第22話:オーカ・パーブルー
「え……リーロ……?」
僕は目を丸くしながら呟いた。
目の前に佇む少女は、国王リーロ・パーブルーにしか見えなかった。顔と身長は全く同じ。髪の色も全く同じ紫色で声も全く同じだ。
異なるのは髪型と喋り方だ。リーロはおかっぱだったのに対して、目の前の少女はウルフヘア。加えてリーロとは喋り方が異なり、2週間前に出会ったジャッジマシンを彷彿とさせる喋り方をしている。
「ウチはリーロちゃう。あないな女と一緒にせんとってほしいわ」
リーロじゃないらしい少女は唇を尖らせた。
「え……それじゃあ貴方は……」
「ベール様、こちらはオーカ・パーブルー様です。国王様の双子の妹なんですよ」
「双子の妹!?」
驚愕する僕の前で、オーカ・パーブルーなる少女はふん、と鼻を鳴らした。不満げに見える。
「一応やで。あないな女と双子なんて気ぃ狂いせやで、ほんまに」
少女の返答、そしてユーナの反応を見るに、どうやら少女がリーロの双子の妹であるのは事実のようだ。
「ユーナ、どうしてそんな大事なことを今まで黙ってたんですか?」
「申し訳ありません、ベール様。近王家の娘である私が、オーカ様について話すのは禁じられております。なので今まで黙ってたんです」
「禁じられてる?」
「そらウチから説明したる! 隠す必要もおまへんからな!」
少女は一歩前に出て大声で言った。かなりの声量だ。他の参加者たちの視線が僕たちに向けられている。
「ウチとあの女は、今から1746年前に生まれた。何の因果か双子で生まれてもた。見た目、身長、声は全く同じ。そんなウチとあの女は事あるごとに比較された。ウチが勝ってたのは文才と雀万だけ。他は全てあの女に負けとった」
「じゃんまん……?」
「この世界で流行しているゲームです。現在オーカ様は雀万のプロの資格を保有されており、世界有数のトッププレイヤーとして名を馳せています」
ユーナが耳打ちして情報を補足してくれた。雀万。響きはなんだか麻雀に似ているが、麻雀と似たようなゲームなのだろうか。
「来る日も来る日もあの女と比較され、怒られる日々。皆はウチとあの女を共同で国王にしたかったらしいけど、ウチは絶対に嫌やった。ウチは本を読んで、小説を書いて、雀万をして楽しく生きたいだけやった。それやのに誰もウチの意思を尊重してくれへんかった。国王になって国のために尽くす以外の人生なんておまへん、しっかりしぃと怒られた」
少女の顔が歪む。その時の記憶を思い出しているのだろうか。
「ある日ウチの怒りが爆発した。もう嫌や、家出する、と言うて家出をした。大量の追手に追いかけ回されたけど、ウチはひたすら逃げ続けた。半年ほど逃げてようやっと向こうが諦めや、「もう知らん。勘当する。ハナからリーロ・パーブルー1人だけが生まれとったことにする」ちゅう王宮からの通達が国中に届いた。ウチは歓喜に震えた。ようやっと解放される、自分の人生が生きられると思うた」
暗かった少女の顔がぱああっと明るくなった。その時は本当に嬉しかったのだろう。
「王家から勘当された人間であるウチについて、王家や近王家の人間は絶対話してはあかん、禁忌の話題ちゅうことになってん。まあ当然やな。ウチのことは話さへんっちゅうルール守っとるやん、偉いで、ユーナ」
少女に視線を向けられたユーナは、「いえ……」と言って苦笑を返した。
「ほんでウチは雀万のプロ資格を取得して、雀万の店の店員として働きながらひたすら小説を書き続けた。ウチがテートルの代表選手になれば、あの女、ほんで王宮の連中はウチを頼り、頭を下げる。そこでウチは、過去にしたことを全て謝って懺悔せぇ、と要求する。復讐できるっちゅうわけや。どない? 完璧な計画やろ?」
事情を話し終えて満足したのか、少女はにやっと笑った。僕は返す言葉を失っていた。
王家に生まれ、国王となり国のために尽くすことを定められた人生。リーロは定めに従い国王となり、少女は定めに抗い家を出た。少女の気持ちも分かるし、少女を怒った人々の気持ちも分かる。正解はない。とても難しい問題だ、と僕は思った。
「とまあこれが今日ここに来た1つ目の理由。ここに来た理由は2つあんねんで。ユーナ、2つ目の理由は何やと思う?」
「いえ、私にはさっぱり……」
ユーナは気まずそうに笑みを返す。王家を勘当された少女を前にするとやりにくいのだろうか。
「2つ目はあんた! ベール・ジニアスやで! 超イケメンでものすごい文才を持つとされるベール・ジニアスの降臨をずっと待っとった! ほんで実際見てみたらやっぱりイケメンやった! いや〜、あの人にそっくりでびっくりしたで! ほんまに嬉しいわ! ビビッときたわ! イケメンで文才がある男、むっちゃ好きやねん! 早速なんやけど、ウチのお願い1つ聞いてもらえへん?」
「お、お願い?」
「そう、お願い! 1つだけお願いを聞いて欲しいねんで!」
少女は俄かにテンションを上げ、僕との距離を詰めた。困惑しつつ、「ま、まあ、僕に出来ることなら別にいいですけど……」と僕は言葉を返す。
「おおきに! ほな単刀直入に言うで! ウチと結婚しぃや!」
「へ?」
「はあああああああああああああ!?」
僕が発した間の抜けた声を、ユーナの叫び声が遮った。




