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第40話:ものごっつ

「ち、ちち、違うんですユーナ! これは、その、違うんです!」


「違う? 何が違うんですか? ベール様、分かりやすく説明してください」


 絶対零度、と表現出来そうなほどユーナの視線は冷たい。一方のオーカはにやにやしながらユーナの様子を見守っている。


 困った。まさか、突然こんな修羅場が訪れてしまうなんて。


「え、えっと、代表選抜大会の時にアクシデントがありまして、その時にオーカに助けてもらって、助けてもらったお礼で、その、で、デートをする約束をしたというか、なんというか……」


 しどろもどろになりながら僕は事の経緯を説明した。変に嘘をついて余計にユーナの怒りを増長させることは避けたかった。


「アクシデント? 聞いてませんが」


「あ……ごめんなさい、ユーナにはまだ話してなかったです……」


「それでどういうアクシデントだったんですか?」


 ハニにハニートラップを仕掛けられたことを言うべきか、否か。それなりにショッキングな出来事だったから、黙っておく方がいいだろうか?


「あ、えと、別に大したアクシデントではないので……」


「…………話してくれないんですね」


 ユーナの表情が暗い。とても暗い。ほんの少しだけ目に涙が浮かんでいるように見えるのは気のせいだろうか?


「つまりベール様は、オーカ様を選ぶということなんですね?」


「い、いや、ちが、そういうわけじゃ……」


「私は邪魔だと思うので、先に帰ります。オーカ様とのデート、楽しんできてくださいね」


「ちょ、待ってください!」


 僕の制止を振り切り、ユーナは部屋から出て行ってしまった。去り際のユーナの寂しげな表情が忘れられなかった。何か取り返しのつかないことをしてしまったような気がして、僕の胸がきゅうううっと締め付けられた。


「ようやっと2人きりになれて嬉しいわ!」


「わわっ!」


 オーカは明るく言い、勢いよく僕に抱きついてきた。


「な、な、何を……!」


「ええやん、誰もおらんねんから。ほらほら、はよデート行こか! オススメのお店があるからそこで美味しいご飯を食べような!」


 オーカは赤面した僕の手をむんずと掴み、部屋から出てぐんぐん歩き出した。


 その後僕とオーカは王宮から少し離れた場所に位置する飲食店で食事をとった。オーカはわざわざ個室の部屋を予約してくれていたみたいで、一般人に見つかって騒がれたりする心配がないのはありがたかった。


 やがて運ばれてきた青まみれの食事に僕とオーカは舌鼓を打った。美味しかった。「今から行く店はものごっつ美味しいで」というオーカの言葉は本当だった。


 オーカは終始楽しそうだった。僕との食事を楽しんでくれているのは素直に嬉しい。女性とこうやって店でランチデートをするのはこれが初めてだったが、そこまで緊張しなかった。何故だろうか。


 極めて美しい女性とのランチデート。元の世界では思っても見なかったシチュエーションを今、体験している。本来なら心が躍ってしょうがなくなるような状況のはずなのに、全然心が躍ってないのはどうしてだろう。


「今日はほんまに楽しかったで! また予定合わしてデートしよな! ばいばい!」


 食事を終えた後、オーカはそう言って去って行った。


 家に戻る道すがら、頭に浮かぶのユーナの顔ばかりだった。僕は何か間違ったことをしているのだろうか? ユーナを悲しませたり、傷つけたりしてしまっているのだろうか?


 歩きながら考える。元の世界にいた時は、女性に好意を寄せられたことなんてただの一度もなかった。悲しいくらい、本当に一度もなかったのだ。それが、異世界に転生したらオーカから求婚され、そして恐らくユーナからも好意を寄せられている。


 神の寵愛を一身に受けたかのような、タイプの違う2人の女性から寄せられる好意に、僕はただただ困惑していた。何で、どうして僕なんかに。どうすればいいのか本当に分からない。僕はいずれ、ユーナかオーカのどちらかを選ばなければならないのだろうか? 陰キャで、彼女いない歴=年齢で童貞の僕が、女性を選ぶ立場になる……?


 ありえない。どうしてこんなことになってしまったんだろう。僕はこの先どうすればいいんだろう。歩きながら悶々と考えたが、終ぞ答えは出なかった。

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