第18話:デルムーア
「な、な、何でですか……? ど……どういうことですか……?」
恥ずかしさやら嬉しさやら、混乱やら興奮やらを感じながら俺は声を絞り出した。ユーナは体をもじもじさせながら、「私……」と言葉を紡いだ。
「…………大好きなんです。文才がある人」
「…………」
「私にとって文才はとても特別なものです。飛び抜けた文才を持つベール様は私の理想そのものなんです。ベール様の文才を目の当たりにして、今まで生きてきた中で最大の衝撃を受けました。心を奪われました。私はベール様の文才に一目惚れしてしまったんです。だから、一緒に生活出来ることが嬉しいんですよ」
頬を真っ赤に染めながら、うっとりとした表情で語るユーナ。そんなユーナを無言で見つめる僕。
「……はっ! あ、あれ!? 嘘、あ、今、私……!」
そこでユーナは、今の発言が愛の告白とも捉えられかねないことにようやく気付いたのか、両手を口に当てて息を呑んだ。
「あの、えっと、これは違うんです! 一目惚れっていうのは、ベール様の文才に対してすごいなぁって思ったことを率直に表す言葉なので決してそういう意味ではないんです! 一目惚れ以外の言葉が思いつかなかったので使っただけなんですっ!」
「…………」
「ちょ、ちょっと! 何でさっきから黙ってるんですか! 黙るのはずるいですよ! ベール様、黙ってないでなんとか言ってくださいよ!」
ユーナは腰に両手を当て、ぷりぷりと怒り出した。
「……ご、ごめんなさい」
激しく脈打つ心臓を右手で抑えながら僕は声を出した。怖いほど脈打っていて今にも張り裂けそうだ。
「なんか……嬉しくて。女性に面と向かってそんなふうに言われること、初めてです」
「え、初めて……? どうしてですか? ベール様には圧倒的な文才があるのに……元の世界では文才がなかったということですか?」
「いや、なんていうか……ユーナみたいに、理想とか、はっきり言葉にしてくれる女性は誰もいませんでした。だから、えっと、その、すごく嬉しいです」
口下手なりに、ありのままの感情を伝えた。陰キャの俺がここまで言うのは珍しい。それほど、先程のユーナの言葉は嬉しかった。とても心に沁みた。
「いえ……そんな…………え、えっと! この世界に来て疲れてるでしょうから、お風呂に入ってください! その後はご飯を食べましょう! ご飯は私が作りますからね!」
恥ずかしい雰囲気を払拭するべく、わざと明るく言ったように見えた。僕は頷きを返した。この場を離れないと本当に心臓が張り裂けてしまいそうだった。
その後僕はこの世界に来て初めて風呂に入った。といっても、シャンプーやボディソープの名称が違うこと、それらの中身やお湯の色が一様に青いことを除けば元の世界の風呂と変わりはない。湯加減がちょうどよくて浴槽も広くて、なんだかいい匂いがしていてとても快適だった。
「ベール様、湯加減はどうでしたか?」
ユーナが用意してくれた寝巻きを身に纏ってリビングに戻ると、ユーナが声をかけてきた。
「すごくよかったです」
「そうですか、よかったです。もう少しで食事が完成するので少しだけ待っていてください! キッチンを覗いちゃ駄目ですよ! どんな料理かは後のお楽しみです!」
「分かりました。あ、なにか手伝えることありますか?」
女性経験ゼロの僕とはいえ、こういうことを任せきりにするのはよくないという知識は持っている。しかしユーナは「大丈夫です!」と笑顔で返したため、僕は椅子に座って先程まで読んでいた神話の本の続きを読んだ。キッチンからは時折調理の音が聞こえ、さらに何やら美味しそうな匂いが漂ってきている。
30分ほど経ち、「できましたよ!」とユーナは明るく言った。礼を言って僕はソファに腰を下ろした。
食事か。実は、異世界に転生したことを認識してから、食事についてとても心配していたのだ。生きる上で食事はかなり重要だ。
とはいえ、大丈夫だろう、とも今は思っている。時計や1日の時間、年の日数などを除き、この世界の多くの要素や概念は元いた世界と極めてよく似ている。きっと料理も元の世界のものとあまり変わらないはずだ。何なら全く同じだったりして。僕の好物のハンバーグとかあるかな……なんて思ってたらユーナが料理をテーブルに運んできてくれた。
「はい! デルムーアのボロソース焼きとカイス、ハルムープとバレロです! 召し上がれ!」
「……へ?」
そこには、ただひたすらに青い何かが鎮座していた。




