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第25話:1回戦

「改めてルールを説明するどす。制限時間は5時間。5時間以内に書いた小説の内容でジャッジを行い、勝った方が2回戦へ進出するどす。5時間を1秒でもオーバーした場合、問答無用で失格となるさかい注意しとぉくれやす。また、常に対戦相手への敬意を忘れへんどぉくれやす。加えて、使用してええのんは支給されたペンと紙、ボードと己の頭脳のみ。それ以外の何かを使用する行為は全て不正行為で即失格になるさかい注意しとぉくれやす」


 大丈夫か、と尋ねるようにジャッジマシンは僕に視線を向けた。僕は深く頷きを返す。次いでジャッジマシンはハンバルグに視線を向けた。


「おっけ〜よ〜!」


 ハンバルグは明るく言って両の親指を突き立てた。とても元気だ。緊張してないのだろうか。


「ほなテーマの有無を決めるどす。…………テーマは有りどす」


 ジャッジマシンは一瞬目を瞑り、そして開いてテーマが有ることを告げた。多くの観客は静まり返り、ジャッジマシンの言葉に耳を傾けている。


「ほな今からテーマを決めるどす」


 ジャッジマシンはぴょんとその場で飛び跳ね、さらに空中でくるくると回転した。以前の大阪弁を操るジャッジマシンとは動きが違う。個体差があるのだろうか、と僕は思った。


「風、家、雲。今回のテーマは風と家と雲の3つどす」


 綺麗に着地したジャッジマシンが口を開いた。


「今回のテーマは風と家と雲に決定だ〜!!!!!」


 MCと思わしき男が声を張り上げると、どういう原理なのかその声が瞬時に会場中へ響き渡り、わあああああ、と観客が一斉に盛り上がった。


 風と家と雲。3つテーマがあるテートルは初めてだ。その3つの要素を入れつつ面白い小説を書かなければならない。


「文字数は15000文字〜20000文字どす。この文字数に収まってへん場合は即座に失格どす。制限時間は5時間、テーマは風と家と雲どす。ほなテートルを開始するどす」


 開始の合図とばかりにジャッジマシンがその場で飛び跳ね、空中で回転した。同時にジャッジマシンの表面に時間が表示され、 4時間59分59秒、4時間59分58秒、とどんどん時間が減っていく。また、会場の壁面にも時間の表示が出現した。


 既に机の上にペンと紙の束、ボードは置かれている。僕は椅子に座ってボードに紙をセットし、ペンを手に取った。


 風と家と雲、か……。


 右手の人差し指を唇に、親指と中指を顎に当てて目を閉じ、僕は思考を巡らせた。僕とハンバルグの集中を削がないようという配慮か観客は一様に押し黙っているが、これだけ人がいる以上完全に無音にすることは不可能だ。時々物音やささやき声が聞こえてくる。


 雲の上の家、というアイデアがぱっと頭に浮かんだ。忘れない内に僕は紙にそれを書き留める。雲の上の家、悪くない。風は? 風はどうする? うーん……。


 考える。すぐにいいアイデアが思いつかないが、僕は決して焦っていなかった。アイデア出しとプロット作成に30分ほどの時間を投入しようと思っているから何も問題はない。


 ふとハンバルグに視線を向けると、ハンバルグはじっと目を瞑って腕を組んでいた。僕と同様にアイデアを出してプロットを作ろうとしているのだろう。


 紙に視線を落とし、ペンをくるくると回しながら僕はアイデアを練った。風という要素をどうやって小説の中に入れる? 強い風で家が吹き飛ぶとか? いや、それは微妙だ。風によって雲の上の家に何かが送られてくるとか? いいかも。そうだな、例えば風船とか……?


「風船……手紙……」


 手紙、という言葉がぱっと頭に浮かぶ。何故今ここで手紙という言葉が浮かんだかはよく分からない。説明出来ない閃きというやつだ。小説のアイデアを練る時、小説を書いている時にこういう説明出来ない閃きが浮かぶことはよくある。


「手紙……ラブレター……雲の上の家に向けたラブレター……地上の女性が想いを託して外の世界へ送るラブレター……」


 いいぞいいぞ。少しずつアイデアがまとまってきた。僕はペンを走らせ、アイデアの断片を少しずつ繋ぎ合わせ、形にしていく。


 付き添いのユーナはリングの端の椅子に座り、作業に取り組む僕をじっと見守っている。そして、ジャッジマシンの傍に佇んでいる鋭い目つきの男。ハンバルグ同様身長が高い。ジャッジマシンと一緒に、レートルに参加する両名を監視する役割を担っている。


 過去の代表選抜大会では、なんとしてでも代表入りを勝ち取りたいという思いから、アイデア帳やカンニングペーパーの持ち込みといった不正行為が横行していた歴史があり、運営サイドは不正行為防止に注力しているらしい。そもそもカンニングペーパーって何だよ、小説を書く行為にカンニングも何もないだろと僕は思ってしまうが。


 30分ほどでプロットを作成し終え、その後僕は本文の執筆に移行した。作成したプロットの内容に沿ってすらすらと文章を書き連ねていく。


 その後、終了時間の10分前に納得のいく文章が書き終わり、僕はふーっと息を吐いた。


 雲の上に広がる世界の隅っこで、孤独に暮らす魔法使いの青年、ブルージ。ある時ブルージは自分の家から少し離れた場所で、風によって運ばれてきた赤い風船を目にする。その風船の紐の先には手紙が付属しており、地上の世界で孤独に耐える姫から送られてきた手紙だということが判明する。


 日々の孤独に耐えかね、救いを求めて手紙を書いて風船を飛ばした姫。ブルージは手紙の文章から伝わる姫の孤独、苦しみに心を打たれ、なんとかしたいという衝動に駆られる。ブルージは返信の手紙を書き、青い風船を手に入れて手紙をくっつけ、姫の元へ届くよう魔法をかけて風船を飛ばす。住む世界の違いや身分の違いという壁を乗り越え、次第に2人の距離が縮まっていく……というハートフルな物語を書き上げた。


 それなりの小説が書けた気がする。一方のハンバルグは苦しげに顔を歪めながらペンを走らせていた。どうやらまだ完成には至ってないようだ。


 僕は残りの時間を使って原稿を見直すことにした。最初から最後までじっくり目を通していく。


「残り5分どす。時間内に必ず原稿を提出しとぉくれやす」


 ジャッジマシンが口を開いた。ハンバルグは相変わらず苦悶の表情を浮かべていた。


 そろそろジャッジマシンに原稿を提出しよう、と僕がゆっくり立ち上がったその時。僕が書いた原稿の一部分が目に留まった。


 瞬き。再度瞬き。僕は眉間に皺を寄せた。その一部分から目が離せない。そこで僕はようやく自分が犯したミスに気付いた。


 目に留まったその文章には、はっきりと内容に矛盾が生じていた。

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