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第17話:パーブルー神話

 ここは異世界だ。僕が元いた世界、日本で使われている文字と全く同じ文字がこの世界で使われているというのは考えにくい。同じ地球上ですら国によって言語が全然違うんだし。


 それに、少しだけ感覚が奇妙なのだ。目に飛び込んだ知らない文字が、0.01秒にも満たない僅かな時間の後よく知っている日本語に翻訳されているような、未体験の奇妙な感覚。あまりたいした変調ではないので今までスルーしていたが、思えばブークやヴァルの原稿を読んだ際にもなんとなく違和感を感じていた気がする。


 気になる。帰ってきたらユーナに聞いてみるか、と思ったが、その疑問はすぐに解消されることになった。


「お、きたきた。第2章、文才と英雄ベール・ジニアス」


 じっくり第1章を読み、第2章に到達した。章の名前からして、僕に関する内容が記載されているはずだ。微かな興奮を胸に第2章を読み進めた。


 内容をまとめるとこんな感じだった。


***


 5大エレメントが変貌して守り神になると同時に、この世界に人間が誕生した。人間は互いに協力し、時に守り神の力を借りながら成長していき、技術を生み出し文明を発展させていった。


 文明が発展していくにつれて、人々は導かれるようにして物語を生み出すようになっていく。人々はそれぞれが書いた小説を楽しみ、より面白い小説を書くために試行錯誤を繰り返していった。


 時が経つにつれ小説を書く人はどんどん増えていき、やがて文才を競い合う文化が発生。当初は一部地域のみで行われていたものの、徐々に世界全体に広がっていき、多くの人々が互いの文才をぶつけ合うようになった。


 徐々にルールが明確になっていき、テールクショントーリー・コンバトル、テートルという名称が定着し、守り神によってバトルをジャッジするジャッジマシンが生み出された。テートルはますます隆興し、次第に重要な場面でもバトルが行われるようになっていく。


 そして、世界中で使われる重要な資源、ビットの配分量をテートルの結果で決めることを当時の複数の国王が提案。こうしてテートルはビットの配分量を左右する極めて重要なバトルになってしまった。


 遠い未来、パーブルー王国はバトルに次々と敗れ、ビットの排分量が減り危殆に瀕する。そんな中、異世界から英雄ベール・ジニアスが降臨する。並外れた文才、そして異能を有するベール・ジニアスはバトルで連戦連勝し、パーブルー王国に多大なビットをもたらす。


 尚、異能とは言語置換能力を指す。この世界の言語を瞬時に理解し、さらに自身の言語を瞬時にこの世界の言語に置き換えて他人に理解させる能力である。


【ベール・ジニアスは降臨すると同時に呪いがかかる。元の世界と比較して文才が1/1000になる極めて重大な呪いである。呪いを解除して一時的に文才を取り戻すためには、美女と触れ合う必要がある。文才を取り戻したとしてもそれはあくまで一時的な回復であり、一定時間が経過すると元に戻る。余談だが呪いは古の時代に⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎によって生み出された。⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎が呪いを生み出した目的は⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎である】


 ベール・ジニアスが降臨した際、心と体を捧げてベール・ジニアスと生活を共にし、あらゆる面でサポートをする役割を1人の若い女性が担う。具体的には、近王家であるキーブルー家の若い娘がその役割を担う(その若い娘が前述の呪いを解除する役割を担うことが多いが、それ以外の女性でも解除は可能)。若い女性がベール・ジニアスに心と体を捧げない場合、呪いの解除が不可能となりベール・ジニアスがパーブルー王国にビットをもたらすことが叶わなくなる。


 故に役割を放棄することは王国の将来よりも個人の感情を優先する重大な反逆行為であり、拒否することは許されない。拒否の姿勢を貫いた場合、王家によって即座に死刑が実行される。キーブルー家に若い娘がいない場合、娘がいたとしても若くない場合は代案として他の近王家の娘を割り当て、それも叶わない場合一般人の中から選抜する。尚、ベール・ジニアスは極めて容姿に優れた若い女性を好む故に、選抜の際は慎重になる必要がある。


 最後に。王国を救い、さらに世界をも救った場合、ベール・ジニアスは元の世界に戻ることが出来る。


***


「はあ……なるほどなぁ……」


 第2章を読み終えた僕は深く息を吐いた。諸々納得がいった。つまり僕には、言語置換能力なる能力が備わっているらしい。


 何でユーナを含む周りの人間と自然に会話が出来るのか少し気になっていたのだが、ようやく理解出来た。この能力が無ければ、未知なる言語を前に右往左往していたことだろう。そして僕が書いた文字も能力によって瞬時にこの世界の文字に置き換えられていたに違いない。


 そしてユーナがたびたび、心と体を捧げる、と言っていた理由も分かった。ユーナが心と体を捧げないと僕の呪いが解除出来なくなる、というのはとんでもない理屈だ。どういう原理なんだろう。事実なのだろうか? とはいえスルー出来ない記述故に、ユーナは僕に付き従うことを決意したのだろう。


「この部分がちょっとな……」


 僕は呟き、苦笑を浮かべた。ベール・ジニアスは極めて容姿に優れた若い女性を好む、と何故か断定されている。いや、そうだけど。たしかに僕は面食いの童貞だけど、こんなことわざわざ書かなくてもいいんじゃないかな!?


 そういえば気になる記述があった。呪いについての記述だ。呪いを生み出した何か、さらにその何かが呪いを生み出した目的が書かれているはずなのだが、その部分は⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎という感じで黒塗りになっている。何十にも塗りつぶされていて黒塗り部分全てを綺麗に取り除くのは難しそうだ。


 小説を書くときに、わざとこういう感じにして読者の興味を引くのは割とメジャーな手法だ。いつかこの黒塗りの下の情報がお目見えする日は来るのだろうか。


 そして超重要なことが最後にさらっと書いてあった。どうやら僕は頑張れば元の世界に戻れるらしい。戻れるのなら、元の世界に戻りたいと強く思う。


 この神話の信憑性はよく分からないが、僕の降臨をはっきりと予測していただけに信用してみてもいいのかもしれない。信じるとすると、目的がはっきりすることになる。元の世界へ戻るために、僕はひたすらテートルで勝ち続けるのだ。


 目的が明確になってなんだかやる気が漲ってきた。目的があれば人間は頑張れる。それにしても、国を救う、というのは分かるが、世界を救うとは一体どういうことなんだろう。


 その時、1階から音が聞こえた。時計を確認すると午後8時前になっていた。ユーナが帰ってきたのだろう。時計に1から14の数字が刻まれているのがどうにも慣れない。


 そしてあの時計の数字も、本当は全く知らない文字で、僕の異能とやらが発動していることで見知った数字に変換されているのだろう。そんなことを思いつつ、俺はユーナを出迎えるために一階へ向かった。


「ベール様! ただいま戻りました!」


 一階に降りてきた僕を見てユーナは嬉しそうに言った。ユーナは両手に大きなバッグのようなものを持ち、さらに背中からはリュックのようなものを背負っている。


「お、おかえりなさい。仕事してきたんですよね、えっと、お疲れ様」


 家に帰ってきた女性を出迎えるなんて勿論初めてなので、緊張してしまう。


「ありがとうございます、ベール様。優しい言葉をかけてくださり、とても嬉しいです」


 ユーナはにこっと笑った。超絶美人のユーナの笑顔は相変わらずとんでもない破壊力だ。


「って、その荷物は何ですか? かなりの大荷物に見えますが……」


「着替えや仕事の道具、その他生活に必要なものですね。これから私はこの家でベール様と生活することになりますので」


「ああ、なるほど……えっと、なんか、ごめんなさい。こんなことになってしまって、本当に申し訳ないです」


 リビングへ移動し、荷物を床へ下ろしたユーナに俺は声をかけた。


「どうして謝るのですか?」


 ユーナは首を傾げている。


「ど、どうしてって……いきなり僕と一緒に生活とか、絶対嫌ですよね。さっき神話の本を読んだので事情は分かってます。王国の将来を考えて、僕の呪いが解除出来なくなると困ると思ったから、仕方なく僕と一緒に生活するわけですよね?」


「仕方なく? 何を言ってるんですか?」


 ユーナは目を丸くしている。何なんだその反応は?


「ベール様は何か誤解をしているようですね。私は決して、仕方なく一緒に生活するわけではありませんよ。むしろ嬉しいんです。ベール様と一緒に、この家で生活出来ることが」


「え?」


 ユーナの色白の頬が徐々に赤く染まっていく。その頬の赤さが、ユーナの言葉に偽りがないことを証明していた。

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