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第38話:フルブリンドー

「ちゃんと自己紹介出来ましたね、ベール様、偉いですよ」


 ユーナはにこっと笑って言った。どうやら先程の出来事からすっかり気持ちを切り替えているらしい。ユーナの笑顔を見ると少し緊張が解れた。


「ほっほっほっ! 文階12879! まさに化け物! 愉快、実に愉快じゃ! もう買ったも同然じゃな! ほっほっほっ〜!」


「……12879はさすがにやばすぎ、ちょっと引くレベル」


「ふむ、英雄たる所以というわけか。たしかに文階12879はすごいが、文階はあくまで指標。それで全てが決まるわけではない。お前に負けるつもりはないからな」


 ジオ、マグ、エペラーはそれぞれ言葉を返してくれた。よかった、なんとか無事に自己紹介は出来たみたいだ。僕はほっと息をついた。


「ベール様、自己紹介ありがとうございます。自己紹介の内容について質問が思いついたりするかもしれませんが、まずは一旦全員自己紹介を終えましょう。では次に、ジオ様、お願いします」


「あいよ〜!! それでは自己紹介を始めようかのう!」


 ジオは笑みを浮かべながら明るく言った。やけにテンションが高い。


「ワシはジオ・ラムリブルトラじゃ! 7523歳! 最高文階は7311! 書くのが得意なジャンルはSFじゃ! 好きな小説のジャンルは、SFと官能小説! どエロい官能小説が大好物じゃ! そして……かわいくて美人でエロい女性が大好物! ユーナ様は今日も美しくてえエロくて最高じゃ! 以後よろしくぅ!」


 ジオは楽しげに言い、両手の親指をぐっと突き立てた。


 な、何だこの人!? 僕は思わず目を丸くした。なんというか、すごい。官能小説が好き、とはっきり公言出来るのがすごいし、かわいくて美人でエロい女性が大好物と素直に言っちゃうところもすごい。そりゃ、似たような趣向の男は数多くいるだろうし僕もその1人だが、皆の前ではっきり言える人は滅多にいないだろう。


 そして、当のユーナの前で、美しくてエロい発言。なかなかイカつい発言だ。ユーナは大丈夫だろうか、まずいんじゃないか……と思いつつユーナに視線を向けると、案の定ユーナは氷のように冷たい張り付いた笑みを浮かべていた。


「もう少し清楚な言葉遣いを心がけてください、と以前言いましたよね? 私を慕ってくれているのは嬉しいですが、エロい、と面と向かって言われて私が喜ぶとお思いですか? もう少し女性の心の機微というか心理に気を配ってもらえると嬉しいのです」


「ワシには難しい話じゃなぁ。それに、エロい女性にエロいと言って何が悪い、という話じゃろうて! そのパイオツはちょっとエロすぎるからのう!」


 ジオはそう言って豪快に笑った。


 やばい人だ、と僕は思った。言葉を選ばずに言うと、エロジジイだ。よくこんな人が代表選抜大会を勝ち上がれたものだ。文才だけはなく、品格や態度まで審査されていたらジオは真っ先に敗退していたに違いない。


「何なんアンタ、さすがに引くんやけど」


「……きもすぎる、マジ無理」


 オーカ、マグはジオに軽蔑の眼差しを向けた。しかし当のジオはそれで悲しむどころかむしろ喜んでおり、「美女からの軽蔑の視線は最高のご褒美じゃ!」と嬉しそうに言った。色々ヤバすぎる。


 おほん、とイリメは咳払いし、「では次にオーカ様、お願いします」と言った。これ以上ジオを暴走させたくなかったのだろう。


「ウチはオーカ・パーブルーや。1942歳。最高文階は7309。書くのが得意なのはミステリーとか推理もんやな。好きな小説も同じくミステリー。ウチはベールがめっちゃ好きやねん! その内ベールと結婚式を挙げると思うさかいに見に来てな! よろしゅう!」


 オーカは明るく言った。皆の前で何てことを言うんだ、と僕は頭を抱えたくなった。仄かにオーカの頬が赤く染まっているのが、ガチ感を醸し出している。


「ほっほっほっ! 愛とは素晴らしいものじゃなぁ!」


「…………いきなり何言ってんの、きもいんだけど」


 ジオは明るく言い、マグは冷たく言った。マグの言葉を聞き逃さなかったオーカは「はあ?」と言ってマグににじり寄った。


「今何て言うた? 聞こえへなんだからもういっぺん言うてほしいんやけど」


「……きもいって言った……普通そんなこと言わない」


「ええ度胸しとるやん、ウチを怒らしたらどうなるか教えたる」


 オーカは冷たい声でそう言うと、瞬時に姿勢を低くした。まずい。代表選抜大会の会場内のトイレで、ハニに対して攻撃を仕掛けた時と全く同じモーションだ。「す、ストップ!」と慌てて僕は声を張り上げた。


「駄目です、オーカ! ここで喧嘩は駄目です! 気持ちを抑えてください!」


「……ベールがそう言うんやったら、我慢するわ」


 オーカは姿勢をもとに戻し、盛大に溜め息をついた。おほん、とイリメは再び咳払いをした。「では次にマグ様、お願いします」とイリメは言葉を続ける。


「……私はマグ・シャーリル……最高文階は7322……年齢は忘れた、たしか2500歳くらいだった気がする……読むのと書くのが好きなのはホラー……1つ忠告……私は誰にも媚びないし誰も信用しないから……」


 マグはそう言い、ぷいっと視線を逸らした。先程のジオほどではないが、マグも少し変わっているように見える。ふん、とオーカは不満げに鼻を鳴らした。


「誰にも媚びへんし誰も信用せぇへん、ってなんやねん。かっこつけてるつもりなん? ダサいからやめた方がええと思うで」


「……誰々と結婚式挙げるとか言っちゃう人よりはマシだと思うけど……」


「なぁ、その喋り方どないかならんの? さすがにムカつくんやけど。ウチがディラーミの使い手だって分かって挑発しとんの?」


「……この喋り方は生まれつきだからどうにもならない……挑発しているつもりはない……ディラーミの使い手だと知った上で言ってる……ディラーミは時代遅れ……ワタシが会得しているフルブリンドーには絶対に勝てない……」


「はっ、フルブリンドーの方がよっぽど時代遅れやないか。超高速の打撃が売りやとしてもクリーンヒットせな意味があれへん。ウチに攻撃は当たらんわ。全て受け流すさけ」


「……試してもいい……私の攻撃を受け流せるか……」


 再び険悪な雰囲気が流れ出し、「す、ストーップ! 仲良くしましょう仲良く!」とユーナが慌てて割って入った。どうやらオーカとマグは相性が悪いようだ。


「え、えと、イリメ様、次行きましょう次!」


「そうですね。では最後にエペラー様、お願いします」


「私が最後か、最後というのは気に食わないが、まあいいだろう」


 イリメに視線を向けられたエペラーはそう言い、すっと髪を掻き上げた。なんだかキザな仕草だ。


「私はエペラー・キングダークだ。最高文階は7498。年齢は3043歳くらい。あらゆるジャンルの本を読む。あらゆるジャンルの小説を書けるからこれと言って得意なジャンルは無いが、強いていうなら転生モノを得意としている。最後に、私はベール・ジニアスに言いたいことがある」


「へ?」


 突然エペラーに名前を言われ、僕は首を傾げた。僕に言いたいことって何だ? 初対面のはずなのに。


「たしかにお前と私では文階に大きな差がある。しかしテートルは文階が全てではない。積み重ねられた経験が文階の差を凌駕することだってある。私はベール・ジニアスに負けるつもりは決してないからな。文階12000超えだとしてもあまり思い上がらない方がいい」


「はあ……」


 思い上がってなんてないんだけどな、と僕は心の中で呟いた。その時、部屋の奥の扉が音を立てて開いた。そして、「いやあ、すまなかった!」という明るい声とともに、紫色の着物を纏ったリーロが5人の付き人とともに部屋に入ってきた。

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