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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第八章──決心と覚悟④

 頷いたシャールがこちらに顔を向け、乾いた声を発する。

「と言うわけだ。お前等二頭のドラゴンで国王専用機を護衛する。頼んだぞ」

「具体的なフォーメーションは?」

 俺の質問にシャール少佐は肩をすくめつつ応じた。


「基本は二機編隊のロッテ。後は状況に合わせ臨機応変に対応しろ」

「つまり『任せたぞ』ですね」

「そういう事だ。どっちがリーダーをやるかも二人で話し合って決めればいい」

「それでいいんですか?」


「制空戦闘や邀撃戦なら話は違うが、護衛だからな。ある意味前例がない。だから一任する。不服か?」

「いいえ」

 俺はクレアとそろって返事をした。

 微笑み返したシャール少佐はペーターセン少佐に向け肩をすくめた。


「ということです。続きをどうぞ」

「以上でブリーフィングを終える。パイロットはそれぞれ自分の愛機の整備を手伝え。時間は充分あるが準備のしすぎという事はない。総員、かかれ」

 少佐の声を合図にパイロットたちが一斉に立ち上がった。それぞれ私語を交わしつつ廊下に出て去っていく。


 最後に残ったのは俺たち四人組だった。

「ノアとニールスは専用機到着待ちだから、それまで暇を潰すわけか」

 俺の声にノアは微かな笑みを返す。

「そういうことね。着陸予定時刻の一〇分前までは二人で基地内にいるわ」


「わかった。それじゃ……短い付き合いだったが、ここでお別れかな?」

 一瞬、虚に打たれたような表情になったノアは、こちらを見つめた。

 ほんの二秒ほどだったかもしれない。

 その瞳には微かな戸惑い、動揺があった。


 何かを訴えるような色とそれを抑える自制の輝き……蒼い瞳が震え、続いて彼女は瞬いた。

「……そう、ね。私たちは専用機と共にブリタニアへ亡命するのだから、あなたの言う通り……ここでお別れよ」

「どうしてもそうなっちゃうよね……寂しくなるな」


 ニールスが心の底から残念そうな響きの声を発した。瞳に幻滅に近い色が浮かび、消える。

「短い間だったけど、お兄さんが出来たみたいで、楽しかったよ、彩夏」

「俺も、弟が出来たみたいな気持ちだったよ、ニールス」

「いいえ。私たち四人、また会えるわ」


 不意に響くクレアの声に俺は振り向いた。

 クレアの瞳には困惑や動揺はなかった。その瞳は力強く、まっすぐに俺たち三人を見つめている。

「クレア……」

 戸惑いを秘めたノアの声が続くが、クレアの力強い声が周囲を圧した。


「生きてまた会える。そう信じて戦えば、願いはきっとかなう。そうでしょ、ノア」

 唖然と見つめるノアの表情が緩み、笑みに変わった。

「そう……そうね。生きてまた会える。そう信じて戦えば……」

「なら、誓いを形にしないか」


 不意に閃いた俺は二人に割りこんだ。

「形に?」

 ノアの声に俺はうなずき、押えた口調で言った。

「四人で掌を重ねるんだ」


「四人で一つという意味ね。やりましょう、ノア」

「僕も賛成だ。やろう、姉さん」

「四機編隊ね。わかったわ」


 ノアの同意を得た俺は、自分の右手を出した。その掌にノアのそれが重なり、クレアが続き、最後にニールスの小さな掌が重ねられた。四人一体の掌重ねが成立する。

「俺はこの時を忘れない。次に交わすときは、生きて戦い抜いた後だ」

「長い戦いになるかもしれないけど、大丈夫?」


 クレアの声に俺は顔を覗きこむようにして応じた。

「戦ってみせるさ。絶対に生き延びて戦後を迎えてやる」

「その意気だよ、彩夏。僕もブリタニアから机上の戦いをやる」

「期待している。おまえの戦略学でゲルマニア軍を打ち負かしてくれ」


「うん。やってみる」

「私は前線に出ると思う。場合によっては彩夏、あなたの率いる傭兵軍と上空で一戦交えるかもしれない。それでも生き延びると言い切れる?」


「ギリギリで生き延びる道を探すさ。たとえそれが、針の糸を通すようなか細い道でも生き延びて見せる。だからノア、お前も……」

「生き延びるわ、絶対に」

 俺たちはそれぞれうなずき返した。


 思えば精神転移後、この三人とは濃密な時間を過ごしてきた。ノアとは模擬空戦とゲルマニアドラゴンの制圧、ニールスとは戦略学、地政学の話、クレアは負傷した俺をリンデベルンで癒やしてくれた。

 ある意味、全員が恩人だ。


 その彼らと、永きにわたる戦いを生き延びる誓いを立てた事は俺にとって何よりの励みになった。この思いがあれば、覚悟を以てこれからの軍務を続けられるだろう。


 それから俺たちは二手に分かれた。

 俺とクレアは融合するスピットファイアの整備を手伝い、ノアたちは……どこに行ったのか判らない。恐らく二人きりでも間が持つ特別な場所があるのだろう。

 格納庫の一角で整備兵を手伝い、手を動かしていると頭の中で黒田彩夏の声が響いた。


(理人、少し、寂しくなるな、これからは)

『後は流れに任せるしかないさ。今は、想定されるゲルマニア軍の襲撃を躱しつつ、護衛の任を全うするだけさ』

(違いない。それにもう一つ、おめでとうを言わせてもらうよ)


『なんだい、おめでとうって』

(決心を決め、覚悟を以て戦場に赴く。今のお前を示した言葉だよ)

『どういうことだ?』


(決心は、ある意味誰でもできる。これで行くと心の中で決めれば、それで終いだ。だけど覚悟は違う。決心して進んでも課題が山積みで諦めるなんてことが幾らでも起きる)

『なるほど。そこで腹を決めるのが覚悟って事か』


(“決心し、覚悟を以て戦場に赴く”は、黒田家の家訓だ。指揮官の決心云々は軍将校なら教育過程で叩きこまれるが、それを本当に実現するには覚悟が必要だ。俺は、あの三人と拳を重ねた事でお前の覚悟を受け取った。きっと三人も、今は理解出来ずとも必ず同じ道を進む。そういう舞台に立ち会えた事が俺は嬉しいんだ)


『決心と覚悟か……指揮官になるって事は、大変なんだな』

(うん。楽な道じゃない。安寧に溺れた者、弱気になった者から脱落し、消えていく。そういう例を黒田家の長い歴史は何名も見て来た)

『辛い話だな』


(楽な道はないさ。パネルを閉じるとき、指を挟むな。ついうっかりが一番恐いんだ)

『大丈夫だよ』

 と、俺は胴体の整備パネルを閉じ、整備兵の手伝いを終えた。上空では戦闘空中哨戒を命じられた友軍のスピットファイアが旋回を続け、やがて時計の針が〇八五〇──午前八時五〇分を指す。

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