第三話 異世界行かなきゃ地球人は話にならないとさ。つまり魔王相手じゃなくても死因は選り取り見取り
私立異世界学園。それは三時間目まで通常授業で、四、五時間目はそれぞれの選択した科目別の授業に分かれて履修することになる。
生物か物理、書写か音楽か美術か。では当然無く、武器か魔法か、そしてそこから前衛か中衛か後衛、攻撃か妨害か補助回復かに細かく分かれていく。魔法剣士なんて目指してる人は戦士の前衛を取って後で魔法の攻撃を取った友人に教えてもらったりするなんて回りくどいことをするなんて聞いた。
そして俺が選んだ科目は魔法の、攻撃だった。
どうせ剣に関しては親友に勇者(笑)がいるから教えてもらうつもりだし、そうなるとやっぱり魔法が重要だと思う。
で、三時間目も終わって昼食と昼休みを挟んで四時間目。ネロさんにどこかを聞いたら道案内をしてくれたためスムーズに辿り着き、そこで別室に案内された。
「トードーミノルさんですね?」
「そうですけど……」
そこは準備室だった。本が無造作に積まれていて、紙がちらほらはみ出していたり、机は最低限の場所以外は何かの液体が置いてあったりする。整頓しないのか。
「私は魔法攻撃科の副教師を担当する重重 朔です」
「こ、個性的な名前ですね」
かさねがさねのり。どんな字を書くのだろうか、と聞くと空中に重重朔と書いてくれた。反転してたので最初はわかりにくく、注意深く見ていたらこちらから見るようにと咳払いを頂いた。件の重重先生であるが、長さは肩にその身を委ねてちょっと下で、あぁ異世界の人だなと一発で解る海のような濃紺の髪が印象的だった。目は細くて、きっと結婚して子供が出来たらおっとりな母になるんじゃね? と思わずにはいられない。若い子みたく唇は瑞々しくないなのが欠点である。
「さて……」
重重先生は席についた俺をなめ回す様に見てうーんやらおーんやら眉間に皺を作った後、名探偵が謎解きを始める前の枕言葉を紡いだ後に事務的口調で俺を突き放した。
「このままだとまず死にますねトードーミノル君は」
流暢に喋るかと思いきや人の名前を言う時だけ妙に片言な副教師の言葉に思わず固まる。オブラートもビックリな程の直球。いや、死ぬって愉快じゃないですね。なんとなくわかってはいましたけどどうすればいいのだろうか。
「まず渡世もしてない時点で身体はこちら準拠、武術の心得も無し。頑張れば平均になれる、とは思いますけど……」
まず身体の耐久度をなんとかしないと駄目ですねー、と顎に指を添える。
この先生は人の意欲を奪うことに関してはプロな気しかしない。魔法! 魔法だよ魔法! なんて密かに踊ってた時の俺が惨めで仕方がない。意気消沈している俺に居た堪れなくなったのか、副教師は目前に置かれたホワイトボードに筆を滑らせ、天使の笑みを向けた。
「けれど最初は座学から。良かったですね、遅れが二ヶ月程度ですからまだマシですよ」
「マシじゃなかったらどうなるんですか?」
思わず言葉を返す。どうやら八月までは連れてこられた人が即時編入されて補習と言う名の地獄を味わえるんだって。知識を植え付ける魔法があるにはあるが一気に植えると脳が壊れてしまうらしく、結局はこうやって教えるのが良いそうだ。
しかし、あくまでそれは一気に植えた場合のみ。全ての授業では効果をかなり抑えた知識の植え付け魔法を行使しているそうで、それこそ真面目に受ければ理解しているいないに関わらず記憶はするらしい。これ秘密ですよ? とウィンクした重重先生が年に反して可愛かった。
「それじゃあ基礎の基礎、トードー君はこちらの世界の人だから属性はわかるかな?」
「物語まんまでしたら火・水・土・風・闇・光の六つが出ますね」
「はい、それらと同じく少なくともこの学校の生徒がいた世界では最低でもその六属性はありましたね」
世界によって音とか空間だとか、血とか昼とか夜とか無数にあるんですよーと補足してくれた。まさか昼や夜なんてのも属性に含まれるとは世界は複雑である。後は火には爆、水には氷、風には雷、土には岩と呼ばれる属性も含まれているとか云々。まるで中学生が格好良い小説書こうとした時にある属性を多く設定しておけば見栄えが良いよなーみたいな気がして何となく鬱になった。まだ時空だとか聖だとか希少な意味での『無』だとかが出ないだけ良いんだろうけど。既にこう、肋骨の裏が痒い。
「次は魔法系統です。これは地球の人でも知らないんじゃないと思いますから簡単に説明しますね」
つらつらとホワイトボードにマジックペンを滑らせながら、重重先生は説明をしていく。
魔力をどう使うのかのと、どう魔法を発動させるかで魔法の系統が別れる。学校で教えているのは魔力結合型詠唱魔法。つまり空気中の魔力と体内にある魔力をくっつけて、魔法と言うイメージを実際に起こすといったものだ。詠唱は別に魔法によって固有なんて訳はなく、よりイメージ出来るなら何でも良いらしい。もちろん詠唱破棄は不可能。技量的な、ではなく根本から無理なのだ。
他にも魔力を放出して祈祷する系統、魔力を何かに保持して有事の際にすぐ使える系統とかあるらしいけれどそれは知らなくても良いとのこと。後者はちょっと興味がある。お札とかあんな感じなのだろうか。
それから一通りの基礎を教えてもらった後、ここからが重要ですと言わんばかりに表情を改めた先生に部屋の空気が少し変わる。
「異世界人は魔法がある世界に生まれたために物心ついた時から無意識に魔力を皮膚や衣服に張り巡らせ、魔法への抵抗力を高めます。少なくとも下級の火魔法で火達磨なんてありえませんし、自然治癒能力もここの人に比べれば遙かに上です。地球人は異世界に渡ればそれらの特性も得られるのですが……」
「俺はそんな体験してませんから……つまり」
「えぇ、雷魔法なんて直撃したらまず感電死、火魔法を服に当てられたら松明になれますね」
もう今日で一生分は死ぬって聞いた気がする。とは言え、どうしてそう言えるのかわかるので悪い気はしない。ぞっとする話ではある。考えてもみてほしい。下級の小さな魔法でも俺は死ねるのだから、大なり小なり魔法を使える生徒が多いここは命の危険しかない場所だ。オマケに剣とか槍とか物理的にも脅かされるのだから洒落にならない。
「さてーーーさっき良くて平均と言いましたけど実はそれ以上へ行けるある方法があります」
もし些細な喧嘩で魔法でも放たれたら……。顔を幾分か青ざめさせた俺に対し、今度は試す様な口ぶりで重重先生が俺に話しかけた。