表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/48

第5話:12617

「必要です。小説を書く際に、起承転結をどうするか考える必要がありますよね? それ以外にも、作品のテーマは何なのか、主要なキャラクターは何人いるのか……みたいに事前に考えておくべき情報をなんとなくでもいいからまとめたのがプロットです」


 ペンを走らせながら言葉を返す。ユーナは「へえ〜」と言って興味深そうな表情を浮かべた。


「たしかに事前に考えておくべき情報はありますが、それをまとめるという発想は目から鱗ですね。この世界でそういうことを実践している人は少ないと思いますよ。さすがベール様です」


「いやいや、何もすごくないです。それに、プロットを作成しなくても面白い小説を書いてる人は沢山いますから。人によりけりですね」


「そうなんですか?」


「はい。それが小説を書くって行為の奥深いところなんですよ」


「へええ……勉強になります」


 不思議なペンの感覚に戸惑いながら、20分ほどかけて僕は大まかなプロットを作成し終えた。全体の12分の1の時間を消費したとはいえ、僕は全く焦っていなかった。焦らずプロットを作成することの重要性は身に染みている。ここで時間をかけてでもしっかりプロットを作成することが、後々活きてくるのだ。


「よし、じゃあそろそろ本文を書きますね」


「お! いよいよですね! ベール様の真価を遂に見ることが出来るわけですね!」


 僕の傍に座り込んでいるユーナは、目を輝かせて嬉しそうに言った。


「どんな話なんですか! 龍をどうやって物語に登場させるんですか!」


「え……それは言えません。先に言っちゃったら面白くないですよ」


「あ、たしかにそれもそうか。じゃあ後のお楽しみということで!」


 ユーナは明るく言い、僕から離れた。僕はひたすらペンを走らせた。意味不明すぎる状況に置かれているものの、小説を書いている間は小説の世界に没頭出来た。


 やがて僕は時間をかけて小説を書き上げた。びっしりと文字が書かれた原稿を、ユーナの指示でジャッジマシンの元へ持って行った。


 4時間で約15000文字を書くのはちょっとしんどいんじゃないか、文字数が多すぎるんじゃないか、と当初僕は思っていたが、支給されたペンが全てを解決してくれた。アイデアが頭に浮かんでさえいれば、ちょっと力を入れるだけでペンが高速で動き文章にしてくれる。本当に不思議な感覚だった。


 さながら郵便ポストの投函口の如く、ジャッジマシンは原稿を提出する用の口を表面に出現させた。ブークはその口に原稿を突っ込み、僕も見よう見まねで原稿を突っ込んで提出した。


「原稿の提出おおきに! 今からワテがジャッジするから、ちょう待っとってな! それぞれが提出してくれた原稿をコピーして吐き出すさかいに、お互いがどんな小説を書いたのか読み比べてみてや!」


 ジャッジマシンは数回飛び跳ねたかと思うと、口から先程とは少し異なる色の紙の束を吐き出した。どうやら対戦相手のブークが書いた小説を読めるらしい。僕はジャッジマシンが吐き出した紙の束を受け取り、地面に座って内容に目を通してみた。


 ユーナは僕の傍に座り、肩を寄せ合うようにして体を近づけブークの原稿に目を通している。距離が近い。切り揃えられた青い髪、卵形の整った顔がすぐ近くにある。そしてなんだかいい匂いがする。


 今まで書いてきた小説の中で、目の前のユーナのようにぐいぐい距離を詰めてくるヒロインを登場させたことはある。しかし、いざ自分が実際にぐいぐい距離を詰められると、とてもドキドキすることを学んだ。


「うわあ……」


「ベール様、どうしましたか?」


「いや、ちょっと……色々酷くて……」


 視点人物の切り替わりの分かりにくさ、設定の矛盾、必要のない過度な修飾や比喩、伏線や布石がゼロな上での設定の後出し、登場人物の突然の人格の改変。


 ブークの原稿は、小説を書く上で避けるべきNG項目を幾つも満たしていた。誤字脱字こそ少ないのがせめてもの救いだった。


「酷い? あの方の書いた小説が面白くないということですか?」


「面白い、面白くない以前に、やっちゃいけないことをやってるって感じですね。読んでて何も思わないですか?」


「うーん……言われてみれば読みにくい気もしますが……何とも言えないですね……」


「そうですか……」


 とはいえ、読み始めてしまった以上、最後まで読まないのは忍びない。というわけでなんとか最後まで読んだ。


 ブークの書いた小説を一言でまとめると、非合法な化学実験によって生み出された龍が街を襲い、それに主人公が立ち向かう、みたいな話だった。アイデアは悪くないと思う。しかし、前述したようにルール違反を何度も犯している上に、文章が読みづらくてオチもいまいちよく分からなかった。


「おいおい……マジかよ……!」


「何なんだよこれ……! 面白すぎるだろ……!」


「こんな小説初めてだ……! 信じられない……!」


 一方、僕が書いた小説を読むブーク、そして取り巻きの2人は、何やら驚いているように見える。


「お待たせ! ジャッジが終わったで〜! 結果発表の時間やで!」


 微動だにしていなかったジャッジマシンが突然ぴょんぴょんと飛び跳ねた。僕とユーナ、ブークと取り巻きの2人がジャッジマシンに近づく。


「ではいくで〜! まずはブーク・アルミレーナはん! 総合評価は53点や! ちょっと振るわなんだやな〜! 残念ながら負けやな、文階が1071から35下がって1036になるで〜!」


「くそ……今日は調子が悪かった……」


 結果を聞いたブークはがっくりと肩を落とした。


「あの、文階って何ですか?」


「その人の文才の高さを具体的に示す数値、と言えばいいでしょうか。ジャッジマシンさんは一度でもテートルをした人の文階を全て記憶していて、テートルの勝敗に応じてその都度お互いの文階が増減するようになってます。ブークさんは敗北したため文階が下がったというわけです」


「へええ……」


 ゲームのレーティングシステムのようなものかな、と僕は思った。小説の執筆の傍ら、某人気RPGゲームの中のレーティングバトルに一時期熱中していた経験がある僕からすれば、そのような指標があると少しだけワクワクしてくる。


「文階の目安はあるんですか? この数値を超えたらすごい、みたいな」


「1000を超えたらまずまずとされています。2000を超えたら優秀、3000を超えたらとても優秀。5000を超える人は滅多にいません」


「なるほど」


「次にベール・ジニアスはん! 聞いて驚いたらあきまへんで……な、な、なんと! 総合評価は100点! 満点やで! 大事件やで! 文階は12617! とんでもないことや! 勝者はベール・ジニアスはんやで〜!」


「「「「えええええええええええええええええええ!?」」」」


 ユーナ、ブーク、取り巻きの2人の叫び声が重なった。次いで、沈黙。4人は言葉を失っているように見える。


「……え、え? どうしたんですか?」


「…………ひゃ、ひゃ、100点!? そんなことあるんですか!? 文才バトルで100点って本当にとれるんですか!? そして文階が12617!? 10000を超えることなんてあるんですか!?」


 混乱する僕の前でユーナが沈黙を破った。驚愕の表情を浮かべ、興奮のせいか色白の頬が少し赤くなっている。


「ユーナちゃんが驚くのも無理ないやんな。ワテも今めっちゃ驚いとんで。せやけど、事実やねんで。100点やねんで」


「信じられません……100点なんて……文階が12617……? そんなの聞いたことがない……私とハグをしたから、一時的に文才を取り戻したということですかね……? きっとそうですよね……?」


 ユーナに視線を向けられるも、僕は首を傾げることしか出来ない。僕に聞かれても困る。僕が1番混乱してるんだから。


「たしかにビックリしましたけど、その評価に相応しい小説だと思いますよ。ちょっと、ありえないくらい面白いので。ユーナ様はまだ読んでませんよね? 読んでみてください」


「よ、読みます! ベール様の小説、読みたいですっ!」


 ユーナは興奮気味に言い、ブークから紙の束を受け取って僕の小説に目を通し始めた。


 主人公は、臆病で孤独を抱える内向的な少女、ドラー。ある時ドラーは、家の近くの浜辺で倒れていた小さな龍に出会う。人語を解する龍をドラーはこっそり家に持ち帰り、世話をする。徐々に龍と打ち解けていくドラー。しかし、日を追うごとに龍の体は大きくなっていき、遂に龍の存在が皆にバレてしまう。邪悪な存在だから龍を殺せ、と皆に言われるも、龍を守るために臆病な性格を打ち破り、勇気を振り絞るドラー。その姿は龍の心を強く揺さぶり、龍は秘められていた力を発揮、奇跡を起こす……。


 僕が書いた小説はこんな感じだ。起承転結がしっかりしていて、オチもそれなりに上手く書けたとは思っている。


「うっ……うう……うぐ……」


 しばらく無言で小説に目を通していたユーナだったが、突然目からぼろぼろと大粒の涙をこぼし始めた。


「ど、どうしたんですか?」


「ベール様……私は今、感動に打ち震えております……! こんな素晴らしい小説を初めて読みました……! やはりベール様には他を寄せ付けない圧倒的な文才がある……! ベール様は英雄です……! パーブルー王国を救ってくださる英雄なんです……! ありがとう……! 本当にありがとう……!」


「え……あ、はあ……」


 まさかそんな反応をされると思ってなかったので、僕は困惑した。圧倒的、と言われてもどうにもピンとこない。僕なんかよりもすごい人は沢山いる。


「ベール・ジニアス様。先程の失礼な言動、どうかお許しください。テートルの結果を受けて貴方が本物のベール・ジニアス様だと確信しました。正真正銘、伝説の英雄です」


 ブーク、そして取り巻きの2人が僕に近づき、ばっと頭を下げた。どうやら意外と丁寧な人たちのようだ。


「いや、そんな、別にいいですよ……気にしてませんし……」


「いえ、よくありません。ベール・ジニアス様に、三下、などと悪口を言ってしまったこと、深く反省しています。本当にすいません……」


「…………」


 言葉に窮する僕、申し訳なさそうにするブークをジャッジマシンは無言で見守っていたが、ふと空に視線を向け、「おお!」と嬉しそうに声を上げた。


「珍しいこともあるんやな! 蒼龍様のお出ましですわ!」


「え!?」


「蒼龍様だと!?」


 ユーナ、ブーク、そして取り巻きの2人が驚きの表情を浮かべる。釣られて僕も空に視線を向け、「嘘……」と呟いた。


 そこには、一体の蒼い龍が浮遊していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ