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第1話:文才転生

「今日更新された龍紋の小説読んだ?」


「読んだ読んだ! めっちゃ面白かった!」


「面白いよね〜!」


 大学へ向かう道すがら、赤信号が青になるのを待っていた僕のすぐ横で、2人の女性がスマホを片手に楽しげな声を上げた。恐らく僕と同じく大学に向かうJDだ。龍紋、という名前に僕の体がぴくっと反応する。


「まさかあんな展開になるとは思わなかったなぁ……何であんなに面白い小説が書けるんだろうね?」


「ほんとそれ。私も趣味で小説書いてるんだけど、龍紋の小説とはクオリティが天と地の差だよ。マジで萎えるわ〜」


 比べるものじゃないですよ、と僕は心の中で呟いた。


 この横断歩道の信号はなかなか青にならないことで有名だ。ふと周囲に視線を向ける。1年の終わりに差しかかった北海道の地では最近毎日のように雪が降っており、例に漏れず今日も雪が降っていた。寒い。見渡す限り視界が白に染まっている。


「今日更新されたばかりなのに、もうPV20万超えてるよ。ヤバすぎ。何? PV20万って。お化けじゃん。私の作品なんてPV500にすらいかないんだけど」


「比べちゃ駄目だって。たしか龍紋って中学生の時にプロデビューした天才だよね? そんな人と比べちゃ駄目だよ。私たちとは頭の構造が違うんだから」


「まあそうだよね〜」


 天才でもなんでもないですよ、と僕は再び心の中で呟いた。その時ちょうど信号が青になった。横の女性2人はどういうわけかその場を動こうとはせず、スマホに視線を落としていた。僕は足元に気をつけながら慎重に足を動かした。


 違和感に気付いたのはその1秒後だった。


 車のエンジンの音が聞こえた。やけにうるさい音だった。あれ、何かな、と思った僕の目に飛び込んできたのは、大型のトラックのフロントガラスと眩い光。


 あ、まずい、と思った時にはもう手遅れだった。


 信号無視で突っ込んできたトラックは、僕の体を思い切り吹き飛ばした。


 全身が痛い、というか熱い。


 あれ、今僕は宙に浮いてる? 体がひしゃげてる? よく分からない。


 あ、駄目だこれ死ぬやつだ、と0.1秒後に確信した。


 何で? 今まで真面目に生きてきたのに、僕はここで死ぬの? 夢半ばで、童貞のまま、死ぬの? そんな、嫌だ、嫌だ……。


 痛さを通り越した熱さに全身を貫かれながら、僕の意識は漆黒の闇へと沈んでいった。


 ――――――――――――――――――――――――――

 寒い。


 感じるのは寒さだけだ。今の僕には、目も、耳も、何もない。実体がない。感じるのは凍てつく寒さだけだ。実体がないのに何故寒さを感じるのかはよく分からない。


 寒い。


 ここはどこなんだろう。天国? 地獄? 特に悪いことをした覚えはないから天国に行けたと信じたい。


 寒い。


 どうしてこうなったんだろう。青信号だったよね? 僕は何も悪くないよね?


 はああ、まさかこんなところで死んでしまうなんて。悲しい。ただひたすら悲しい。人間である以上いつか必ず死ぬのは分かってるけど、僕はまだ20歳だよ? 20歳で童貞のまま死ぬのは、すごく悲しいなぁ……。


 さむ……あ、あれ? なんかちょっと温かいぞ?


 ……うん、間違いじゃない。温かい。何だこれ? しかも、さっきまで実体がなかったのに、今は少しずつ感覚が戻っていくというか、回復していくというか。よく分からないが、未体験の感覚だ。


「…………さい」


 あれ? 声?


「…………です…………さい」


 何だ? 女性の声が聞こえる。まるで声優のように透き通った声だ。こうしている間にも、体の感覚がどんどん回復していく。トラックに撥ねられる前の自分に少しずつ戻っていくのを感じる。


「…………様…………いです…………ください」


 様? 今、様、って言った? どういうこと?


「ベール様っ! お願いですっ! 目を覚ましてくださいっ!」


「わわっ!」


 突然響いた大きな声に呼応するように、意識が完全に覚醒した。僕は目を開けた。目を開けられることに驚いた。ついさっきまで目なんて無かったのに、どうして?


「はあああ……! やっと……やっと目を覚ましてくれたんですね……!」


 視界に飛び込んできたのは、目を輝かせている見知らぬ女性の顔だった。


 とくん、と僕の心臓が跳ねた。そこで今の自分の体には心臓があることに気付いた。


 小ぶりの顔は卵形で、ぱっちりと大きな瞳は青色。海の如く深い青に思わず見入ってしまいそうだ。整えられた眉は緩やかな曲線を描いている。のびやかにカールした睫毛、すっと通った鼻筋、ピンク色のふっくらとした唇。


 フェイスラインは自然な丸みを帯びており、美しさを引き立てている。肌の色は少し色白だ。青い髪は短く切り揃えられている。ショートボブという髪型に違いない。


 とんでもない美女だということは一目で分かった。そして何故か異様に距離が近い。


 え、誰? これは一体どういう状況なの?


「初対面にも関わらず、さらに転生されたばかりにも関わらず突然このようなお願いをするのは失礼だと重々承知しています! しかし緊急事態なんです! お願いします! どうか、貴方様の文才で、我がパーブルー王国の危機を救ってください!」


「…………?」


 ぱーぶるーおうこく? きき? 何を言ってるんだ?


 先程までぼーっとしていた頭が、徐々に明瞭になってきた。僅かに顔を動かし、今自分が置かれている状況を確認し、僕は息を呑んだ。


 僕は今、謎の美女に抱き起こされている。


 先程感じた温かさが、美女の体の温もりによるものだったと気付いたその瞬間、僕の全身の体温がかああっと上昇し、さらに股間の辺りが猛烈に熱を帯び始めた。その反応から今の自分には体があることに気付いた。実体がなかったさっきまでとは感覚が全く違う。


 は!? 何これ!? 何で僕は美女に抱き起こされてるの!? やばいやばい! 女性にこんなことされるのは初めてだから緊張がやばい! 


 何これ!? しかもこの人めちゃくちゃ美人だしおっぱいがでかい! 童貞には刺激が強すぎるって!


「重要な事実を真っ先に伝えます! 貴方は文才で王国を救ってくださる英雄ベール・ジニアス様です! 頑張って王国を救ってくだされば元の世界に戻れます! 神話でそう定められています! ただし転生と同時に呪いがかけられました!」


「…………?」


「呪いによってベール様の文才は元の1/1000になっています! これは生まれたての赤ん坊の文才とほぼ同じです! とまあこのような呪いがかかっていますが、私と一緒に何とかしていきましょう!」


 謎の美女は真剣な表情で言った。


 だから貴方は誰なんですか? さっきから何を言ってるんですか? その問いをぶつけるべく、僕は口を開いて声を出すべく息を吸い込んだ。


「……あ、あの、貴方は……」


 え!?


 な、何だこれ!? 何だこの声は!?


 僕の声じゃない。はっきり分かる。僕の声はこんなに綺麗じゃない。何だこれは? 一体何が起きてる?


「文才を取り戻す方法はありますが、今は説明を省きます! まずは王宮に行きましょう! 国王様がベール様の到着を待ってます!」


「え……えと……これは一体……」


「その返答を肯定と解釈します! 立ってください! 行きますよ!」


「ちょ、ちょっと!?」


 美女は俺の体を勢いよく持ち上げた。持ち上げられて俺は上体を起こし、そのまま立った。2本の足で立っている、という事実に少しだけ感動した。


「手を握りますよ! 失礼します!」


 美女は俺の返答を待たずに俺の手を握り、早足でずんずんと歩き出す。釣られて俺も足を動かした。美女の身長は165センチくらいだろうか。身長170センチの僕よりも少し小さい。


 女性と手を握っている、という状態に思わずドキドキしてしまう。僕は陰キャの童貞だから致し方ない。


「あの、えっと、今何が起きてるんですか……? な、何かのドッキリですか……?」


「説明は後です! とにかくまずは王宮に行かないと!」


「……ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 僕は勇気を振り絞って言い、思い切り足を踏ん張ってブレーキをかけた。「わっ」と美女は言い、振り向いて僕に驚いた表情を向けた。


「どうしましたか?」


「ど、どうしましたかじゃないですよ……えっと、その、気になることがあって……」


 視線を逸らし、体をもじもじさせながら僕は言った。


 陰キャの僕が、勇気を出して見知らぬ謎の美女に「ちょっと待って」と言えたのは、先程の美女のとある言葉がどうしても引っかかっていたからだ。


 貴方の文才は元の1/1000。美女はたしかにそう言っていた。


 どういうことだ? 何を根拠に? 大体それが事実だとして何故貴方にそれが分かる? 貴方には文才が見えているのか? 文才を定量化出来ているというのか?


 次々と疑問が浮かび上がってくる。そして何よりも、その言葉を信じたくない自分がいた。こんな自分から文才を取ったら、何も残らない。故に美女の言葉をどうしても追求したかった。否定したかったのだ。


「あ、あの、その、文才が1/1000とか言ってましたよね、それはどういうことかと思って……えっと、1/1000とかよく分からないし、そもそも文才は測れるものじゃないのでそう表現するのはおかしいというか、なんというか……」


 しどろもどろになりながらも、はっきりと気持ちを伝えた。美女は黙って僕の言葉を聞き、聞き終えた後に「そうですよね」と呟いた。


「気持ちはよく分かります。俄には信じられないことでしょう。では、私の言葉が真実だと分かってもらうために簡単な要求をします」


「よ、要求……?」


「はい。そうですね……では、火、を題材にした小説のアイデアを考えてください。長編短編は問いません。これから火を題材にした小説を書くとしたら、どんなアイデアを思い浮かべますか? 何でもいいので、些細なことでいいので思い浮かべてみてください。すぐに今の状況が把握出来ると思いますよ」


「は……?」


 初対面にも関わらず、いきなり小説のアイデアを考えろ、だって? 何を言ってるんだ? そもそもこれはどういう状況なんだ?


「アイデアを思い浮かべることが出来ないんですか?」


「い、いや、出来ないというか、そもそもいきなりそんなことを言われるのが意味不明というか……」


「もう一度問います。出来ないんですか?」


 美女は凛とした声で言い、じっと僕を見つめた。慌てて僕は視線を逸らした。


 出来ないんですか、って出来るに決まってるじゃないか。舐められているように感じ、僕はほんの少しだけ苛立ちを感じてしまった。


 しょうがない。よく分からないが、ここは要求通りアイデアを考えることにしよう。いつもやっていることをここでやればいいだけだ。そうだな、火、火……。


 …………え?


 そんな。


 嘘だ。まさか、この僕がこんなこと、ありえない。嘘だ、嘘だ……。


 アイデアが、微塵も浮かばなかった。


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本日より毎日不定期の時間に更新します! 頑張って書いていきます!

少しでも「面白い!」「この先の展開が気になる!」と思ってくれた方は

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