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プロローグ

「じゃあ転校生クン、入って来て」


 とある日、前後にある教室の入り口。その前の入り口から彼は足を踏み入れた。ふと、彼は自分の喉がカラカラに渇いている事に気付く。教室と廊下を明確に区別するドアの敷居を跨ぐためにと動かした足は微かに震えていて。


 ーー“勇者”って言っても所詮は人間だよな


 そんな自分の様子に彼は苦笑いを浮かべる。死と隣合わせの旅を2年に渡って続け、その旅の果てには今まで戦ってきた誰よりも強い魔王との戦い。今までの戦闘が児戯に等しい程苦しい死闘を繰り広げ、3人の仲間ともぎ取った勝利。魔王を倒した事よりも生き残った喜びの方が大きかった……。


 無意識に過去を思い返していたため動かない彼に、怪訝な表情を浮かべる担任となるであろう先生。それから浴びせられる視線に、彼は我に帰ると視線で謝りながら身体を動かす。


 あの日、魔王討伐を終えて無事に元の世界へと戻ってきた彼を待っていたのは黒い服に身を包んだ関わってはいけなそうな男達だった。訳がわからぬ内に拉致され、目隠しされた挙げ句何かを嗅がされて意識を奪われ、気がついた時にはどこかもわからぬ学校っぽいところだった。そこで年端も行かぬ少女に提案される。


 異世界から帰ってきた人や異世界から迷い込んできた人達だけが通う学校がここにはあるから通わないか、と。


 旅先で手に入れた(あいぼう)は手放したくなかったし、魔法を隠す必要もない。何より自分は世界を救った勇者なのだから。

 だから彼はその提案を受け、この学園へと通う事にした。


 そして彼は教室に入る。約40人程の生徒が座っており、その全員。つまり80の目から視線を一身に受ける。凱旋パレードではこれの数十倍の視線を浴びたのに。それなのに彼は緊張し、かすかに震えた。


 自分は勇者、この程度で震えてどうするか!


 心の中で自身を一喝。震えを抑えた彼はきっ、と教室内を見据えて勢い良く腹から声を出す。


城内 明(しろうちあきら! 異世界ユードで魔王を倒した勇者です! よろしく!」


 決まった。可もなく不可もなくではあるが、どもらずにはっきりと言うことが出来た。

 救世の勇者。皆も尊敬するような目で見るか、憧れを抱くだろう……と、彼は思っていた。




 よろしくの一言と共に下げた頭を上げるまでは。


■□■□■□■□■□


 教室内を巡る空気は一言で表すならば倦厭だった。例えるならば小さな地震に対するような。来た一瞬は興味惹かれるものの、すぐ取るに足らない事だとわかった時のような「なんだまたか」の空気。城内明はそれに酷く困惑し、思考に空白が生まれて動きが止まっていた。


(あーあ、かわいそうに)


 そして奇妙な膠着状態の中、窓側最右列最後尾。そこに座る特徴がないのが特徴とも言えるべき中肉中背の青年が同情を顔に浮かべながら城内明を一瞥した。彼にとっては二年前の親友を“また”見ている気分になったため、同じ反応を浴びた者同士ーー厳密にはこの青年が浴びた訳ではないーーが、複雑な心境である。


 と、その青年の前から隠す気がないとわかる程大きなため息が漏れた。青年はこれも毎度の事だ、と気にしない。この空気に晒された事のある青年の親友だったからだ。約二年前、青年と共にこの学校へ編入した青年の親友は黒板前に立つ城内明と同じく、異世界を救った勇者だった。


(ここじゃあ、勇者なんて当たり前(・・・・)なんだよなぁ……)


 いい加減学園側は事前に転校生へ説明しろよ、と目の前の親友とは別の意味で嘆息。その拍子に、二年前へと意識が向かう。


 それは彼の世界が一瞬で塗り変えられた日。

 それは非現実と現実の折り混ざった不思議な日の始まり。

 それは今は手放せなくなる新たな日常の始まり。


 ーー尤もいくら大仰に語ったところで別に伝説とかは無いのだが。それでも彼にとって大事な思い出であった。

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