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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第九章──裏切りの青い空⑤

 うん? 

 少佐の二番機が高度を取りつつあった。三番機もそれに合わせ上昇を開始する。

 なんだ?


 次の瞬間、ペーターセン機が加速した。この動きは──。

 俺は無線に怒鳴った。

「ノア、緊急回避だ。左にバンクして回避!」


「え? なに?」

 ほとんど同時に後方のBf109の機首が赤輝した。ラインメタルMG一五一/二〇の機関部が作動し、毎分六〇〇発の発射速度で秒速八三〇メートルの付与魔法弾を……なんてこった!


 Bf109が放った最初の一発が国王専用機──ノア操るエリキウスの鼻先を掠める。

 ノアの悲鳴と共に国王専用機が急速なバンクを決める。

 間髪入れず俺はスロットルを全開にした。

 速度計の針が見る間に右に向け傾き、操縦桿を思いっきり引く。


 高速失速の変形でBf109群を回避した俺はなおも発砲を続けるペーターセン少佐機に怒鳴った。

「ペーターセン少佐、何の真似だ!」

「実は訳ありでな。国王には死んでもらう!」

 瞬きする間に三機のBf109が突っこんで来る。


 ロールを打って照準を定めた俺は裏切り者たちが乗るBf109に照準を……合わせた、と思った瞬間、少佐の機体が激しく横滑りする。

 素晴らしい回避運動だ。それでも構わず俺は照準環に入った少佐のBf109に対し引き金を絞る。


 一瞬のうちにイスパノリンデ二〇ミリ機銃四門が発砲を開始する。真蒼に曳光弾が突き進み、Bf109の主翼端を掠める。その時、心の中で彩夏の声が響いた。

(彩夏、ファイアブラストは使うな。国王専用機を巻きこみかねない。使えるのは照準環だけだ)

「了解! クレア、ファイアブラストは使用禁止だ。ノアのエリキウスを巻きこむ恐れがある!」


「了解」

 あくまで冷静なクレアの声に俺は心の動揺を取り戻した。理由は判らないがBf109三機は敵だ。

 俺の任務はノアが操る国王専用機──エリキウスを護りつつ、Bf109三機を無力化する事だ。

 こちらの意志は敵にも伝わったらしい。無線をほとんど使わず三機のBf109が突っこんできた。


 スピナーに空いた大穴からラインメタルMG一五一/二〇が赤輝し、曳光弾が続け様に放たれる。必死に回避機動を続けるノアの国王専用機に銃弾が掠め、次の瞬間ノアの悲鳴が響いた。

「やられたのか、ノア!」

「コクピットを貫通。人員負傷はゼロ! 彩夏、クレア、こいつらを追っ払って!」


「判ってる!」

 応じつつ俺は本気でペーターゼン機を狙った。

 クレアも完全に戦闘モードだ。

 イスパノリンデ二〇ミリが蒼穹に木霊し、次の瞬間敵三番機が爆発した。


 四〇〇リットルの容量を持つ座席シート下の燃料タンクが誘爆し、バラバラに砕け散ったダイムラーベンツDB605エンジンが、VDM製三翔プロペラが虚空に向け吹き飛ばされていく。

 俺は高速旋回を続けつつペーターセン少佐の背後にラニウスを近づけた。


 単純な旋回性能ではラニウスはBf109に勝てない。なにしろ現代のB1爆撃機を一回り小型化した大きさだ。

 ただし、旋回率──一秒間にどれだけの角度を回り旋回出来るかを現した数値ではラニウスはBf109を圧倒する。


 単位は○○度/秒で、仮にBf109が五度/秒だったら一周旋回するのにかかるのは一二秒。ラニウスの旋回率はスロットルを全開にした場合八秒だ。

 つまり旋回半径が大きくても、一周回るのに必要な時間が短いのだ。

 俺は照準環のセンターにペーターセンのBf109を捉えた。無線を入れ、警告する。


「少佐、完全に後ろを取った。今、四門の二〇ミリ機銃があなたを狙っている」

「判った。何が聞きたい?」

「なぜだ!」


 一瞬の沈黙を経て、ペーターセン少佐の重々しい声が返ってくる。

「息子のエミールが膠原病で臥せっている。博識な彩夏君、膠原病のことをどこまで知っている?」

 彩夏の心の声が俺に説明を求める。

(彩夏、膠原病って何か、判るか?)


『簡単に説明するには難しい病気だ』

 俺は無線のスイッチを切り替え、ノアやクレアにも聞こえる周波数に変更した。

「少佐の息子が罹患した膠原病は、一つの病気ではない。まとまった複数の病気を簡単に略してそう呼ぶ。主な疾患は臓器不全、原因は免疫システムの異常で自己免疫疾患の一種とも言える」


「治療法はあるの?」

 ノアの無線に俺は首を振った。

「膠原病には、間質性肺炎を初めとする多数の病気が含まれる。治療法は、特効薬はない。少なくとも俺の知識にある膠原病にある程度効く薬は、ステロイドくらいだ」


「そんな……」

 時代がもう少し経てば、シクロスポリンやアザチオプリンといった免疫抑制剤が使えるはずだが今は無理だろう。何しろ一九四〇年なのだ。


「ところがゲルマニアの魔法医学を用いれば、膠原病は完治可能なのさ。俺は息子の命と引き替えに祖国を裏切り、機銃を国王専用機に向けたんだ」

「なるほど……息子の命を盾に脅迫を受け、ゲルマニア諜報部に情報を流し、最後は国王専用機の撃墜に動いたということか。協力していた部下二人の理由も……」


「家族の病気が理由になった点は同じさ」

「転移直後に無理矢理俺をスピットファイアに乗せたのも、ゲルマニア軍の指示か?」

「使えるドラゴンナイトが産まれる前に、素人同然の君をBf109編隊に始末させる計画だった。結果は逆になり、デンマーク空軍の交戦能力はむしろ高まったがね」


「俺がノアと訓練中にゲルマニアドラゴンが現れたのも……」

「完熟訓練前に撃墜し、戦死に見せかける予定だった。だが、君たちペアは俺の狙いを見事に凌駕し、生き延びてしまった。これで理由は判っただろう。さあ、やってくれ。Bf109を五〇機以上撃墜した君の手で処刑されるのなら、本望だ」

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