ローゼリッタの復讐劇~拝啓、妹へ愛を込めて~
「ローゼリッタは出来損ないだから…」
「困ったわ…お嫁に行かせられるかしら?」
ローゼリッタの両親はいつも頭を抱えていた。
妹に恥をかかせる出来損ないの娘だったから。
「お姉様って、本当に要領が悪いのね」
ローゼリッタに大切なお菓子を食べられてしまったと両親に泣きついていた、妹のニーナが笑う。
いつも…いつもそうだった。
ニーナは私を悪者にして笑っていた。
私は、誰とも争いたくなくて、「ごめんなさい」と毎回頭を下げる。
両親が呆れてため息を吐いた。
「これでは嫁に行かせられない」と
そういう運命なのだと思っていた。
妹が一番で、私は悪者。
それでいいと。
でも…今は違う。
私の人生は変わってしまった。
国の危機を乗り切ったお祝いパーティーの席で、妹は感嘆の声を漏らした。
国を救ってくれた妖精王様に一目ぼれしたからだ。
妖精王様はとても美しかった。
藍色の髪と瞳。
気品のある立ち姿。
漂うカリスマ性は国王陛下よりも光って見えた。
彼は、聖女様の隣で蜂蜜の様に優しい微笑みを浮かべている。
「私、妖精王様と結婚するわ…」
夢見心地でニーナが呟く。
これは合図だ。ニーナが私を踏み台にする時の。
パーティーが始まり、貴族たちがこぞって妖精王様に挨拶をする。
私達二人も、そわそわしながら順番を待っていた。
ようやく順番が回って来た時、ニーナはわざと妖精王様の前でこけた。
後ろにいた私はああ、始まった。と目を伏せる。
「きゃっ」
「「ニーナ!!」」
両親が慌てて駆け寄る。
ニーナは両親の手を取って涙を流した。
「酷いわ、お姉さま。いきなり突き飛ばすだなんて」
「ローゼリッタ!何をしているんだ!妖精王様の御前だぞ!」
「ごめんなさい…」
慌てふためく両親と妖精王様に頭を下げる。
大丈夫。いつもの事だから。
「全く…不出来な娘をお許しください。妖精王様」
「構わないよ」
妖精王様がすっと目を細める。
ぞくりとするほど美しく、色気のある微笑みだった。
その目に見つめられ、私は居心地が悪くなった。
彼に恋したわけでは無く、どこか…心を見透かされている様な気がしたから。
「寛大なお心に感謝いたします」
父が頭を下げて、挨拶が終わる。
しかし、ニーナはそれだけでは満足できなかった。
「もっと、妖精王様に見て貰いたいわ…」
うわごとのように呟くと、次は持っていたグラスを自分に振りかける。
「きゃぁぁぁ!!」
会場全体にニーナの悲鳴が響き渡る。
全ての視線を奪い去り、全員がニーナと私を見つめて何事だと騒いでいる。
大丈夫。これもいつもの事だから。
「ローゼリッタ!!今度は何をしたんだ!」
何も聞かないまま父親は私がまた粗相をしたのだと叱りつけた。
「お姉さまが!私のドレスにジュースをかけたの!妖精王様に見初められたくて!」
おやおやと言いながら、妖精王様が腰を上げた。
私は他人事のようにそれを見つめる。
「お祝いの席で騒ぎを起こしてしまい、申し訳ございません。どうか…どうかご容赦を!」
「お姉さまを許してください!」
父とニーナが妖精王様に頭を下げる。
「ローゼリッタ!何をしているんだ!お前も謝るんだ!」
父の怒号が響き、いつものように頭を下げようとしたその時、妖精王様が呟いた。
「私の隣に立つ?その程度で?」
妖精王様は侍女からワインを奪い取り、私に向かってグラスを傾ける。
お気に入りのピンクのドレスがあっという間に赤く染まった。
私の心にヒビが入った。
「妖精王様!何を!」
父が驚きの声を上げる。
妖精王様は、特に気にした様子も無く。
「どうしたんだい?これで痛み分けだ」
何も問題はないだろう?と周りに向かって言う。
妖精王様のしたことだ。誰も文句は言えなかった。
「私は人の心に敏感でね。わざと自分に零しただろう?手に持ったグラスでよく分かるよ」
蛙を睨む蛇の様な形相で妖精王様はニーナに問いかける。
確かに、ニーナの手には空になったグラスが握られている。
妹は何も言えずに震えていた。
「もっと狡猾になりなさい。私を騙し通すくらいに」
妖精王様は背筋が凍る笑みを浮かべて去って行った。
ボキリと胸から音がする。
「狡猾になれ…」
妖精王様は私の目を見てそう言った。
妹への恨みが…憎しみが、濁流の様に押し寄せてくる。
お菓子を食べたのは私じゃない!
妹は自分でこけたの!
私は…私は全然悪くない!!!
そうよ、何故こんなにも我慢をしていたの?
私は出来損ないなんかじゃない。
全部妹の自作自演だ!
「もう、我慢はしないわ」
心の奥底から湧き上がる憎悪をぎゅっと握りしめる。
「絶対、絶対見返してやる」
完膚なきまでに潰して差し上げよう。
妹を見返して、完璧なご令嬢になって見せるわ。
妹を見つめて私は言った。
「可哀想なニーナ。私が慰めてあげるわ」
もう妹の好きにはさせない。




