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第39話:ごめん

「国王様、お体の方は大丈夫ですか? 無理なさらないでくださいね」


 イリメはすたすたとリーロに歩み寄って言った。「少し休んだら元気になったから問題はないぞ!」とリーロは明るく返し、安心したのかイリメはほっと息をついた。


「でしたら早速始めましょう。予定通り、まずはチームウェアの配布からでよろしいですか?」


「うむ! 皆のもの、よろしく頼むぞ!」


 リーロが5人の付き人に向かってそう言うと、はっ、と付き人は声を揃え、手にしていたバッグのようなものから何かを取り出した。とても濃い青色の服に見える。


「今からチームウェアを配布します。選ばれし代表選手しか着用が許可されていない特別なウェアですので、取り扱いにはくれぐれも注意してくださいね」


 イリメは言い、付き人がそれぞれの代表選手の所へ行ってウェアを手渡した。ウェアを受け取った僕はそれを広げて見た。服の上から羽織れるような、ローブに限りなく近い形状の服だ。服の上から羽織れるような薄い生地で手触りから、高級な素材が使用されているのがよく分かった。


「それでは早速ウェアを着用してください。事前に把握している情報を踏まえて作成していますのでサイズや着心地は問題ないと思われます」


「何でいきなり着んならんの?」


「代表選手だからです。外にいる時は可能な限りウェアを身につけるのがしきたりとなっていますので」


 イリメにそう言われたオーカは、やや不満げながらもウェアを身に纏った。釣られて僕たち残りの4人もウェアを纏う。1枚服が増えたからといって煩わしいということは全くなく、むしろ少しだけ心地よい感じもした。


「それでは次に、国王様が代表選手1人1人に激励の言葉をかけていきます。国王様、よろしくお願いします」


「うむ!」


 リーロはイリメに明るく返事をし、マグ、エペラー、ジオ、僕の順に激励の言葉をかけていった。内容は似たり寄ったりで、とにかく頑張れ、心から応援している、存分に力を発揮してくれといった内容だった。


 そして、リーロは最後にオーカの前に立った。オーカは腕を組んで視線を逸らし、不満げな表情を浮かべていた。こうして見ると2人は本当にそっくりだ。髪型と服装以外は全く同じ。仮に髪型と服装まで一致していたら見分けるのは不可能だろう。


「……久しぶりじゃな、オーカ」


 リーロはおずおずと口を開いた。


「せやな」


「こうやって再会出来るとは思ってなかったぞ」


「ウチは再会出来る思とった。絶対代表選手になって、ウチを苦しめた奴らに謝ってもらおと思てたから」


「そうか……オーカ、妾はずっとそちに謝りたいと思っていた。ごめん」


 リーロは言い、深々と頭を下げた。はっ、とイリメが大きく息を呑んだ。王国で1番偉い人が、オーカに向かって頭を下げているという状況に驚いているのだろうか。


「リーロが謝る必要はおまへん。ウチが恨んどるんは王家と王宮の人間。リーロは恨んでへんから」


「恨んでない、と口では言っても、そちが妾に負の感情を抱いていることは分かっておる。妾と比較されて苦しかったはずじゃ。だからそちは家出をした。……あれだけそばにいたのに、そちの苦しみに寄り添えてなかったのだと思うと……悲しくて……」


 すん、とリーロは鼻を啜り、同時に頬を一筋の涙が伝った。まさか泣かれるとは想定していなかったのか、「ちょ、ちょっと、何泣いとるん?」とオーカは困惑気味に言う。


「恨んでないって言うとるやん。泣くんは意味が分かれへんわ」


「妾は双子の妹であるそちを心から愛していたのじゃ……生まれた頃からずっと一緒にいたそちを……だからこそ、そちが家出をした時、妾は本当に悲しかった……妾に何か出来ることがあったのではないか、そちが家出なんてせずに済む方法があったのではないか、と……オーカ、ごめん、ごめん……」」


 わああああ、とリーロは泣き出してしまった。僕やユーナをはじめ、この部屋にいる誰もがリーロの感情の発露に言葉を失っていた。


「こないなことになるなんて思てへなんだ、何なん、もう……」


 オーカは言い、ぽりぽりと右手で頭を掻いた。本気で困惑しているように見える。


「ウチはリーロを恨んでないから謝る必要なんておまへん。リーロがそないに泣いとったら皆やりづらいで。はよ泣き止んでや」


「うう……オーカ……オーカ……」


 リーロは一向に泣き止む気配を見せない。はああ、とオーカは盛大に溜め息をつき、「この国のトップはめんどくさい女やなぁ」と呟きながらリーロに歩み寄った。そして泣きじゃくるリーロを優しく抱きしめた。


「昔を思い出すで。リーロは泣き虫で、よぉこないしてウチが抱きしめて慰めとったやんな。なんとのう懐かしいわ」


「オーカ……」


 オーカの声音が、ほんの少しだけ優しくなったように聞こえた。


 リーロはそれから3分ほどで泣き止んだ。リーロはまず取り乱してしまったことを詫び、最後にもう一度激励の言葉をかけ、複数の付き人と一緒に部屋から出ていった。


「やれやれ、泣き虫なところは昔から変わってへんな。しっかりしてるふりだけは上手いねんなぁ、リーロは」


 オーカは呆れたようにそう言ったが、表情と声音に険はなかった。


「オーカ様、本当にありがとうございました。あそこまで感情を発露した国王様に寄り添えたのはオーカ様だけだと思います。助かりました」


「別に礼なんかいれへんわ。それより、これから何をすんの?」


 イリメに頭を下げられたオーカはそっけなく返した。


「これからは代表選手同士で親睦を深めてもらいます。自由にお話しして仲を深めてください。帰宅したくなったらいつでも帰宅してください」


「分かったわ」


「他国とのテートル本番まであと1ヶ月、といってもこちらが何か練習や鍛錬を課すことはしません。選び抜かれた代表選手である貴方たちに、どう過ごすかは全てお任せします。我々の要求はただ1つ、勝ってください、それだけです。それでは失礼します」


 イリメ、そしてその他の王宮の人も一斉に部屋から出て行き、部屋には僕を含む代表選手5人とユーナが残された。


「…………帰る」


 マグはそう呟き、すたすたと扉に向かって歩き出した。「ちょ、ちょっと待て」とエペラーは慌てて言い、マグの前に立ち塞がった。


「……何?」


「自由に話して親睦を深めろ、とさっき言われただろう?」


「……興味がない……早く家に帰りたい……」


「輪を乱すような行動は慎んでもらいたい。他国とのテートルで勝つために、代表選手同士で仲を深めておくのは大事なことだ」


「……私は大事だとは思わない……テートルで結果を出せばいいだけ……馴れ合いに意味はない……」


「馴れ合いとはどういう意味だ? 不愉快だな、そもそも……」


「そこまでにしておいた方がええと思うわ。その女を怒らしたらきっとアンタは半殺しにさせられると思うさかいに。その女は強いで、ムカつくけど」


 オーカが口を挟んだ。よく見ると、マグは不機嫌そうな表情を浮かべている。オーカの言葉が正しいと判断したのか、「……まあ今日は見逃してやる。その態度や行動は改めるべきだと思うが」と言った。マグは言葉を返さずに部屋から出て行った。


「ほっほっほっ! ワガママクールビューティーとはまさにマグのことじゃな! 愉快愉快!」


 ジオは豪快に笑いながらそう言い、「変な奴やな」とオーカは呆れたように言い、「輪を乱す人間は嫌いだ」とエペラーは言ってキザな仕草で髪を掻き上げた。


 僕は確信した。代表選手のメンバーはクセが強い。それも、かなり強い。


 その後僕は、オーカ、マグ、エペラーと言葉を交わした。陰キャの僕が初対面の人と上手く話せるか不安だったが、ユーナやオーカがいい感じに会話を回してくれたのでなんとか話すことが出来た。


「楽しかったわ! それでは次会うのは1ヶ月後じゃな! 頑張ろうのう!」


「ベール・ジニアス、私はお前を認めないからな」


 やがて自然とお開きムードとなり、マグ、そしてエペラーは部屋から出て行った。取り敢えず親睦を深めるタイムは終わったようだ。陰キャながらなんとかそれなりに会話は出来た、と信じたい。


「ベール様、お疲れ様でした。マグ様、エペラー様とちゃんとお話出来ていましたね。偉いですよ」


「さすがはリーダーやな! 偉いわ!」


 ユーナ、オーカに笑顔を向けられ、僕はなんだか嬉し気持ちになった。タイプの異なる2人の美しい女性に褒められて、嬉しくならない男なんていないだろう。


「よーし、ほな今から行こか! 今日はええ天気やしな!」


 オーカは明るく言った。「行く? 何か予定があるのですか?」とユーナは首を傾げる。まずい、その話題はユーナがいないところで、と僕は慌てて制止しようとしたが、間に合わなかった。


「予定あるに決まっとるやん! ベールとデートに行くねん! この前助けたお礼に、デートに行くって約束しとってんなぁ〜! めっちゃ好きなベールとのデート、楽しみやなぁ〜!」


「…………は?」


 ユーナは声を漏らし、氷のように冷たい視線を僕に向けた。背筋が凍った。

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