第14話:イチコロ
「ワテが嘘つくわけないやん! ベールはんの小説はほんまにすごいねんで! 国王様も読んでみればええやん!」
「読む! 妾も読むぞ!」
ローリはジャッジマシンを放り投げ、ヴァルから原稿を受け取って読み始めた。イリメも覗き込むようにして僕の小説に目を通している。
「ちょ、国王様! ワテを放り投げるなんて酷いわ! やれやれ……負けたヴァルはんは文階が2979から63下がって2916になるで〜」
「うるさい、静かにしておれ! ふむ……うお……おお……おおお! 何じゃこの小説! こんなに面白い小説は初めてじゃ! これが英雄ベール・ジニアスの文才なのじゃな! 天晴れじゃ! まさに英雄! とんでもないのう!」
僅かな達成感に浸り、同時に追憶してぼーっとしていた僕の前で、ローリは興奮気味に叫んだ。
「そんな……何なんだこの面白さは……信じられない……」
イリメは口に右手を当て、目を見開き、信じられないといった表情を浮かべている。やがて僕に視線を向け、深々と頭を下げた。
「貴方を英雄ベール・ジニアス様と認めます。ここまで面白い小説を初めて読みました。さすがはこの王国を救ってくださる英雄様です。先程の非礼な言動をどうかお許しください。仕事柄、他人を疑う癖が染み付いておりまして……大変申し訳ありませんでした」
「いや、そんな、別にいいですよ……」
「イリメ、これはとんでもないことじゃぞ! やはり神話は本当だったんじゃな! よーし、これでベール・ジニアスの文才の高さが証明された! 今度こそ、そちを今ここでパーブルー王国の代表選手に任命する! 王国を代表して戦ってほしいのじゃ!」
「いいえ、駄目です」
「はあああああああああ!?」
イリメの返答を受けてローリは叫び、イリメの体を拳でぽかぽか殴った。
「何でじゃ! どうしてなのじゃ! テートルで100点をとれる人間なんてベール・ジニアスしかおらん! 文階は12680じゃぞ!? 異次元じゃ! 代表選手に任命するのは当然! そちも分かっているであろう!」
「たしかに100点をとれるのはベール様だけでしょう。最も代表に任命されるべき人といえます。しかし、だからといって今ここで代表選手に任命することは出来ません」
ローリの拳を受け流しながら、イリメは冷静に言葉を返す。
「パーブルー王国の代表選手に選ばれるのは大変名誉なことであり、多くの国民が代表入りを目指して日夜文才の向上に励んでいます。代表選手に選ばれるのは、文才の高さを示して代表選抜大会を勝ち上がった者だけと決められています。にも関わらず、今ここでベール様を国の代表選手に任命してしまっては、代表入りに心血を注ぐ多くの国民から反感を買ってしまうでしょう。何で急にあいつだけ代表になるんだ、おかしいだろ、と」
「う……たしかに……」
「そんなことをすれば最悪暴動が起きます。ただでさえビットの配分量の減少に喘いでいる今、暴動を起こされるのは避けたいです。故に、ベール様には正当な手順を踏んで代表選手になっていただきたい。2週間後に行われる代表選抜大会で勝ち上がり、圧倒的な文才を示していただくことで、正式な流れで代表選手になってほしいのです。どうかよろしくお願いします」
イリメは深々と頭を下げた。様子を見守っていたユーナ、さらにヴァルもそれに倣って頭を下げる。
釣られてローリも頭を下げ、「言われてみればその通りじゃ! というわけで2週間後の代表選抜大会に参加してほしい! 頼む、ベール・ジニアス!」と言った。
「え、えと、その、頭上げてください。そんなに一気に頭を下げられると、落ち着きません……」
僕が言葉を返すと、4人は頭を上げた。
「あの……選抜大会? に参加することが前提になっているように聞こえるんですけど、えっと、その、そもそも僕なんかが参加していいんですか?」
「? 何を言っておる? 文階が12680の人間なんてそち以外おらん。代表選手になるべき人間じゃ」
「いや、よく分からないんですよ、自分に自信がないので、すごいって言われてもよく分からないというか……」
僕はおずおずと声を発した。
「自信がない? どうしてじゃ? それだけの文階の高さを誇るのにどうして自信がないのじゃ?」
「どうしてって聞かれると困るんですけど、その、なんか……」
「ふむ……そう言われてもこちらとしては頼むしかないのじゃ。頼む! どうか代表選抜大会に参加してくれ!」
「ええ……」
どうすればいいんだろう。ここで、安易に出る、と言ってしまうとめんどくさいことになる気がする。
その時視線を感じ、僕は視線を感じる方向に顔を動かした。ユーナが泣きそうな表情を浮かべているのを見て、とくん、と僕の心臓が跳ねた。
反則だ。何でそんな表情をするんだ。超絶美女にそんな儚げな表情をされたら、童貞は、いや童貞じゃなくても99.99%の男はイチコロだ。ずるい。あまりにもずるすぎる。
「……まあ、ちょっとくらいなら……出ても、いい、ですけど…………」
「本当か!?」
「……はい……」
「やった〜!!!」
俺が嫌々発した言葉を受けてローリは飛び跳ねて喜び、傍のイリメとハイタッチした。軽快にローリと言葉を交わし、ハイタッチを拒否しないあたり、イリメはローリと仲がよいのかもしれない。
「感謝感激! なんとお礼を言っていいか分からん! 本当にありがとう、ベール・ジニアス! そちがいてくれれば、誰が相手でも勝てる! 他国の代表を薙ぎ倒して、この王国に多くのビットをもたらしてくれ!」
「いや、その、別に、僕はそんな大した人間じゃ……」
「何をボソボソ言っておるのじゃ! よーし、では今から妾にそちの創作論を伝授してくれ! 妾もたまに小説を書くのじゃが、どうも面白い小説が書けん! ベール・ジニアスに小説の書き方を教わりたいのじゃ!」
「いいえ、駄目です」
「も〜!!!!!!」
ローリは再びイリメを拳でぽかぽかと殴った。分かりやすく不満を表している様子がなんともかわいらしい。一方イリメは無表情でローリの拳を全て捌いている。
「どうしてなのじゃ! さっきから駄目駄目ばっかり言いおって!」
「今日はこの後2回の会議が予定されています。5分以内に会議室へ移動する必要があります。ベール様と話す時間はありません」
「会議なんて出とうないわ! 妾はベール・ジニアスと沢山お話ししたいのじゃ!」
「駄目です。今日の会議は今後の政策決定に関する重要な会議です。国王様が参加しないと会議が成り立ちません」
「どうして妾が会議に出なきゃならんのじゃ!」
「国王だからです」
ローリはぶーっと頬を膨らませて、上目遣いでイリメを見つめている。一方のイリメは冷たい表情でローリの視線を受け止めている。先に折れたのはローリだった。
「ふん! しょうがない、嫌だが会議には出てやるのじゃ!」
「当たり前です。国王なんですから」
「あーもうムカつくのじゃ! ベール・ジニアス、いつか創作論を伝授してほしいのじゃ! 頼んだぞ!」
「あ、はい」
「ありがとう!」
ローリはにこっと笑った。とてもかわいらしくて眩しい笑顔だ。ユーナの笑顔はとても素晴らしいが、ローリの笑顔もたまらなくいい。
「では、会議室へ移動しましょう。ユーナさん、今後のことは改めて相談するとして、まずはベール様を家まで送り届けてあげてください。この世界に転生されたばかりで疲れているでしょうから」
「はい、分かりました!」
ユーナは明るく返事をした。ローリとイリメは部屋から出て会議に向かい、「楽しいバトルでした、失礼します」と言ってヴァルも部屋から出て行った。
「ベール様、お疲れ様でした。今回の小説も素晴らしかったですね。さすがは伝説の英雄です。代表選抜大会での活躍を期待してますよ」
「いや、そんな、別に……」
視線を逸らしながら僕はぼそぼそと呟く。貴方のさっきの表情は反則ですよ、ずるいですよ、とは口が裂けても言えない。ジャッジマシンは「さすがやでベールはん! 最高や!」と言って嬉しそうに飛び跳ねている。
「それでは今から家に向かいます。ベール様が降臨した時を想定して、既に家は用意されています。住み心地抜群の最高級の家ですよ」
「え、そうなんですか?」
「はい、準備は万端です。この王宮から歩いて20分ほどの場所にあります。行きましょう」
まさか家が用意されてるなんて。驚きの連続で段々感覚が麻痺してきた。
「ほな行こか〜!」
こうして僕はユーナ、ジャッジマシンと一緒に王宮から出て最高級と噂の家に向かった。




