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第19話:青い。青すぎる。

「え……えと……これは……?」


「どうかしましたか? 私の得意料理なんですよ! デルムーアのボロソース焼き! デルムーアとカイスは最高級のものを使用していますし、ハルムープはじっくり煮込んだ自信作です! バレロも産地直送の素材を贅沢に使用しています!」


 ユーナは満面の笑みを浮かべながら言う。「あ……そう……ですか……」と言って僕は引き攣った笑みを返した。


 青い。青すぎる。


 目の前に運ばれたのは、2つの皿と茶碗らしきもの、ご飯茶碗らしきものだった。片方の皿には、青い肉片と青い野菜のようなもの、そして青い液体のようなものが混ざり合った何かが鎮座している。


 もう片方の皿には、青い複数の野菜のようなものが混ざり合った何かが鎮座している。ご飯茶碗らしき何かの中には紫色の小さな粒が無数に集合した物体が入っていて、茶碗の中には青い液体が入っている。


「ベール様? 食べないんですか?」


 ユーナは首を傾げている。


「な、なんか、青色が多いように見えるんですが、気のせいですかね?」


「先程も申し上げたように、パーブルー王国では青が国色と定められています。それに呼応するように、食べ物の素材の色も一様に青くなっているんですよ。蒼龍様の力をはじめ、複数の超常的な力が融合した結果そうなっているみたいです。それが何か?」


「いや……何か、っていうか……」


 一様に青くなっているんですよ、と言われましても……。


 油断していた。まさか、よりによってこんな青まみれの食事が出てくるなんて。


 ちょっとこれは、やばい。見た目だけで決めつけるのはよくないかもしれないが、見た目だって重要な要素だろう。今から僕はこれを食べるのか? 大丈夫なのか? 異世界から転生した僕の口には合わず、毒になって最悪死んじゃうとかないよな……?


 椅子に座ったまま硬直する僕を不審に思ったのか、「……ベール様?」とユーナは言い、怪訝そうな表情を浮かべた。


「冷めてしまいますよ? 早く食べてください」


「ああ、うん、食べる、食べます。ちょって待ってください、えーっと……」


「……もしかして、私が頑張って作った料理、食べたくないんですか……?」


「いや、違う! 違いますよ!」


「…………食べてくれないんですか…………?」


 ユーナの青い瞳にじわっと涙が浮かび、俄かに涙声になった。


 まずい。ここで食べないと非常にまずい。


 ぐうう……今からこの青まみれの何かを食べるのか……! でもしょうがない……ユーナを悲しませたくない……!


「た、食べます! 食べますから! そんな悲しい顔しないでください! 僕が元いた世界の料理と少しだけ見た目が違っていて、ちょっとびっくりしただけです! 今から食べますよ!」


 僕は早口で言い、ごくりと唾を飲み込んだ。テーブルに置かれているのは、箸に限りなく似ている何かだ。いや、もはや箸と表現して差し支えないだろう。


 僕は箸を手に取り、青い肉片を箸でつまみ、口に放り込んだ。ここで止まるな、一気に行け、と自分に言い聞かせ、肉片を歯で噛み砕いた。


「あれっ……?」


 ……お、美味しい!!!!!


「え、嘘!! めっちゃ美味しい!」


「わああ! やったぁ! 嬉しいです!」


 ユーナは両手を合わせ、にっこりと笑った。僕は肉片、さらに野菜らしき何かをがつがつと頬張った。


 美味しい。とんでもなく美味しい。初めて感じる味だが、とにかく美味しい。例えるなら、豚の生姜焼きとステーキ、ハンバーグと餃子、幾つものめちゃくちゃ美味しい味が混ざり合っているような奇妙な感覚だ。


「すごく美味しいです! おかわりほしいです!」


「無常の喜びです! たっぷり作ってあるので、好きなだけ食べてください!」


 異世界に転生したばかりで疲れて予想以上にお腹が空いていたのか、僕はユーナが用意してくれた料理をたらふく食べた。ぎょっとする見た目に反して、どれもとんでもなく美味しかった。人は見かけによらないとはよく言うが、料理も同じなんだな、と痛感した。


「はああ……なんか、今日は色々あったな……」


 その後歯を磨き、僕は2階に移動してベッドに体を預けた。歯ブラシは元の世界とほぼ同じ形状で、歯磨き粉も恐ろしく青いことを除けば特に違和感は感じなかった。


 どっと疲れを感じ、僕はふーっと息を吐いた。とんでもない1日だった。異世界に転生し、ユーナに出会い、奇妙なジャッジマシンに出会い、テートルをした。蒼龍に出会い、王宮に移動してローリとイリメに出会い。またもテートルをした。


「本当に異世界に来ちゃったんだな……」


 思わず呟きが口から漏れ出る。


 小説を書くこととは想像することだ。想像力の豊かさは文才の高さに直結する。僕は事あるごとに様々な妄想をしてきた。異世界に行けたら、ヒーローになれたら、なんて妄想もしたことがある。でも、妄想はあくまで妄想。決して実現するなんて思ってなかった。思ってなかったのに。


「人生って何が起きるか分からないんだなぁ……」


 トラックに轢かれて死んで、異世界転生してお前は英雄だと言われてテートルで連勝するなんて、ちょっと前の自分に言っても到底信じられないだろう。


「ベール様、本日はお疲れ様でした」


 2階に上がってきたユーナが僕に声をかけた。今は薄い生地でできた青い服を身に纏っている。グラデーションの模様がとても美しい。所謂寝巻きというやつなのだろう。服の作り的に胸の膨らみや体のくびれが際立つ構造になっていて、目のやり場に困ってしまう。


「この世界に降臨して、様々なことが起きて、とても疲れたと思います。ゆっくり休んでくださいね」


「はい。えっと、色々サポートしてくれてありがとうございます。ご飯作ってくれたり、色々なことをしてくれて助かりました」


 僕は上体を起こして言葉を返す。ユーナは首を振り、「いえいえ」と言った。


「私はベール様に心と体を捧げる身です。当然のことをしたまでですから」


「そうですか」


「はい」


 そこで言葉が途切れ、僕とユーナの間に沈黙が流れる。


 ユーナは頬を薄赤く染め、体をもじもじさせている。絶世の美女の恥じらいの表情はなんとも艶かしくて美しい。思わず見入ってしまう。


「ベール様、すごく視線を感じます、そんなに見つめないでください……」


「あ、ご、ごめんなさい……えと、そろそろ寝ましょうか」


「はい……電気、消しますね」


 ユーナが壁のスイッチらしきものに触れると、ライトの光量が大きく減少した。ほのかな明かりに照らされた闇の中、ユーナはすたすたとベッドに歩み寄った。


 本当に一緒に寝るつもりなんだな……。


 いや、同じベッドで寝るだけだ。何もやましいことはない。ユーナに背中を向けて寝ればそれでいいんだ、と自分に言い聞かせる。


 こんな僕でも一応男なので、そういう行為には当然興味がある。しかし、そういう行為をするためには、まずカップルになって仲を深めた上でお互いの同意が必要なはずだ。童貞の思考と揶揄されるかもしれないが。


 同意を得ないで許されるのはフィクションの世界だけ。ユーナが僕の彼女になってくれるわけがないし、同意をしてくれるはずがない。当然だ。


 僕はユーナから視線を逸らして、半胎児型の姿勢をとった。


「失礼します」


 背中越しにユーナの声。次いで、布と布が優しく擦れるような音。


 どくんどくんと心臓が脈打つ。何もない。ただ同じベッドで寝るだけ、寝るだけだ。


「ベール様」


「な……何ですか?」


「どうしてこちらを向いてくれないんですか?」

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