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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第九章──裏切りの青い空④

 彼らは頭では理解していた。ドラゴン相手の空戦とはそういうものである。パイロットの一部には一九三六年から二年にわたり戦われたスペイン内戦で、ドラゴン相手に戦い、生き延びた者もいた。

 これは本当に貴重な実戦の機会で、この内戦を除けばヨーロッパの対ドラゴン空戦は存在しなかった。


 スペイン内戦でゲルニカ爆撃を中心に活躍したドラゴンナイトは強力な武器かつ抑止力と見なされていた。それを彼らはいささか失念していたようだ。

 空戦の流れが変わった。


 重苦しい空気の中、悲愴な覚悟を以て出撃したデンマーク軍のスピットファイアマークⅤの編隊が一斉に分散し、それぞれ動揺するBf109群に襲いかかった。

 主翼に搭載された二門のイスパノリンデ二〇ミリ機銃が唸り、炸裂弾がBf109の胴体を捉える。高空性能の優勢を除き、Bf109とスピットファイアマークⅤの性能はほぼ互角だ。


 基本は高度においてやや優勢なスピットファイアマークⅤでBf109の上を取り、一撃離脱で敵機を墜とす。

 ロールスロイスマーリン五〇液冷エンジンが唸り、改善されたロールルート──羽布張りから金属製に換装され強度が上がった補助翼が機体を迅速に反応させる。


 マイナスG発生時におけるエンジン停止問題もマーリン五〇液冷エンジンでは改善され、高々度から中高度までの万能性を手にしたのがスピットファイアマークⅤだ。

 シャール少佐の操るスピットファイアマークⅤの両翼が赤輝し、付与魔法添付済みの二〇ミリ弾がBf109のエンジンを撃ち抜き、爆発する。


 徹甲弾、炸裂弾、曳光弾、焼夷徹甲弾徹甲弾、炸裂弾、曳光弾、焼夷徹甲弾……あらゆる弾種と付与魔法弾が虚空を飛び、真蒼にオレンジ色の曳光弾の輝跡が激しく交差する。


 七分後には空戦の結着は着きつつあった。

 損害一一機のスピットファイアマークⅤに対し、ゲルマニア軍は六〇機以上のBf109を喪い、戦場領域を離脱しつつある。


 俺は周辺を見回した。

 国王専用機──ノア中尉が操縦するエリキウスは無事。その横を護衛で飛ぶのはクレア中尉のシュトルヒだ。俺は心の中で彩夏に話しかけた。


『彩夏、何かコメントはないか? 索敵の不備でもあるなら教えてくれ』

(こちらも見ているが問題ない。このまま飛び続けろ)

『了解』

 心の中で返答しつつ俺はため息をついた。彩夏の補償付きだ。大丈夫。何も問題はない。


 俺は全周を警戒しつつ蒼穹を見上げた。暫く見るうちに戦闘機の編隊を発見する。

 少数のスピットファイアに混じり……その中にBf109がいた。

 数は三機。表情が引き締まり、操縦桿を傾け戦闘態勢に移行……する寸前、無線が入った。

「撃つな、彩夏。俺だ」


「その声は、ペーターセン少佐ですか?」

 無線と共にそのBf109はバンクを繰り返した。

「ああ。国籍マークをよく見ろ」

 デンマーク空軍の国籍マークは、いわゆるラウンデルだ。


 円を基調にしたデザインが特徴で、デンマークの場合、外縁部が赤、内円部が白の二重丸の組み合わせだ。

 一方、リンデベルンの国籍マークは赤地と白十字。


 リンデベルン単体なら胴体、主翼、尾翼ともこのデザインだが、今回のようにデンマーク空軍派遣の場合、雇い国の国籍マークを主翼に記し、尾翼にリンデベルンの国籍マークを組み合わせて表示する。

「敵編隊撃退、おめでとう。あとは国王専用機を護衛するだけだ。三機編隊のうち、真ん中が専用機だな?」 


「そうです。ほっとしましたよ、少佐」

「大活躍でさぞ疲れただろう。国境線までの護衛は俺たち三機がやる。お前等は巡航速度に戻してついて来い」

「了解」


 俺は再び大きなため息をつき、スロットルを絞った。同時に無線を入れる。

「ノア、クレア、聞いた通りだ。巡航速度まで落とし、全体を整えるぞ」

「こちらクレア、了解」

「こちらノア、地上管制に連絡して敵機の動向を探った方がよくはない?」


「いい考えだ。ペーターセン少佐、そちらから地上管制に要請を……」

「今、やっている。返事が来るまで二、三分はかかるだろう。今からスピットファイアマークⅤの編隊編成をやるぞ。既定燃料ギリギリの機体はスロットルを絞れ。燃料が切れたらブリタニアまでたどり着けなくなるぞ」


 各機の小隊長から次々と了解の返答が入る。それを聞きつつ、俺は心の中で彩夏に語りかけた。

『彩夏、ここまでの対応に問題はないか?』

(特にないな。燃料切れに機を配るのは自然な話、ざっと見て四〇機はBf109を撃墜したお前の体調に機を配るのも指揮官機として当然だ)


『そうか……ならいいんだ』

 応じつつ、俺は心のどこかに引っかかりを感じていた。それについて彩夏に心の中で語りかけると、

(そりゃ、自分の後ろを鹵獲品とは言えBf109に任せている違和感だろ。何しろさっきまでは敵として戦ってきた機体なんだからな)


『そういうことか』

 背中を預ける相手に対する不信感。

 Bf109がそうだと言われても先程までの戦闘を考えれば違和感は当然か。


 ましてや俺はペーターセン少佐とあまり親しくない。どちらかといえば同じ傭兵隊のシャール少佐の方がしっくり来る。

 バックミラーにペーターセン少佐のBf109を捉えつつ。俺は周辺を警戒し続けた。

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