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第41話:ありとあらゆる

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「何度もお伝えしていますが、改めてもう一度説明させてください。貴方たち5人はパーブルー王国を代表してテートルを戦う戦士です。パーブルー王国の中で、テートルが強い上位5人として選抜されています。替えがきかない存在であることは自明です」


 それから1ヶ月後、国別対抗テートルの当日。僕、ユーナ、僕以外の4人の代表選手、リーロ、イリメ、さらには大量の兵士や王宮の付き人たちが機関車の客車に乗り込み、国別対抗テートルの会場であるリジェンドという場所へ向かっていた。


 リジェンドは、レッディール王国、パーブルー王国、イーエロ王国、ラルドグリ王国、そしてアンクロック王国の5つの王国が交わる場所であり、大陸の中心地点である。加えて国別対抗テートルが行われる会場の名前も同様にリジェンドだ。


 古の時代より神聖な聖地としてこの世界の人々に認知されており、国別対抗テートルは第1回から一貫してリジェンドで行われているらしい。尚、僕たちが乗っている客車を引っ張って走っている機関車の燃料源は勿論ビットだ。


「ビットが極めて重要な資源であることは言わずもがなです。そしてそのビットの配分量を決定する国別対抗テートルも極めて重要。故にそれぞれの王国は、自分たちが少しでもいい成績を出して多くのビットを勝ち取れるようにありとあらゆる策を講じてきます。ありとあらゆる、です」


 普段から険しい表情のイリメだが、今日の表情はより一層厳しい。今日纏っているのは軍服ではなく、熨斗目と半袴に酷似した服を纏っていた。そして腰からは一本の刀を提げている。以前王宮で会った時は兵士、という感じだったが、今は凄腕の侍のような風貌である。


 そして、イリメ以外の兵士は今まで通り軍服を纏っていたが、皆一様に武器を携帯していた。兵士の表情は一様に鋭い。


「少しでも他国の戦力を削ぐために、代表選手が刺殺、撲殺、毒殺、銃殺、斬殺された例は数え切れません。昔と比べて今は各国の警備や護衛の質が向上したため、そのような蛮行が行われることは少なくなりましたが、ゼロではありません。代表選手の5人は、自分は殺されるかもしれない、という意識を常に持ってくださいね」


 イリメに視線を向けられ、僕を含む代表選手5人は頷きを返した。いつもはおちゃらけているジオも今ばかりは真剣な表情でイリメの話に聞き入っていた。


「私を含め、兵士は全力で貴方たちを守ります。しかし、全ての脅威を防げる、とは言い切れません。敵はどこに潜んでいるか分かりませんからね。5人の内1人でも殺されしまった場合は重大な戦力ダウンになります。自分の身は自分で守る意識を……と言いたいところですが」


 イリメはジオ、エペラー、そして僕に視線を向けた。


「ディラーミの達人であるオーカ様、フルブリンドーの達人であるマグ様はなんとかなるとして、残りの3人は少々心配だと思っています」


「…………女が強くて男が弱いとか、恥ずかしくないの」


 マグがぼそっと呟いた。ジオは苦笑を浮かべ、エペラーは「……恥辱だ」と言って顔を歪めた。


「そこで、武道の心得が無い3人でも身を守れる護身用の武器を開発しました。開発の最終調整が予想以上に長引いた関係で、手渡すのが当日になってしまい申し訳ありません」


 イリメが近くの兵士に目で合図を送ると、複数の兵士が持参していたケースから銃のようなものを取り出して見せた。


「これは王宮の技術開発部が開発した護身用の武器、ドリンジャーです。小型の銃だと思ってもらって結構です。引き金に触れた途端銃口から特殊な弾丸が発射され、相手を即座に無力化します。弾は7発装填されています。補充はききますので少しでも身の危険を感じたら即座に使用してください。情けは無用です」


 僕とジオ、そしてエペラーはドリンジャーを受け取った。濃紺の金属が光を反射して鈍く輝いている。自分の自分は守れるからいらない、と言ったオーカとマグにもイリメはドリンジャーを半ば強引に押し付けていた。


「そろそろ到着します。到着した場合、寄り道は一切せずに宿舎へ向かいますのでそのつもりでよろしくお願いします」


 イリメの話が終わり、車内には静寂が訪れた。これから始まる国別対抗テートルに向けて、それぞれ緊張を抱いているのだろうか。僕は傍に座るユーナへ視線を向けた。ユーナは端に座り、ぼーっと景色を眺めているように見えた。声をかけようと思ったが、やめた。


 1ヶ月前、僕がオーカとデートをする約束をしていたことが判明したあの瞬間から、ユーナの態度が変わった。無視されるとかそういうあからさまな態度をとられることこそなかったものの、少しだけ僕から距離を置いているように感じる。


 そのことについて僕が問うことはなかった。オーカの件が関係していることは明らかだったからだ。当の僕に何か言われたところで、ユーナの気持ちが上向くとはとても思えなかった。同じ家で生活していながら、僕はユーナとの間に溝を感じていた。


 それとは対照的に、オーカとはさらに仲良くなれた、気がする。オーカは毎週僕をデートに誘ってきた。ユーナのことが頭に浮かんだものの、それが断る理由になると思えなかった僕は結局オーカの誘いを一度も断らなかった。ユーナは事情を察していたのか、僕が出かける時は決まって寂しげな表情を浮かべていた。


 オーカはデートを重ねるたびに、どんどん積極的になっているように感じる。一度だけ、家に来ないか、とオーカに誘われたことがあるが、熟慮の末に断った。その誘いが何を意味していたのかは、童貞の僕でも分かっているつもりだ。それが分かった上で断った。その決断を下す勇気が僕にはまだなかった、と言うのが正しいだろうか。


 このままじゃ駄目だということは分かってる。煮え切らない態度の僕にオーカが薄ら不満を抱いていることもなんとなく分かってる。オーカが僕にプロポーズをしてからかなり日にちが経っているこの状況は、言うなれば僕が告白の返事をずっと先延ばしにしているということになる。オーカからすれば気持ちのいいことではないだろう。


 僕はオーカからのプロポーズを承諾すべきなのだろうか。僕はオーカのことを好きなのだろうか。ユーナは? ユーナのことは……?


 僕の頭の中は最近ずっとこんな感じだ。誰も傷つかない方法はないか必死に考えているが、思いつかない。どうすればいいのか分からず、かといって誰かに相談出来るわけでもなく、僕は1人延々と思い悩んでいた。


「着きます」


 その時イリメの声が聞こえた。言葉通り客車はぴたっと静止した。イリメの指示に従い、客車から降りる。ホームのような場所に降り立ち、外に出た瞬間、視界に飛び込んできた景色に僕は感嘆の溜め息を漏らした。


 前方には、要塞、とも形容出来るような超巨大な建物が鎮座していた。


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