ポケベル?ポケモンのキャラッスか?」

「物知らねえな、お前は。ケータイの前はポケベルだったんだよ」

「ああ、ケータイ系ッスか。俺、最初のケータイがすでにスマホだったんで」

「すげえ時代になったもんだな」

「そうッスね。なんたって予告状がメールッスから」

「ほんとだよな。予告状なんてものは紙と相場が決まっていたんだがな」

「しみじみ言わんでくださいよ」

「何となく軽く扱われている感じがするんだよ、俺は。手軽に気楽に送ってくんな、と」

「まあ、そうッスね」

「命は一個しかねえんだからよ」

「そうッスね。殺人予告にしては軽い感じッスね」

「それも伝説の殺し屋カマイタチからだぞ」

「びっくりしたッスよね、最初。俺、てっきりカマイタチと友達かと思って感動したんすよ」

「バカな事言ってんじゃねえよ」

「でも逆に狙われちゃったんすよね、カマイタチに」

「逆にって何だよ、逆にって」

「けど俺、逆にカマイタチから予告状送られるなんてカッコいいって思っちゃったんすけど」

「おかしな憧れ持つんじゃねえよ」

「だってカマイタチは大物しか狙わない殺し屋なんでしょ?」

「そうだよ。なんつったって伝説だからな」

「じゃあ大物って事じゃないッスか。俺、ちょっと嬉しいッス」

「喜ぶなよ、バカ。けど妙だと思わねえか?」

「何がッスか?」

「何でカマイタチは俺に予告状出したんだ?」

「殺すためでしょ?」

「何で」

「大物だからじゃないッスか?」

「変な事でおだてんな。そこが妙なんだよ。カマイタチが狙うのは相撲で言ったら三役クラスの大物だよ。なんで十両クラスそこそこの俺の相手なんかするんだよ」

「手強いから芽を摘んでおくって感じじゃないッスか?」

「俺をいくつだと思ってんだこの野郎。芽なんかとっくに出て実がついてんだよ」

「すんません」

「だから何度間違いだと思った事か」

「でも名指しだったじゃないッスか」

「そうなんだよ。俺、カマイタチに殺されるような事したっけ?」

「悪いこといっぱいしてますからね」

「お前が言うな、お前が。それで言ったらお前の方がよほどひどいぞ」

「まあそうッスね」

「あっさり認めんなよ、ムカつくな。このろくでなし」

「けどそれでその軍用の拳銃手に入れたからいいでしょ」

「まあな。けどすげえなこれ。そこらに出回っているやつとモノが違うな」

「そうッスね」

「鉄板貫通しちまうし」

「そうッスね。マイクのお奨めッスから」

「誰だよ、マイクって」

「在日アメリカ軍ッス」

「お前は外人の知り合いがいるのか」

「これからは世界を相手にするんすよ」

「日本代表かお前は」

「サムライブルーって感じで」

「何がブルーだ。俺なんかカマイタチからメールがきてからずっとブルーだ。だいたいお前が名刺にメアドなんかのせるからカマイタチからメールがくるんだよ」

「だって名刺にメアドのせるの普通ッス」

「まったく。まあいいや。もし俺のとこにカマイタチが来たらこのゴツい拳銃でズドンとやればいいんだからな。ここに来れるものなら来てみやがれ」

「そのわり膝が揺れてるッス」

「うるせえ。武者震いだこの野郎」

「でも隠れているんならそこまで強力なヤツ、いらなかったッスね」

「隠れてんじゃねえよ。潜めてんだよ。普通嵐が来たら家でじっとしてるだろ?それと同じだよ。この拳銃は保険だよ、保険。保証はデケエ方が安心だろが」

「人生のベテランは言う事が違うッス。さすがッス」

「うるせえ。そこまでベテランじゃねえぞ」

「あれ?チャイムだ。誰か来たッスね」

「おいおいおい。律儀にドアに行こうとするな。ちょっとまて。このアジトの事は誰も知らねえはずだぞ。なのになんで誰か来るんだよ」

「アケミかな?」

「誰だよアケミって」

「妹ッス」

「なんで今妹の名前が出てくんだよ」

「ここに来るの、アケミくらいッスから」

「おい。なんでそのアケミとやらがここのチャイムを鳴らせるんだよ。おいおい。お前まさか」

「なんかアジトって聞いてテンション上がっちゃってついアケミに自慢しちゃったんすよ。でも大丈夫ッス。誰にも言っちゃダメって言ったッスから」

「このバカ。超バカ。マジバカ。誰にも言うなって言って他のヤツに言うんだよ、みんな。そうやって秘密がバレていくんだよ。誰かにバレたらアジトの意味ねえだろ。このおたんこなす。つうかだいたいここはお前のアジトじゃねえだよ。何自慢してんだよ」

「すんません。でもちょっと見てくるッス」

「絶対開けんなよ」

「絶対撃っちゃダメッスよ。俺に当たっちゃうッス」

「撃たねえよ。早く見ろよ」

「あれ?」

「なんだよ」

「アケミじゃないッス」

「ああ?じゃ誰だよ」

「うわうわ。拳銃こっちに構えないで」

「撃たねえよ。いいから誰か言えよ」

「ピザ屋ッス」

「は?ピザ屋?」

「そうッス。俺がよく頼んでいる近所の宅配ピザ屋ッス」

「近所のピザ屋?って事はお前んちはこの辺なのか?」

「そうッス。ここは俺の街ッス」

「お前のもんじゃねえよ、バカ」

「知り合い、いっぱいいるんすけどね」

「ったくなんだよ。なんて世間は狭いんだ。ってちょっとまて。なんでピザ屋が来るんだよ」

「ピザ持ってきたんすかね?」

「なんだそれ。誰が注文したんだよ。お前か?」

「違うッス」

「だよな。俺もしてねえよ。て事は可能性はひとつだろ。おい、ドアから離れろよ」

「撃つんすか?」

「おう。カマイタチの野郎をドアごと吹っ飛ばしてやるよ」

「ほんとにピザ屋かもしれないッスよ」

「うるせえ。攻撃は最大の防御だ。のこのこ来たピザ屋が悪いんだよ」

「あ」

「今度はなんだよ」

「アケミかもしれないッス」

「またアケミかよ」

「さっきアケミとLINEしてて俺腹減ったって言ったッス。アケミが気をきかせてピザとってくれたかもしれないッス」

「さっきってさっきはお前、テレビ見てたじゃねえか」

「見ながらだって余裕でできるッスよ」

「器用だなお前は。その器用さをもうちっとマシな事で使ったら結構イケたんじゃねえか?っておい。ドアに手をかけんな。開けるな、バカ。やめろ。早まるな。おいおいおいおい。コラッ伏せろ」


「ピザ、うまいッスね」

「おう」

「撃たなくて良かったッスね」

「ちっ。撃たなかったんじゃねえよ、撃てなかったんだよ。なんでロックなんかかかってんだよ。これじゃ意味ねえよ」

「保険じゃないッスか?」

「やかましい。さっき俺が拳銃は保険って言ったのとかけてんのか。全然うまくねえぞ、それ」

「でもピザはうまいッス」

「でもってなんだよ、でもって。おい、このロック、どうやって解除するんだよ?」

「わかんないッス」

「なんだそれ。マイクに訊けよ、マイクに」

「ピザ食ってからでいいッスか?」

「悠長だな、お前は。今カマイタチ来たらどうすんだよ」

「あ、あのう」

「なんだよ、ピザ屋。そもそもおめえが紛らわしいからいけねえんだぞ。このバカ」

「そ、そんな。私はただご注文頂いた商品を届けに来ただけで」

「そうッスよ。服部さんは悪くないッスよ」

「うるせえな、何なんだよ、服部って」

「あ、私です」

「うるせえ。わかるわそのくらい。制服に名札がついているじゃねえか」

「すいません」

「そんな服部さんをイジメなくても。ピザ届けに来たのにいきなり殴られて部屋に押し込まれたんだもん、服部さんの方が謝って欲しいよねえ?」

「い、いえ。私は別に」

「どっちの側だお前は。だいたいこんなオッサンの宅配員なんてヒットマンって決まってんだよ。カマイタチだって思うだろうが、普通」

「でも違ったッスよ」

「うるせえ。誰にでも間違いはあるんだよ」

「ゴメンね、服部さん。ピザ食べる?」

「あ、いえ。私は結構です」

「当たり前だ。なんでピザ屋にピザ食わすんだよ。ってたくいい年してピザ屋なんかやってんじゃねえよ」

「なんで服部さんはピザ屋を始めたの?」

「あ、いえ。私はアルバイトで」

「バイト?店長さんかと思った。なんか貫禄あるし」

「ちっ。小遣い稼ぎなら違うバイトにしろよ」

「あの、これが私の本業なんです」

「え?なんで?」

「リストラです。会社をクビになったんです。ツテを頼ったりもしたんですがこの年で再就職はなかなか厳しくて。それでようやく見つけたのがこちらのアルバイトという訳で」

「大変だったね、服部さん」

「服部さんよ。失礼だけどあんたいくつだい?」

「五十五です」

「勤めてどのくらいだい?」

「えっと高校卒業してからお世話になっていましたから三十七年ですかね」

「まったくどうなってんだよ。三十七年も勤めあげた定年も近い社員をリストラなんかにかけやがって。血も涙もねえとはこの事だ。ふざけてやがる」

「わあっ。急に立つからコーラが溢れちゃったッス」

「ほっとけ、そんなもん。ノド渇いたら水でも飲んどけ。おう、服部さんよ。その会社の名前教えろよ。さっきの治療代代わりに俺が乗り込んでちょっと話しつけてやるからよ」

「あ、俺も行くッス」

「やめてください。もう済んだ事ですから」

「何あまっちょろい事言ってんだよ。そんなんだから貧乏クジ引くんだよ」

「そんな事言っても」

「あ、服部さん泣いちゃった」

「なんだよ、泣くなよ。ほら、ティッシュで拭けよ」

「すいません」

「服部さん謝んないでよ」

「いや、娘にも同じ事言われたんで、つい」

「ああ?親父に何て口の聞き方しやがるんだ」

「同じ事言ったんだからあんま説得力ないッス」

「うるせえ。それとこれとは話しが違うんだよ。クビにされた会社を「お世話になった」何てそうそう言えるもんじゃねえんだ。そんなデキた親父にいっちょ前の口聞くなんざ世の中をわかってねえバカ娘だ」

「すいません。遅くにできた子なのでつい甘やかしてしまって」

「娘さんいくつなの?」

「十五です」

「十五?じゃあアケミと一緒だ」

「あ、そうなんですか。もしかしたら一緒の学校かもしれませんね」

「どこ中?」

「うちは第二中学です」

「あ、アケミと一緒だ」

「これは奇遇ですね」

「ひょっとして友達だったりして。部活とかやってる?」

「コラコラ。ローカルネタで盛り上がるな。俺が入れない。ん?て事は四十の時の子なのか」

「ええ。結婚は二十四だったんですがなかなか子宝に恵まれなくて。病院にも通ったんですが当時はまだ不妊治療が進んでいませんでしたし思うようにいかなくて。それで諦めていたんですが四十前にようやく夢が叶ったんです。うまれた娘を抱いた時は本当に天にも昇るような気持ちで」

「服部さんまた泣いてる」

「鼻も垂れてんぞ。ほれ、ティッシュ」

「申し訳ない」

「じゃあ服部さんこれから物入りってやつだね」

「おう、そうだよ。学費もかかるし、色気づいて小遣いせびってくるぞ。どうすんだよ」

「いえ、まだ仕事を持ってますから」

「ええ?服部さん二つも仕事しているの?」

「あの、違う仕事はあまり体力を使いませんし、若い時からやってますから慣れてますし」

「じゃあバイトしなくていいじゃん」

「でも不定期なんでちょっと。やっぱりアルバイトでも毎日働いている方が性に合ってますし」

「えらいな、服部さんは」

「ほんとだな。おう服部さんよ。さっきは悪かったな。餞別代わりだ。これやるよ」

「うわ、拳銃」

「ちょちょっと。困ります。こんなものを」

「いいじゃねえか。売ればちっとは入学金の足しになるだろ」

「良くないッスよ。カマイタチ来たらどうするんすか」

「さっきお前にロックの解除の仕方マイクに訊けって言っただろ?ついでにもう一丁持ってきてもらえよ」

「そんな。マイクはピザ屋じゃないッス」

「金がねえんだよ今」

「俺もないッス」

「じゃあピザの支払いどうすんだよ」

「あ、あの。一度当店をご利用いただいているお客さまですと会員登録されていますのでお支払いは月末にまとめて請求させていただいております」

「あ、それなら大丈夫。俺もアケミもしょっちゅう頼んでいるから」

「あの。私そろそろ本当に戻らないと」

「おう。そうか。じゃあこれ」

「いえ、ですから拳銃は」

「いいから持っていけよ」

「困ります」

「あんたが受け取ってくれねえと俺の方が困るんだよ」

「この事は誰にも言いませんから。勘弁してください」

「そうッスよ。服部さんがかわいそうッス」

「うるせえな。お前は早くマイクに電話しろよ。俺は服部さんと話しをつける」

「もう。しょうがないな。あれ?なんだ、アケミから着信あったんだ」



「あ、もしもしお兄ちゃん?」

「おう。なに?」

「今どこ?」

「まだアジトだよ」

「まだいるの?早く帰って来てよ。あたしお腹空いちゃった」

「う~ん。今日はちょっとムリ。今日カマイタチが来るから」

「なにそれ?お兄ちゃん天気がわかるの?」

「わかんねえけど。まあいいや。なんか適当に食べててくれよ。ほんでちゃんと鍵かけてな」

「わかってるよ。じゃあお兄ちゃんのピザは頼まないね」

「は?ちょっとまて」

「え?頼むの?」

「じゃなくて。頼んでねえの?」

「何を?」

「ピザ」

「頼んでないよ。だってお兄ちゃんうちにいないじゃん」

「でも俺アジトにいるじゃん」

「あたしアジトがどこか知らないもん」

「え?この前言ったじゃん」

「覚えてないよ、そんなの。あたし受験だから覚える事いっぱいだもん。そんな余裕ない」

「え?え?どういう事だろ」

「何が?」

「服部さんだよ」

「服部さん?」

「じゃあ服部さん、誰に頼まれてここにピザ届けたんだろうな?おかしいなぁ」



おわり


読んでくださりありがとうございました。

同様の作品が星空文庫にて掲載しております。

この作品は小説とは少し違うかもしれませんが大目にみて下さい。

ご意見ご感想等ありましたら是非。

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