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第20話:憧れ

「え? どうしてって、それは、えっと、その……恥ずかしいからです」


「恥ずかしいから、ですか。私のことが嫌いだからではないということですね?」


「は、はい? き、嫌いなわけないじゃないですか」


 混乱しながら、背中越しに聞こえてくる声に言葉を返す。


「……ありがとうございます。舞い上がってしまっているのか、変なことを言ってしまいました。申し訳ありません」


「いや、別に謝ることはないですけど……」


 そこで言葉が途切れた。沈黙。聞こえてくるのは、ユーナの静かな息遣い。


 駄目だ。こんなの眠れるわけがない。


 主人公がヒロインと1つのベッドや布団で眠って、ドキドキする。そんな展開の小説を今まで何作書いてきただろうか。「実際にこんなことになったらドキドキして眠れないだろうなぁ、僕もいつかこんなこと出来るのかなぁ」なんて思いながら書いていた記憶がある。


 実際になってしまった。異世界で、超絶美人のユーナと。


 案の定とてもドキドキしている。体が熱にうなされているかの如く熱い。


「ベール様」


 眠ったと思っていたユーナから名前を呼ばれ、びくん、と僕の体が震えた。


「な、何ですか?」


「少しだけ自分語りをしていいですか?」


 自分語り? 予想外の言葉に戸惑いつつも、「いいですよ」と僕は言葉を返す。


「ありがとうございます。私の名前はユーナ・キーブルーとお伝えしましたよね。私はキーブルー家の一人娘として、2207年前に生まれました」


「へ? 2207年前?」


「はい」


 ふざけて言っているようには聞こえない。そこで僕は、もしかして元の世界の人間と寿命が違うのかもしれない、と気付いた。


「私は2207歳ということです。あ、寿命についても話しておきましょう。この世界の人間の寿命は基本的に10,000年です。10,000年が近づいたら最期の時が訪れるのを覚悟する人が多いですね」


 人間の寿命の約100倍か、と僕は思った。異世界に順応してきたのか、元の世界と違う情報にもあまり驚かなくなってきた。


 あくまで人間の歳の取り方を基準にして、比率で考えた場合、この世界で100年経過すると、一歳年を取ることになるのだろう。2207歳ということは、ユーナはほぼ22歳。若い。2207歳で若いっていうのは違和感しかないけど。


「話の腰折っちゃってごめんなさい、続けてください」


「ありがとうございます。キーブルー家は、王家であるパーブルー家を支える役目を担っています。ずっと昔からその役目が定められているんです。ローブルー家も同様です。キーブルー家やローブルー家のような家柄は、近王家と呼ばれています」


 ローブルー。イリメの苗字だ。この世界では人は名前・苗字で呼ばれるんだな、と今更ながら気付いた。近王家の人間故にイリメはローリの側近として働いているのだろうか。


「私は王家を支えるパーブルー家の一人娘として、幼少期から厳しい指導を受けてきました。一人前になるため、と称して課された勉強、習い事、運動。どれも辛く苦しいものでした。同じ年齢の子供たちが遊んでいる中、私は1人孤独に耐えていました。過度な勉強や習い事を課されていたことに加え、近王家という特別な家柄のため、変に特別視されて周りから距離を置かれることが多かったんです」


 ユーナの声音が俄かに暗くなった。よほど辛い日々を過ごしてきたのだろう。釣られて僕の胸もきゅーっと痛くなった。


「私の孤独、苦しみを癒してくれたのは本でした。勉強の一環として、本を読むことは許可されていたんです。本は私の孤独に寄り添い、苦しみを癒してくれました。本を読めば活字の世界に飛び込んで、海の底や空の果て、宇宙や異世界にも行くことが出来ました。本は私にとって何よりも重要なものだったんです」


「……よく分かります。僕も全く同じでした。文章に書かれている情景や世界を頭の中で想像するんですよね」


「そうですそうです。わあ、こうやって共感してもらえるの、なんか嬉しいですね」


 背中を向けていてユーナの顔は見えないものの、ちょうど今ユーナが笑ったように感じた。


「本、そして読書への強い気持ちは、やがて文才への強い憧れへと変化していきました。無限の世界を活字で表現出来る、素晴らしい文才を持った人に私はずっと憧れていたんです。しかし、私の憧れを満たしてくれる人は誰も現れませんでした。勝手に縁談の場を設けられ、結婚してほしい、と言われたことは1000回以上あります。しかし私の気持ちを揺れ動かすほどの文才を持っている人は誰もおらず、全て断りました」


 1000回。桁が違う。ユーナほどの美女、尚且つ2207年も生きていれば、求婚される回数はそれほどにまで達してしまうのか。


「私の気持ちを揺れ動かすほどの文才を持つ人に一生出会えず、死んでいくのかと半ば諦めていました。……今日までは。私はベール様に出会いました。ベール様の圧倒的な文才に触れ、私の気持ちは激しく揺れ動きました。私が求めていたのはこれだったんです。私が求めていたのはベール様だったんです」


 すす、という布の擦れるような音がした。次いでユーナの手が僕の背中にそっと触れた。ぴくっ、と僕の体が震える。


「すいませんでした、長々と話をしてしまって。なんとなく、今この話をしたいと思ったんです」


「い、いや、えっと、謝ることはないですよ。その……ユーナの過去が知れて、よかったです」


「そうですか。……改めて、これからよろしくお願いします、ベール様。2週間後の代表選抜大会でのご活躍を期待しています。といっても、ベール様なら無双間違いなしだと思いますけどね。おやすみなさい」


「……おやすみ」


 おやすみなさい、って言うのは共通なんだな。


 ユーナが僕を大切に思ってくれている理由がなんとなく分かった。僕の文才の高さに惹かれてくれたのならとても光栄なことだと思う。ユーナほど美しくて素敵な人に、憧れ、求めていた、と言われて嬉しくないわけがない。相変わらず恥ずかしいが、それ以上にぽかぽかとした胸の温かさを感じていた。


 寝息が聞こえてくる。今度こそ眠ったのだろう。


 …………寝顔を見てみたい。


 ユーナほどの美人の寝顔なんて、こんな機会じゃないと拝めないだろう。別にやましいことはない。そう、ただ寝顔を見るだけ、ちょっと見るだけ……。僕は徐に寝返りを打った。


 目の前には、目を瞑るユーナの顔があった。綺麗だ。ぼんやりとした薄暗い空間故に、いつもの明るい空間で見る時とまた違った趣深さがある。ピンク色の唇は僅かに開き、すう、すうと寝息が聞こえる。ショートボブの青い髪は僅かに乱れ、重力によって下に垂れ下がっていた。


 本当に綺麗だ。こんなに綺麗な人は元の世界で見たことがない。もしかしたらこの世界で最も美しい人なんじゃないだろうか。


「やっとこっちを見てくれましたね」


「え?」


 ユーナはぱちっと目を開け、にやっと笑った。


「え!? 寝たんじゃなかったんですか!?」


「狸寝入りですよ。ベール様にどうしてもこっちを向いて欲しかったので」


「や、や、やめてくださいよ狸寝入りなんて! 性格悪いですよ! そ、そういうことはもう二度としないでください!」


「ふふふ、嫌です」

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