第12話:国王 リーロ・パーブルー
「ユーナが職場を飛び出して祠に向かったという知らせを聞いた時、妾の胸は躍った! 神話で英雄に心と体を捧げるとされているユーナが祠に向かうというのはそういうことだと思ったのじゃ! 案の定ユーナは英雄ベール・ジニアスを連れて戻ってきた! 天晴れじゃ!」
少女は両手の親指を突き立て、明るい口調で言った。
この子が国王? こんなに小さい子が?
目を丸くする僕を尻目に、「こんにちは、国王様」とユーナは言って頭を下げた。
「お変わりなくお過ごしのご様子で何よりです」
「うむ! 妾はユーナに会えて嬉しいぞ!」
少女はにこにこと笑みを浮かべている。なんともかわいらしいが、こんな小さな子が本当にこの国のトップなのだろうか?
「ベール様、こちらはリーロ・パーブルー様です。パーブルー王国の国王様で、この国で1番偉い人になります」
「その通り! 妾は国王なのじゃ!」
リーロ・パーブルーなる少女は得意げに胸を張っている。
「ベールはん、どないしたん? まさか国王様に見惚れとるん?」
「あ、いや、えっと……」
「まあ気持ちはよう分かるわ。めちゃくちゃかわいいもんなぁ」
「これこれジャッジマシン! お世辞はよすのじゃ! 妾は別にかわいくなどないわ!」
少女はなんだかとても楽しそうだ。僕は改めて少女を観察した。
ユーナがだいたい22歳くらいの女性の見た目であるのに対して、目の前の少女は高校生、いや中学生くらいに見える。ユーナとの違いを分かりやすく言うと、ユーナは美人なお姉さん系、対して少女はかわいいロリ系だ。
ユーナの卵形の顔と比較して、少女の顔はより丸みがある。丸い大きな目の中の瞳は紫色。目の位置がやや低めで目と目の間隔が広い。鼻と口が小さめで、頬はふっくらとしている。肌の色はユーナと同様に色白だ。
紫色の髪は短く切り揃えられていて、どう見てもおかっぱにしか見えない。その髪型に加えて身長の低さがよりいっそう子供っぽさを助長している。身長は150センチもないんじゃないだろうか。
めちゃくちゃかわいい、というジャッジマシンの言葉は本当だった。ユーナ同様いかにも男から人気が出そうな容姿だ。サイズが大きめな紫色の着物もよく似合っていてとてもかわいらしい。
「国王様、なんかテンションが高いように見えるんやけど」
「当たり前じゃ! 英雄の登場をワクワクしながら待っておったんじゃからな!」
少女は頬を紅潮させながら言い、ゆったりとした足取りで僕に近づいた。
「そちがベール・ジニアスだな?」
「あ、まあ、そうらしいですね……」
「よくぞ参った! 妾はそちのような英雄の登場をずっと待っていたのじゃ! これでパーブルー王国は救われる! いやあ、めでたい! めでたいのう!」
少女はぴょんぴょんとその場で飛び跳ねている。なんとも元気な子だ。
「あ、えっと、国王様、僕はまだ……」
「待て。そんな他人行儀な呼び方は好かん。リーロと呼ぶのじゃ。敬語も使わなくてよろしい」
どうやらこの国の女性は、会って早々名前で呼ぶこととタメ口を求めてくるらしい。
「ええっと、名前で呼ぶのはいいんですけど、タメ口はちょっと……」
「む? どうしてじゃ?」
「ちょっとタメ口はしんどいんですよね……」
「ふむ、そうか。しんどいなら仕方ないな。それで、先程何かを言いかけておったな! 好きに話すがいい!」
少女、ではなくリーロは明るく言った。
「えっと……僕、まだ混乱してるんです。元の世界で死んでしまってこの世界に転生したらしいんですけど、いまいち状況がよく分からないし、僕が英雄とされてるのもよく分からなくて」
「ふむ、気持ちはよく分かるが、そちはベール・ジニアスなのだろう? 神話にそちは英雄だとしっかり書かれておったぞ。ならばそちが正真正銘の英雄ということではないか」
さも当然、といった様子でリーロは言葉を返す。
「いやいや、いきなり英雄って言われても混乱するというか、なんというか……」
「こればかりは受け入れてもらうしかないのう。ジャッジマシンがここにいることから察するに、もうテートルを行ったのじゃな?」
「はい、先程ベール様はとある方とバトルを行い、勝利しました。総合評価は100点でしたよ。文階は12617と認定されました。呪いにかかっているので、文才を取り戻すためにはまた私とハグをする必要がありますが」
「な、な、なんと! 100点! 12617!」
リーロは目を見開いた。どうやら俺が叩き出した成績はよほどすごいらしい。
「それはたまげた! さすが英雄! 見事じゃ! 呪いはめんどくさいが、ユーナに何とかしてもらおうぞ! よし、そちの実力は分かった! そちを今ここでパーブルー王国の代表選手に任命する! 王国を代表して他国の選手と戦ってほしいのじゃ!」
「え? いきなり代表選手になっていいんですか?」
誰が相手でも負けるつもりはなかったが、こんなに急に代表選手に任命されるなんて思ってなかった。俺の疑問に「問題ない!」とリーロは笑顔で返す。
「事態は一刻を争っておる! それに妾は国王じゃ! 国王ならどんなことをしてもおっけーなのじゃ!」
「駄目です」
そこに突如割り込んだ、バリトンの効いた低い声。視線を向けると、いつの間にかすぐ近くに1人の男が佇んでいた。
何だこの男は? いつの間にこの部屋にいた?
唖然とする僕の前で、「も〜!」と言ってリーロは頬を膨らませた。
「イリメ、急に出てくるなといつも言ってるであろう! びっくりするではないか!」
「申し訳ありません、相手に気配を悟られずに動く癖が体に染み付いているものでして」
男はリーロに平然と言葉を返している。身長が高い。190センチはあるだろう。複数の勲章が佩用されている紫色の軍服を身に纏っており、服の上からでも体が引き締まっているのが見て取れる。腰からは刀を提げていた。
短く刈り上げられた紫色の髪、やや細長の顔、鋭い目つき。さらに放たれてる覇気のようなオーラ。只者でないことは一目瞭然だった。
「ベール様、こちらはイリメ・ローブルー様です。優秀な参謀として王国に仕えているお方です。加えて国王様の側近としての役割も担っています」
お久しぶりですイリメ様、と言ってユーナはイリメとやらに笑顔を向けた。イリメはユーナをじろりと睨みつける。
「貴方が急に職場を飛び出したばかりに、大騒ぎになっていましたよ」
「あ……それは申し訳ありません。急いで祠に向かわなければと思って、つい……」
「まあもういいです。問題は貴方です」
イリメは僕に鋭い視線を向けた。
「私は貴方を信用していません。本当に貴方がベール・ジニアスなのか、とても疑わしい」
「ちょ、なんてこと言うんですか! この方は正真正銘ベール・ジニアス様ですよ! 先程のテートルで勝利し、100点を叩き出したんですから! 認定された文階は12617です! どう考えても本物の英雄様じゃないですか!」
「そうじゃイリメ! ベール・ジニアスに違いないぞよ!」
「イリメはん、さすがにそれは疑いすぎでっせ!」
ユーナ、リーロ、ジャッジマシンの言葉を受けても、イリメは首を縦に振らなかった。
「信用出来ませんね。私と国王様はそのバトルを直接見ていません。口裏を合わせて我々を騙そうとしている可能性だってあります」
「おいイリメ、何を言っておる!」
「過去にベール・ジニアスを自称して我々を騙そうとした輩が何人もいたこと、国王様はお忘れではないですよね?」
「う……それは……たしかに……」
イリメの言葉を受けてリーロはおかっぱ頭に手をやり、口ごもった。
「そんなん知らへんし! ワテを信用せんとか絶対許さへんで! あかん、堪忍袋の尾が切れてまいそうや!」
「落ち着いてください。今からテートルをしてもらいます。この目で直接文才の高さを確認しないと気が済みませんので。このような事態を想定して、対戦相手は既に用意してあります」
「え、ちょ……」
混乱する僕の前でイリメがぱちんと指を鳴らすと、背後の扉が開き、1人の人物が部屋に入ってきた。
「はじめまして、私はヴァル・オリブラードと申します。本日はイリメ様からの命令を受け、王宮に参上仕りました」




