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第21話:代表選抜大会当日

 異世界に転生し、ユーナとの同棲生活が始まってから2週間が経過した。


 今日は代表選抜大会が行われる。他国の代表と戦い、その結果によってビットの配分量が左右される超重要なテートルに出場する代表選手を決定するための大会だ。


「ベール様、緊張していますか?」


 自宅からユニサスに乗って15分ほど移動し、選抜大会の会場に辿り着いたユーナは僕に声をかけた。


「あまり緊張はしてません」


「そうですよね、英雄ベール・ジニアス様ですもんね、変な質問をしてすみません」


 ふふふ、とユーナは笑った。なんだか楽しそうだ。今日のユーナは水色の着物のような服を纏っている。ユーナのスタイルの良さ、美しさが際立つ服だ。


 そしてユーナは肩からバッグを提げている。バッグの中には水筒と弁当が入っており、どちらもユーナが僕のためにわざわざ用意してくれたものだ。本当にありがたい。


 目の前には青黒い石のようなもので構成された巨大な建物が鎮座している。代表選抜大会が行われる会場だ。64人の挑戦者が代表入りの4つの椅子を巡って鎬を削るこの大会は、パーブルー王国の一大イベントとなっており、多くの人が観戦に訪れるらしい。


 プロ野球の野球場かと見紛うほど巨大な建物の入り口に、ユーナと肩を並べて向かう。歩を進めながら、僕はこの世界に転生してから今日に至るまでの2週間を振り返っていた。


 2週間、僕は殆ど家に篭りっぱなしだった。闇雲に外に出てしまうと、以前メルビーの街を訪れた時みたいに人が殺到しかねない。それを避けるべく極力家にいるべき、というユーナの考えに僕も賛成だった。バトルしてくれと頼まれてその都度断るのは胸が痛むので、事前に避けられるのはありがたかった。


 2週間の間、僕はユーナと沢山話をして、だいぶこの世界について理解が深まった。


 整理すると、この星の名前はアクトラシル。直径や体積、質量は地球の半分ほどらしい。大部分が海に覆われており、大陸は1つだけ。さながらパンゲア大陸だ。尚、海には塩に似た物質が大量に含まれているようだ。


 大陸には5つの王国が位置している。レッディール、パーブルー、イーエロ、ラルドグリ、そしてアンクロック。それぞれの国で赤、青、黄、緑、黒が国の色、国色として指定されているらしい。


 この世界において国色は極めて重要な要素である。国色がその国で生きる人々の目の色や髪の色、食べ物の色や建物の屋根の色、服の色に大きく影響を与える。つまり全てが国色をベースに成り立っているということだ。


 そしてこの世界には、僕が元いた世界と同様に食物連鎖のシステムが存在している。分解者、その上に生産者、その上に消費者。生物ピラミッドが構築されているのだ。


 生物ピラミッドを構築している様々な生物の性質は、元いた世界と殆ど変わらない。違うのは色と名前くらいだ。例を出すと、元の世界の豚や牛、鳥にあたる動物がデルムーア、アロバルージュ、ストモーリオというらしい。


 そしてそのピラミッドの頂点に君臨しているのが我々人間だ。見た目は元いた世界の人間と怖いくらい一致している。性別があるところ、食事や排泄、睡眠が必要なところも共通だ。ただし食事は1日1回で事足りるらしい。1日1回しか食事をしないことにもすっかり慣れた。青すぎる見た目に反して料理はどれも美味しい。


 ただし元の世界の人間との違いはある。寿命は平均10000年に達するのだ。そしてこの世界は1日28時間、1年は13ヶ月でトータル400日。それを加味すると恐ろしく長く生きることになる。その内生きるのが飽きちゃうんじゃないか、と僕は密かに思っている。


 この世界の大きな特徴は、前述のピラミッドの枠にはまらない、人間より明確に上位である存在がいることだ。2週間前に遭遇した蒼龍がそれに該当する。ユニサスもまたピラミッドの枠から外れた特殊な生物らしい。そして、この世界には蒼龍のような上位の存在が他にもいるようだ。


 とまあ、僕がこの世界について学んだことはこんな感じだ。元いた世界とよく似てるけど、違うところも沢山ある。そんな世界に来てしまった僕が、この先について不安を抱いてないと言えば嘘になる。


 頑張ればちゃんと元の世界に戻れるのだろうか。


 母さんにもう一度会えるのだろうか。夫に先立たれ、一人息子の俺も事故に巻き込まれ、たった1人残された母さんは寂しさに苛まれてないだろうか。


 龍紋として再び活動することは出来るのだろうか。


 しかし今では気持ちが吹っ切れている。なるようになれ、の精神だ。今は英雄ベール・ジニアスとして王国を救うことだけを考えればいい。王国を救うために頑張れば、王国の将来を案じるユーナのためになる。ユーナのためならいくらでも頑張れると思った。


「ベール様? ベール様?」


「……ん、ああ、ごめんなさい、何ですか?」


「心ここに在らずって感じの顔をしてましたよ?」


「ちょっと考え事してました、大丈夫です」


「そうですか。では中に入りましょう」


 僕はユーナと肩を並べて会場に足を踏み入れた。


 係の人に案内され、大会に出場する参加者が待機する控室に向かった。僕が控室に入ると、他の参加者が一斉に僕の方を向いた。「おお……」「あれがベール・ジニアス……」「伝説の英雄だ……」という声が聞こえてくる。


「さすがベール様ですね。とても注目されていますよ」


「はあ……」


 視線を感じながら僕は椅子に腰を下ろした。ユーナも隣の椅子に腰を下ろす。


 参加者の見た目は千差万別だ。子供から若い男性、2週間前に対戦したヴァルのようなお年寄りまで多種多様。それぞれの地域の予選を勝ち抜いた強者が集っているらしい。


 参加者はウォーミングアップとばかりに、本を読んだり一心不乱に文字を書いたりしている。僕も何かしようかな、なんて思っていたその時。


「あんた、ベール・ジニアスやろ! あんたに会いたいとずっと思とったんやで〜!」


 明るい声とともに突然後ろから肩を叩かれた。振り返る。そこには、紫色のセミロングの髪をウルフヘアにまとめたリーロが佇んでいた。

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