第9話:寝とったから分からなんだんやで
こいつ、やりやがった。
僕の存在がバレないようにしよう、ってさっきユーナが言ってたのに。僕は思わず舌打ちをした。
「え……? 」
「ベール・ジニアス様が……?」
「嘘でしょ……?」
ジャッジマシンの底抜けに明るい声を聞きつけた人々が、俺たちに視線を向けている。
「嘘やおまへんで〜! この兄ちゃんが正真正銘のベール・ジニアスはんやねんで〜! さっきテートルの総合評価で100点をとったんやから、間違いやおまへんで〜! 文階は脅威の12617やで〜!」
「ちょっとジャッジマシンさん! 何べらべら喋ってるんですかっ!」
ユーナは振り返り、血相を変えて叫んだ。ブークの前にちょこんと置かれ、ユニサスに同乗していたジャッジマシンは、?とでも言いたげな顔文字を表面に浮かべた。
「何やねんユーナちゃん」
「何やねんじゃないですよ! ベール様の存在がバレないようにしようってさっき言ったじゃないですか!」
「え、そうなん? 寝とったから分からなんだんやで〜! 許してぇや〜」
ジャッジマシンは悪びれる様子もなく言葉を返す。ユーナは慌ててこの場を離脱しようとしたが、時既に遅しだった。ジャッジマシンのよく通る声を聞きつけた多くの人々が、僕の周りにわらわらと集まってきた。
「貴方が伝説のベール・ジニアス様なんですか!?」
「すごいすごい! 神話は本当だったんだ!」
「テートルで100点とったって本当なのかい? あたしとバトルしてくれよ!」
「12617!? ヤバすぎ!!」
「ベール様、どうかパーブルー王国に多くのビットをもたらしてください、どうか……!」
「うわあ、神話通りの超イケメンじゃん!」
「ベール・ジニアス様! 他国の奴らをバトルでボコボコにしてください!」
「ベール・ジニアス様!」
「ベール様!」
老若男女、様々な人々が僕たちを取り囲んでいる。これではユニサスで移動なんて出来そうにない。
「ああ、もう……! しょうがない、非常手段です! ユニサスさん、お願いします!」
ユーナは叫び、ユニサスの体を優しく撫でた。するとユニサスは、ひひんと甲高く鳴いたかと思うと、収納していた翼を瞬時に展開し、同時に飛び上がった。
「お! お! おもろそうやん、ワテも一緒に行くで!」
ジャッジマシンはぴょんと飛び跳ね、浮き上がるユニサスに飛び乗った。ジャッジマシンは許可を得ずに僕の股の間に移動し、「よろしゅうな〜ベールはん!」と言った。何なんだこいつは?
僕、ユーナ、そしてジャッジマシンを乗せたユニサスは空高く舞い上がり、そして猛スピードで空中を移動し始めた。
「うわあああっ! 飛んだ! 怖い!」
「大丈夫です、ベール様! ユニサスの力が働いてますので、絶対に落ちません!」
僕の前でユニサスに跨るユーナが叫ぶ。絶対に落ちない、と言われても怖いものは怖い。
「お〜! ええ景色やな〜!」
怯える僕を尻目に、ジャッジマシンは能天気な声を発している。
「ジャッジマシンさん! 貴方のせいですよ! 貴方のせいでこんなことになってしまったんですから!」
ユーナは振り返り、ジャッジマシンにぷりぷりと怒った。頬を膨らませて怒るユーナはとんでもなくかわいかった。
「しゃああれへんやろ、ワテは寝ててんから」
「そんなの言い訳になりません! 貴方のせいでベール様の存在が皆にバレて、ユニサスで空を飛ぶ羽目になったんですよ! ユニサスで空を飛ぶのは緊急時以外禁止されてるので、なるべくやりたくないんですよ!」
「ぼちぼち、ベールはんが降臨したのは喜ばしいことやねんから、皆にバラしても別にええやん。せやかて、ユーナちゃんは怒った姿もかわいいわ〜!」
「ふざけたこと言ってないで反省してください! もう……ベール様もこのおちゃらけたジャッジマシンさんに何か言ってくださいよ!」
「ああ、えっと、怒った姿もかわいいって意見には同意、ですかね……」
思いついたことをそのまま口に出した。いや、出してしまったと言うべきだろうか。
僕の返答が予想外だったのか、ユーナは息を呑み、色白の頬を俄に赤く染め始めた。
「も、もう! ベール様まで! こんな時にそんなお世辞を言うなんておかしいです! 恥ずかしいのでやめてくださいよ!」
「何を言うてんねん、お世辞やのうて事実に決まっとるがな。なあ、ベールはん?」
「はい、お世辞ではないです」
ユーナの顔がまるでリンゴのように赤くなっていく。その初心な反応がとてもいじらしくてたまらない。
「や、やめてください! 何でジャッジマシンさんとベール様が分かり合ってる感じになってるんですか! これ以上よく分からないお世辞を言ったら怒りますからね!」
ぶーっ、とユーナは頬を膨らませた。何でそこまでお世辞だと思うのかが分からない。自分の美しさを自覚してないのだろうか?
ユーナにぷりぷり怒られるのは避けたかったので、僕は会話を止めて眼下の景色に視線を向けた。ユニサスで上空を飛んでいるこの状況にもようやく慣れてきた。
草原、山脈、湖、森林、峡谷、城、そして幾つもの建造物が集結した無数の街。この国を構成している様々なものに俺は思わず見入った。
「ええ眺めやなぁ……パーブルー王国は豊かな国やな、ほんまに」
ジャッジマシンは顔文字が書かれてる面を下に向け、しみじみと言った。
「はい、パーブルー王国は本当にいい国です。……だからこそ、私は守りたい。ビットの配分量の減少に喘ぎ、苦しんでいるこの王国を、なんとかして救いたいんです」
先程とは打って変わって、ユーナは真剣な表情を浮かべていた。ユーナは深い青色の瞳を僕に向けた。
「ベール様、改めてお願いさせてください。王国のために、ベール様の文才をお貸しください。私はベール様に心と体を捧げる所存です。他にも望むものがあるなら全て提供しますので、どうか、どうかお願いします」
真剣な声音に、僕は頷きを返すことしか出来なかった。




