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第一話 勇者は珍しくないらしい。確かに俺も勇者よりリアル獣人に興味そそられた

 世界ってのは不思議で満ち溢れていると思う。ピラミッドだとかモアイだとか驚異の螺旋階段だとか、タイムトラベルしてきた爆撃機や嵐の中に入ってそのまま消えた某国兵達、タンスに入って瞬間移動した少女等々。検索すれば掃いて捨てるぐらいある。

 けれど、一番不思議なのは世界そのものだと俺は感じた。


 話は変わって親友の話へ。どうか、次の言葉を聞いて頭を疑ったりしないでほしい。いいか、絶対だぞ?


 ……俺の親友はある日突然消えたと思ったら、それから少し経って唐突に帰ってきた。俺の部屋に、比喩じゃなくいきなり現れた。しかも美少女三人のオマケ付き。

 話を聞けばこことは違う別の世界で勇者やって魔王倒して世界救ってきました、と。理解力と適応力に定評のある俺は魔法を見せて貰った時点でそれを信じた。手品かとも思ったがそこは一緒に現れた謎の少女達に一旦退室してもらい、素っ裸でもう一回やらせたから間違いはない。種も仕掛けもなかった。


 まぁその後ちょっと大変だったんだわ。黒服のいかにもな人達に意識を奪われ拉致、気が付けばほらいつもの自宅ではなく広くていろいろ飾ってある知らない場所で目の前には部屋とは似付かない小学校低学年ぐらいの少女がソファーに深く座っていた。

 まずにその少女は学園長だと述べ、自分の持つ学園へ通わないかと言ってきた。俺としては手荒な歓迎について文句を言いたかったが、それを口に出す勇気はなかった。けど断ったらどうなるのかと聞いて微笑んだ少女を見て、話を断る勇気はもっとなかった。


 

 そして気になったのよ俺は。人を問答無用で拉致って半強制的に編入させるってんじゃあ……ねぇ? どんなとこなのか覚悟を決める意味でも聞かなきゃならない。


「そうじゃな……異世界から迷い込んできた者やそこから帰ってきた者、後は地球にいながら魔法や何かしらの能力を行使する者達の集まる場所、じゃよ。でなきゃお主を連れて来る訳がない」


 ここでようやく冒頭に戻る。少女(自称学園長)の話を丸飲みにするなら一つの学園を作れる程ファンタジーな人間がいるってことになる。少なくとも俺は実際に別の世界があるとか魔法は実在するとか聞いた事は無い。周りでも聞いた事はないしネットでもそんな話は書いてなかったから大多数の人間は気付いてなさそうだし。いやぁ、世界って不思議だよねぇ……。 しかしそうなると不思議が一つ。


「でも俺は魔法に目覚めてませんし、ましてや異世界行った事なんてありませんが?」


 切り札、と言うには烏滸がましい抵抗。俺は絶対に通いたくない。魔法なんて確かに憧れるが実際は危険極まり無いじゃないか。火球を飛ばすだとか雷を走らせるだとか人の脆い体に当たったなんて考えるとぞっとする。だからもしかしたらと希望をかけたんだが……


「本来ならば、の。じゃがお主は帰還してきた瞬間と異世界人を実際に見てしまっておる。」


 残念じゃがと台詞を締めくくって目を伏せた少女はしかし次の瞬間にはこちらをしっかりと見て再度俺に問うた。


 この島の学園に通わないか。

 異世界人は気難しい奴もいるが基本良い奴ばかりだから心配はないからと。

 ごくりと飲み込んだ唾がやけに引っかかる。どうしようかと数瞬迷った後に、答えを出した。


「俺はーーー」







東堂(とうどう) (みのる)です。ただ親友が異世界から帰還した瞬間を見ただけで連れてこられました。魔法は使えないでよろしくお願いします」


 それから数日。少女(自称以下略)の笑顔を思い出した俺は自己保身のために頷かざるを得なかった。命を大事に、はRPGの作戦コマンドにある程大事なことなのだ。しかし挨拶が少し無愛想になってしまった気がする。とは言え、普通とは違う学校なのだから何を言ったら良いのか検討もつかない。ざわざわとにわかにうるさくなった教室ではあるが、すぐに担任の先生によって静けさを取り戻す。


「はいはーい、お喋りは後で後で! じゃあ実君はもう一人の転校生の後ろ、かな?」


 気でも遣ってくれたのだろうか、窓から数えて二列目の最後尾を指して……指して……。


「あ、あの」


「何かな?」


「なんか、俺の前に座ってる人が屍になってる気がするんですが……まさかあれ、信濃じゃあないですよね?」


 机につっぷし、負のオーラを纏ってぴくりとも動いていない。何をしたらそうなるのか、気になる程の落ち込み様。何人かの生徒は憐憫の視線を向けているが、いかんせんどんよりし過ぎて声をかけるのに躊躇いが生じている、ってところか。


「あれは……一種の洗礼みたいなもの、かしら。他の人に聞けばわかると思うわ」


 決まり悪そうに答える先生の表情には何とも言えないモノが浮かんでいて、今まで何度も見てきたのだと容易に推測出来た。あれに、声かけるのは流石の俺も出来ないから他の人に聞いてみるか。

 とりあえず自己紹介は終わっていたし、ずっと前にいて視線を集めたくはなかったのでとりあえず示された席へ向かい着席。詰まっていた息を盛大に吐き出した。


 しかし嫌だ。何がって目の前の親友がだ。暗い、暗すぎる。自己紹介に失敗したとしてもこの落ち込み様は視界に入れたくない。

 どうするか悩んでいたところでホームルームは終了。そして転校生のお約束と言うべきか、クラスの人間(?)が数割程俺に向かってきた。クエスチョンマークが付くのは仕様だ。だって中には顔が思いっきり虎の人がいたもん。いや本当にビビった。迫力に圧されて若干後ずさりしてしまったが虎のお方は笑いながら背中を叩いてくれた。かなり痛かったが悪い人(?)ではないのだろう。


「少し聞きたいのだけど……」


「うん、何かな?」


 そして今話しているのは虎のお方ではなく俺の右隣に座る尻尾と耳が特徴的な背の高い女の人。確か名前はネロ、だったっけ。薄茶の髪はさらっと腰まで伸びており、凛々しい顔が印象的。彼女のすぐ横の窓には彼女が使うのであろう大太刀と言うべき刀が立てかけられていた。銃刀法って知ってますか? と聞きたいが片言でジュートーホー? 等と聞き返されたらと思うと怖くて聞けない。


「いえ、俺の親友が何であんなになってたのか気になったもので」


「? あぁ、不破(ふわ) 信濃(しなの)の事か」


 不破 信濃。俺の親友の名にして異世界アーなんとかの英雄の名前。召喚された彼は二つ返事で魔王討伐を了承し、ハーレムを築きつつ旅を続けその果てに魔王を討って世に安息をもたらしたと言う……。

 そんな英雄が、どうしてあんなになっているのか。非常に気になったがネロさんは事も無さ気に答えた。


「簡単さ。彼が壇上で勇者なんて言ってしまったからさ」


 はい……?


「考えてさ。この学校はどんなところだい?」


「どんなって……」


 人種や次元の壁を越えて異世界人や魔法に目覚めちゃった人達を集めた場所だろ? 後は異世界に行ったけど戻ってきた人とか。


「うん、まさしくその通りだね。はてさて、異世界召喚されて戻ってきたこの世界の人と言うのは少ないけれど両手で数えられないくらいは居てね?」


「……つまり、勇者は珍しくない、と?」


 その通りさ、と得意そうに言う彼女に納得した。そういやそうだよなぁと。それに異世界人自体が勇者や英雄の類かもしれない。どうやらこの学園に限っては勇者など普遍的肩書きなのかもしれない。心中察するよ信濃。

 南無南無と合掌した俺は再びネロさんに視線を移す。現代の若者に良くある猫背などではなく、ぴしっと背筋を伸ばして座る姿は侍の一言が当てはまりそうだ。と、こちらの視線に気付いたのかまだ何かあるのかい? とこちらを向いた首を傾けたネロさんに慌てて視線を外す。


「ふむ、東堂は視姦が趣味なのかな?」


「断じてちげぇ!」


 ぼそり、と呟くそれは恐ろしい一言。止めてください俺に変態のレッテルが貼られちゃいます。初日でそれはマジ勘弁。


「それにしては情熱的な視線だったじゃあないか。どこを見ていたんだい?」


「尻尾と耳、ですね。獣人だなんて空想上の人種でしたから」


 何やら視て辱める的な扱いを俺がしていたと、自身の肩を抱きながら悪戯っぽく笑うネロさんに突っ込み気力すら起きない。突っ込み役だってたまにはストライキとかしたくなるんだよ。


「ふふ、ここに来た地球人は皆それを言うよ。だが私程度で驚いては先が大変だよ。何せ……」


 一瞬きょとん、としたネロさんだがその後すぐに自身の頭頂部にある丸みがかった三角の耳を軽く触りながら窓の外を見ている。その目は何というか、今から言う事に対する反応が楽しみで仕方なさそうな……。いや、なんか凄い不安になってきた。何がいるってんだ。


「ここには魔王すらもいるのだからね」


 ……はい?

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