表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/48

第30話:3回戦

 好き、という言葉に反応しないわけがない。そういう意味で言ってないのは分かっているが、童貞にそんなことを言うのは反則だ。


「はああ、ベール様に出会えて本当に良かった。あ、そろそろ寝ましょうか。ぐっすり眠って明日に備えましょう」


「あ、はい……」


 ユーナは電気を消し、ベッドに体を横たえた。僕もベッドに体を預け、ふう、と息を吐く。好き、というユーナの言葉が頭から離れなかった。


 このままドキドキしすぎて眠れなかったらどうしよう、と思っていたが、予想以上に疲れていたのか徐々に眠気に襲われ、意識が暗闇へと沈んでいった。


「ほな3回戦、ベール・ジニアス対ガークラ・テルミュンテのテートルを始めまひょ」


 その翌日。前日と同じ会場のリングの上に僕は立っていた。勿論事前にユーナとのハグは済ませている。どうやらジャッジマシンは前日と同じのようだ。凛とした声が静かな会場に響き渡る。


「ほな今からテーマを決めるどす」


 ルールの説明を終えたジャッジマシンはぴょんとその場で飛び跳ね、さらに空中でくるくると回転した。


「雪、海。今回のテーマは雪と海の2つどす」


「今回のテーマは雪と海に決定だ〜!!!!! 2日目も盛り上がっていくぞ〜!!!!!」


 綺麗に着地したジャッジマシンがテーマを発表し、一拍置いてMCが叫んだ。わああああ、と観客が一斉に盛り上がる。昨日に引き続き今日も会場は超満員だ。


 雪と海。これまた難しそうなお題の組み合わせだ。すぐにアイデアが浮かばない。これはアイデア出しとプロット作成に時間がかかりそうだ、と僕は思った。そして対戦相手のガークラに視線を向けた。


 昨日の1回戦のハンバルグ、2回戦のヤンキルは色々な意味でキャラが濃かった。しかし目の前のガークラは、キャラが濃いようには見えない。背が高く、しゅっとした体型で濃紺の羽織を身に纏っている。


 面長な顔からはあまり感情が読み取れない。黒縁の眼鏡がよく似合っていて、どこか学者然とした雰囲気を感じる。年齢は40歳、いや4000歳くらいだろうか。最高文階は6621、代表経験は一度ある、とユーナに先程教わった。


「文字数は15000文字〜20000文字どす。この文字数に収まってへん場合は即座に失格どす。制限時間は5時間、テーマは雪と海どす。ほなテートルを開始するどす」


 開始の合図とばかりにジャッジマシンがその場で飛び跳ね、空中で回転した。僕は椅子に腰を下ろし、ペンを手に取った。


 雪と海。雪と海……難しい。ジャッジマシンは無作為にお題を抽出するとは言っていたが、この2つの単語の組み合わせはなんというか、絶妙だ。すぐにアイデアが思いつかない。


 焦るな、と僕は自分に言い聞かせた。中学生の時に小説を書き始めてから、殆どの場合において焦りという感情は意味を為さないことを僕は学んでいた。焦って結果が出るなら苦労しない。焦りそうな時ほど、慎重に、じっくり進むことが大事なのだ。


 雪が海に落ちると世界が滅ぶ、だから人類はなんとか雪が海に落ちるのを防ぐ……というアイデアぱっと思いついたが、さすがに荒唐無稽すぎると判断した。


 考え、考え、宇宙の彼方の星で、雪が降り積もって海になっているという設定を思いついた。地球はもはや汚染され、新たな星を探して人類が辿り着いたのは雪の海に覆われた星。地球からの距離と技術の関係上もはやその星以外に頼る星はなく、なんとか技術を集結させて雪の海を攻略し、人類の生存を可能にすべく奔走する……というSFちっくな話を思いつき、プロットを作成して執筆に取り掛かった。


 ジャッジマシンに感情があるのかは分からないが、なんとなく様々なジャンル、テイストの作品を書いた方がいいのではないかと僕は思っていた。様々なジャンルが書けるんだぞ、とアピールするといいことが起きるんじゃないだろうか、と僕は思っていた。全くの的外れかもしれないが。


 ペンを動かしている内にどんどん集中力が増していく。活字の世界に没入し、余計な思考が頭から消失していく。僕はまともにスポーツをやったことがないのでよく分からないが、スポーツ選手がたまに口にする「ゾーンに入る」という状態に今の僕はなっている気がした。


 ひたすら書き、書き終わったと思ったらミスをゼロにするべく何回も何回も読み直した。


「残り1分どす。時間内に必ず原稿を提出しとぉくれやす」


 ジャッジマシンが口を開いた。僕は椅子から立ち上がり、ジャッジマシンに原稿を提出した。ほぼ同じタイミングでガークラも原稿を提出した。相変わらず表情は読み取れない。昨日のヤンキルがはち切れんばかりの感情を発露していたのとは対照的だ。


「原稿の提出おおきに。今からジャッジするさかい、ちょい待っとって。それぞれが提出してくれた原稿をコピーしてえずき出すさかい、お互いがどないな小説を書いたのか読み比べて、一言でもええさかい感想やアドバイスを言い合うとくれやっしゃ」


 僕とガークラの原稿を受け取ったジャッジマシンはそう言い、2つの紙の束を吐き出した。僕とヤンキルは互いの原稿を受け取り、文章に目を通した。


「なるほど、純文学か……」


 原稿に目を通した僕は思わず呟いた。


 僕が書く小説は基本的に、娯楽性を重視する大衆小説に分類される。そして僕が異世界に転生してから、今まで経験したテートルは4回。対峙した4人が書いていた小説は、程度の差はあれど大衆小説に分類されるものだった。


 一方、ガークラが書いた小説は間違いなく純文学に分類されるものだった。なんとなく文章が格式高い。元の世界にいた時は、勉強のために何冊か純文学の小説を読んだことはあるものの、沢山読んできたとはお世辞にも言えない。勉強になるかも、と思い僕は原稿を読み進めた。


「ううん、なるほど……そうか……」


 文章はたしかに格式高い。それはいいことなのだが、ちょっと格式高すぎるというかやりすぎというか、オブラートに包まず言うと読みにくかった。読みやすさを最重視している僕の小説とは対極に位置するような小説といえた。


 地図を頼りに海を目指してひたすら歩みを進めていく盲目の男。しかしその地図は、悪い詐欺師によって内容が改変されており、海ではなく雪山に辿り着くように仕向けられていた。雪山に辿り着き、そこで騙されていたことに気づき、さらに熊に襲われた男は呪言を唱えながら死ぬ。最後は呪言の効果が現れ詐欺師も死ぬ、という内容だった。


 なんというか、すごかった。すごい小説だった。読みやすければ僕の中での評価はもっと高かったのだろうが、読みやすくするのはガークラのスタイルではないのだろう。


 読み終わった僕は感想を共有するべくガークラに近づいた。ガークラも無言で僕に近づいてくる。


「あ、あの、えっと、すごく面白かったです。とても勉強になりました」


「…………」


 ガークラは能面のような表情で僕を見つめている。どうしよう、ちょっと文章が読みづらかったと言うべきか、言わない方がいいか。迷った末、めちゃくちゃオブラートに包んで少しだけ言うことにした。


「えと、ほんの少しだけテンポがよくなれば、ちょびっと読みやすくなったり、ならなかったりみたいな……」


「…………そうですか。私も貴方の小説を読みました。読んだ上で何も言うことはありません」


 ガークラは一息で言い、一歩後ろに下がった。


 え? 言うことはない? 自分が一応一言言ったんだから、同じく何か言われると思ってたのに……そう思いつつ僕はジャッジマシンに視線を向けた。


「結果発表の時間どす。まずはガークラ・テルミュンテはん。総合評価は84点どす」


「…………」


 結果を聞いても何も言わないのは前日のヤンキルと共通していたが、能面のような表情を浮かべているところが大きく異なる。


「次にベール・ジニアスはん。総合評価は100点どす。ベール・ジニアスはんが準々決勝進出どす。敗れたガークラはんは文階が6248から47下がって6201になるどす。勝利したベールはんは文階が12779から51上がって12830になるどす」


「勝者はベール・ジニアスだぁぁぁ〜!!!!!!!!」


 MCが叫び、わああああああ、と会場が歓声に包まれた。僕は握手を交わそうとガークラに近づき、右手を差し出した。ガークラも右手を差し出し、握手を交わす。何事もなく終わると思ったその瞬間、僕の右手に鋭い痛みが走った。


「いっ……」


 痛みに僕の顔が歪む。ガークラが爪を突き立て、僕の右手を傷つけたのだと分かった。何故? どうして? 視線を向けた僕を見てガークラは口を開いた。


「貴方レベルの人間が選抜大会に参加するのは間違っている。私は貴方を許しません。絶対に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ