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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第七章──戦線復帰③

 見覚えある自動小銃が目の前にあった。

 外見は一九三六年米軍が採用したM1ガーランドに似ていたが、違いもある。

 小銃の中央部下部に弾倉が着いていた。

 そのデザインは一九五四年に設計された戦後アメリカの自動小銃M一四そっくりだった。


 とはいえ違いもある。口径を調べると米軍規格でなく、日本規格の六・五ミリ、昔から使われている三八式小銃と同じと判った。

 他には……菊の御紋章がなく、ただ小銃の上面に「試作九七式」の刻印が打たれていた。

 この自動小銃は試作品だ。それを俺に託した黒田冴子の意図は……思わず背筋が震えた。


(どうした、理人?)

 俺は彩夏にこの小銃が戦後アメリカが開発、採用したM一四自動小銃によく似ていることを伝えた。

(どういう事だ? 偶然か?)


「そうかもしれない。米軍が四年前に採用したM1ガーランドを元に、日本側が弾倉付きのタイプを開発し

たら、たまたまこのデザインになったのかもしれない。M1とM一四はよく似ているからな」

(でも、理人はそれを信じていない?)

「ああ……未来から来た転生者がこの小銃を設計、日本軍に提出したのかもしれない……つまり……」


 この小銃こそ未来からの精神転移者である俺──鳥飼理人への明確なメッセージなのだ。

『お前は二〇年前の過去からではなく、未来から精神転移して来た存在ではないか?』

 餞別として試作小銃を俺に託すことで、黒田冴子は俺にメッセージを送ってよこした。

 返事は……次回、再び遭う時までしっかり考えておけということだ。


(日本陸軍に、理人と同じ未来からの転生者が存在する……という事か?)

「かもしれない。一方でこのデザインは、M1ガーランドの発展改良版とも言える。その場合、デザインがたまたま被った可能性もゼロじゃない。日本陸軍は、米陸軍と友好関係にあるんだよな?」

(安保条約を結ぶくらいだから米軍は日本軍の仲間だよ。となると、微妙なところだな)


「ああ……未来からの転生者が作ったとも言えるし、M1ガーランドの日本版を作ろうとしたらこのデザインになったとも言える。どちらなのか、これだけでは判別がつかん。最後に何てものを残していったんだ、黒田冴子は」

(だから、一筋縄でいかない姉と言っただろう?)「疑い出せばきりがないな」


(そうやって疑心暗鬼に追いこむのが、姉の戦略かも知れない)

 俺たちはそろって大きなため息をついた。

「これじゃ釈迦の掌の孫悟空だな」

(同感だ。そういう姉だとよく判っていたけど、ああ……だから俺はここに逃げてきたんだよ)


 俺はあらためて彩夏に同情した。

 陸軍中佐にしてドラゴンナイトの姉。

 その思考は海よりも深く、他人のやる事を十手先まで見通し、相手の隠し事すら簡単に探り出し、布石を打ってくる。


 しかもドラゴンナイトだ。

 軍籍を持つ点において支障がない。彼女の父親、黒田家の男たちはある意味安堵しているだろう。黒田冴子がただの女なら、今ごろ『冴子が男だったら』という哀しみを噛み締めていたはずだ。

 それが男女を問わず軍籍を授かるドラゴンナイトになることで一切が覆り、問題点が解決された。


 ドラゴンに乗って戦うとは、それだけの戦略的意味がある軍事的福音なのだ。

 ある意味、呪いとも言える。

 性別を問わず前線に出され、強力な敵と対峙し、戦いを強要される。

 一つ間違えれば、この間の俺のように視力を失う寸前まで追い詰められ、盲目の人生を送る恐れすらある。


 戦いに勝つとしても、一度の会戦で一〇機以上の敵機を撃墜、それだけの数の敵兵を殺す立場になる。

 覚悟がいる仕事だ。

 そのリスクを承知し、黒田冴子はドラゴンナイトの道を選んだのだ。

 だからこそ侮れない。


 年齢は二四歳と俺より下だが潜ってきた修羅場は俺を遙かに上回る羅刹が黒田冴子だ。

『これにどう対応する?』

 彩夏の心の声に俺は若干沈黙した。

 直ちに反応する必要はない。


 それだけは判る。向こうは日本に向け飛び立ったばかりで、再度こちらと会う機会は少なく見て数カ月は先だろう。

「次に彼女と会う機会があるのは、欧州の戦局が動いたとき、あるいは俺たちの身辺に何かがあった時だ」

『なら、一時棚上げかな。それにしても……試作品を餞別に贈るなんて、我が姉ながらどうかしている』


「俺も心の中がぞっとしたよ。仮に日本が未来からの転生者を確保しているなら、その知識を使い、日本がなにをしているのか、全く見通せないのが不安なんだ」

『未来の日本って、そんなに不安定なのか?』


「俺のいた日本では、一九四一年一二月、アメリカに対し宣戦を布告、ハワイ真珠湾を奇襲攻撃して戦争を始めたよ」

『結果は……聞くまでもないか』

「そう。三年八ヶ月戦い、一九四五年八月一五日、連合軍に対し無条件降伏をした。惨敗だよ」


 俺はため息をついた。その時、天井のスピーカーから意味ある音声が流れた。

「黒田彩夏、士官室に出頭せよ。繰り返す……」

 俺は小銃を素早くロッカーに入れ、制帽を脱ぎ、鍵をかけた。俺の負傷は癒え、黒田冴子は去り、ドラゴンのラニウスも復調した。残る要件は言わずもがなだ。


 士官室に出頭すると待っていたのは予想通りシャール少佐だった。

「黒田冴子から贈り物をもらったようだが、中身は何だった?」

「日本陸軍が作った試作小銃でした。見聞をご希望なら提出しますが……」

「いや、その必要はない。呼び出したのは他でもない。今より我々はデンマークに戻る」


「はい。覚悟はできています。戻るのはフュン島の基地ですか?」

 最も気がかりな点を口にすると即答された。

「そうだ。イースコウ基地は、お前がリンデベルンに来て以来、数度にわたる爆撃で一定の打撃を受けたが、持ちこたえている。一刻も速くラニウスと共に戻り、防空戦を戦って欲しい。やれるか?」


「問題ありません。自分もラニウスもそれぞれ戦闘可能です」

 一気に口にするとそれで気持ちがすっと落ち着いた。シャール少佐は満足げな笑みと共に俺を見つめた。

「いい返事だ。なお、基地にはクライン中尉が同行する。ドラゴンナイトはお前を入れて二名の増員だ。入れ」


 シャールが呼びかけると同時に後ろの扉が開き、クレア・クラインが姿を現した。

「クレア・クライン中尉、出頭致しました」

「ご苦労。現地では、デンマーク空軍のノア・ニールセン少尉と合流する」

 俺とクレアは顔を見あわせ、同時に口を開いた。


「ニールセン少尉は無事なんですね?」

「あれからさらにゲルマニアドラゴン一頭を撃墜したから、ご活躍のようだ。君たち二頭のドラゴンと力を合わせたら、少しは戦線も安定するだろう」

「出発はいつですか?」


「一〇〇〇だ。昼前にはフュン島に着けるだろう。二人とも準備を」

「ただちに」

 踵を返し士官室を出た俺たちは歩きつつ話した。

「持ち物は何を持っていけばいい、クレア?」


「飛行服、護身用の拳銃、着替え、下着の類と小切手帳、小額紙幣があれば充分です」

「個室は鍵をかけて問題ないよな」

「それで大丈夫です」

「了解だ」


 俺たちは途中の廊下で別れ、それぞれの個室を目指した。クレアの場合、案外と営外居住で外にアパートメントがあるかもしれないが聞きそびれた。今度、機会がある時に聞けばいい話だ。

 自室に戻ると俺はロッカーを開き、下着、着替え、それに小切手帳の類を俺はナップザックに詰めこんだ。


 一瞬、ロッカーに立てかけてある試作自動小銃に目が行くが、そのままロッカーを閉じ、鍵をかける。

 飛行服に着替え終え、廊下に出てハンガーに向かう経路を取り、俺に割り当てられたスピットファイアマークⅤがどこにあるかを整備兵に訊ねる。

 機体はすぐ見つかった。整備兵に声をかけ、数人がかりで機体を格納庫外に出し終える。


 そこにシャール少佐の声がかかる。

「私はクライン中尉がドラゴン融合するDC3にスタッフ共々座乗する。お前はそれを護衛してくれ」

「判りました」 

 うなずいたシャール少佐はDC3の機内に消えていった。すぐさま輸送機のエンジンが始動、誘導路に向け進み始める。


 その間に俺もスピットファイアの点検を終えていた。整備兵の協力を経てエンジンを始動する。点火カートリッジが撃発、高圧ガスがモーターを回しエンジンが始動した。ロールスロイスマーリンが回転を始め、三翔プロペラが一〇〇〇馬力を越す出力を叩き出し始める。

 俺はDC3の後を追うように離陸した。高度を八〇〇メートルまで上げ、融合手順を開始する。


「ラニウス・カム・ヒア」

 三〇秒とかからず目の前にラニウス──ドラゴンが姿を現した。いつものようにこちらの前方七〇メートルほど前を飛んでいる。俺は何度目かになる融合手順を淡々とこなした。

「融合、開始」


 声に出しつつ、エンジンのスロットルをほんの僅か開く。機体が増速すると同時にスピットファイアとラニウス、双方がそれぞれワイヤーフレーム表示され、見る間に接近していく。

 融合は一瞬だった。


 いつものようにスライム状の何かが皮膚表面を這い、ざらついた感覚が全身を覆い、終わる。三六〇度全天表示になるのも今や慣れたものだ。

「彩夏、聞こえるか? 融合は問題ないか」

「問題ありません。融合成功です」


 無線から流れるシャール少佐の声に俺は返事をした。

「よし。フュン島まで九〇分のフライトだが油断せずに頼むぞ」

「速度はどうなんです? DC3の最大速度は確か二〇〇キロを切るはずですが」

「その点はドラゴンの巡航速度である六〇〇キロまでかさ上げされるから問題ない。安心して速度を上げてくれ」


「了解」

 昨日、DC3に融合したと言っても最大速度のチェックは忘れていた。

 まだまだ知らない事があることに俺は気を引き締めた。それにしても、輸送機の速度までかさ上げしてくれるとはドラゴン様々だ。


 同時にDC3が母機として広く使われる理由も納得する。最大速度二〇〇キロを切る輸送機がドラゴンと融合するや六〇〇キロで飛べるのだ。戦略高速輸送の視点から見てもドラゴンの価値は高い。

 ところで最大速度五〇〇キロの輸送機があるとして、これと融合したらドラゴン自体の最大速度は上昇するのだろうか?

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