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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第四章──ドラゴンファイト④

 ノア・ニールセンとの待ち合わせ場所はドラゴン格納庫だった。

 俺は広大な格納庫で翼を休めているドラゴン二頭を眺め、圧倒されていた。

 全長、全幅はそれぞれ二五メートルはある。

 大きさから言えば戦後初の国産旅客機YS11を彷彿とさせた。


 戦後の軍用機で言えば、アメリカの四発爆撃機ロックウェルB1を一回り小型にしたような大きさだ。

 それが二頭、格納庫一杯を占拠している。

 脚は二本で鉤爪の大きさは軽自動車のボディ並みだ。表面を覆う鱗は一片がそれぞれ三〇センチ以上あり、見るからに固そうだった。


 俺は鱗に触ってみた。

 固そうだと感じたのは錯覚ではなく、叩いてみるとセラミックスを思わせる不思議な音がした。

 金属ではないが生体でもない、人類がこれまで接してきたいかなる生物とも違った材質で全体が構築されている事は明確だ。


「このドラゴンは……」

 不意に響くノアの声に俺はピクリと背を震わせた。声は続く。

「北欧に棲む伝説の龍、ワイバーンのイメージそのものだわ。鋭い鉤爪が二つ、折りたためられた翼、蛇のような長首……そして火焔を吐く顎門あぎと


 格納庫の一角からノアが姿を現し、こちらに来る。

 彼女の透き通った声が反響し、俺の耳朶を打つ。

 俺はドラゴンをあらためて見上げた。

 二頭のドラゴン、エリキウスとラニウスはそれぞれ瞼を閉じ、ピクリとも動かない。


 俺は近づく彼女に率直な疑問を口にした。

「なあ、ドラゴンって、睡眠を取るのか?」

「地上にいて休んでいる時は、たいていこんな感じよ」

「どうやったら起きて、空中で……」


「融合するか? ね。スピットファイアを例に説明すれば、コクピットで『エリキウス・カム・ヒア』と英語で言えば、目を醒まして地上から飛び立つわ。空中融合のやり方は覚えている?」

「いや。朦朧としている所を押しこまれたから、何も覚えちゃいない」


「だったら私が手本を見せるから、あなたはついて来なさい。乗る機体は、今度は反対にしましょう。あなたがBf109で私がスピットファイアよ」

「わかった」

 それから俺たちは格納庫の外に出てそれぞれ駐機している機体に向かった。


「ああ、忘れていたけど、ドラゴンと融合する場合、専用調整された機体に乗らないと駄目よ。ただの機体に乗りこんでドラゴンを呼んでも、飛び立たないわ」

「何か、特殊な仕掛けがあるのか?」

「無線をはじめとして、専用機には付与魔法がかけられていて、普通の機体とは違うの」


「付与魔法?」

 聞き慣れない言葉に俺は瞬いた。

「簡単に言うと、魔法を武器や装備に掛ける事で、機体特性や武器の性能を引き上げるのよ」

「という事は、付与魔法をかけた機銃で撃ち合えば普通の機銃より強力ってこと?」


「そういう事。付与魔法は装甲板にもかけられるから、防御性能も上がるわ。私が被弾しつつも助かったのは、装甲板にかけられた付与魔法のお蔭よ」

「凄いんだな。しかし魔法とはね」


「敵も弾丸に付与魔法をかけているから、油断できないわ。基本的にドラゴンの装甲は二〇ミリ弾程度では貫通しないけど……」

「付与魔法がかかった弾なら貫通もあり得る、か」

「その辺は当たり所にも寄るわ。それともう一つ。専用機には交戦記録装置が積まれている」


「交戦記録? 撮影機材の一種か?」

「近いわね。一種の魔道記録装置で、戦っている様子が全て映像記録され、後で確認ができるのよ。傭兵団はそれをもって雇い主に対し、真面目な、手抜きのない戦いをしていると証明する」

「なるほど……敵味方問わず派兵するには、そういう機構が不可欠なんだな」


「手抜きや八百長で戦っているフリをされたら、お金を出している側はたまらないし、傭兵団も信用問題がある事から生まれた必然的な措置よ」

「ドラゴンナイト以外の傭兵団は、どう証を立てるんだ?」


「戦闘機にはガンカメラ、機銃と連動した一六ミリカメラが発砲時の映像を記録しているから、それを提出するの。あなたたち傭兵団は、そういう記録、監視下で戦っているのよ」

「厳しいね」

「さあ、飛ぶわよ」


 整備兵たちの協力で飛行前のチェックは終わっていた。コクピットに乗りこんでから三分と経たず、俺たち二人は再び空に飛び立っていた。

 高度計の針が一二〇〇メートルを指したところでノアから無線が入る。


「私の真横、七〇メートルを維持して。今から私のドラゴン、エリキウスを召集するわ。無線は切らず、オープンのままにして」

「了解」

「では、始めます。エリキウス・カム・ヒア」


 それから三〇秒ほどは何事もなく飛んでいた。

 が──。

 蒼穹に影が射し、瞬時に咆哮が響く。

 彼女のドラゴン、エリキウスが突如姿を現し、前方五〇~七〇メートルを飛んでいた。


 本当に一瞬で現れたような出現だ。

「な……」

「これが標準手順よ。ドラゴンを召喚すると、ドラゴンはコクピットになる戦闘機、航空機の約七〇メートル手前に姿を現す。あなたはそのまま、私がどうエリキウスと融合するか、そこから見ていなさい」


「わかった」

「では、始めます。『融合、開始』」

 併走して飛ぶ彼女のスピットファイアがほんの少し増速した。


 スピットファイアとエリキウス、双方それぞれワイヤーフレーム表示となり、彼女の機体はそのままドラゴンの背中に吸いこまれていく。

 次の瞬間、スピットファイアのフレーム表示がかき消え、ドラゴンも実体化した。

 唖然と見守る俺を他所にノアの声が無線から流れる。


「これがドラゴンナイトとドラゴンの融合よ。次は解除をやるけど、必要ある?」

「解除は昨日実際に試したから大丈夫だ」

「じゃあ、やって見て。まずはドラゴンの召喚よ」

「了解」


 無線をオープンのまま、俺は手順を頭の中で組み直した。ドラゴンの名前、出現後の流れを再構築した後、無線に告げる。

「始めます。ラニウス・カム・ヒア」

 同時に心の中で秒数を数え始めた。


 一〇秒経過。変化なし。

 あっという間に三〇秒が経ち、俺は瞬いた。

 その瞬間──。

 突如、ドラゴンが前方に現れた。


 一瞬のうちに急角度で上昇したドラゴン──ラニウスが前方七〇メートルに占位したのだ。

「現れたわね。これが『カム・ヒア』が持つ意味よ」

「ドラゴンがいる場所、相対距離は関係ないのか?」


「もちろんあるわ。五キロ圏内なら三〇秒以内。ドラゴンの待機場所をどこに設定するかも重要なポイントになるわね」

「なるほど」

「ここから先は一人でやりなさい。見ていてあげる」


「了解。始めます。融合、開始」

 無線に話しつつ俺はスロットルをわずかに開いた。

 機体が加速すると同時にドラゴンの背中が一挙に拡大した。

 視野が歪み、コクピット全体をジェルに似た透明な何かが突き抜ける。


 この感覚は、昨日経験した奴と同じだ。

 身体の表面をスライムもどきが這い回る感覚。

 粘液を全身に浴びる嫌な感覚も昨日と同じだ。

 途端に視界が拓けた。


 全球状視野モニターを元にした三六〇度の視界が提供される。空中に放り出され浮かんでいる不思議な感覚だ。

「やれたわね。無事、融合しているわ、あなた」

 ノアの声が耳元で流れる。俺はほっとため息をつくと無線に応じた。


「ドラゴンとの融合がどんなものか、よく判ったよ。サポートに感謝する」

「いいのよ。あなたが立派な戦力になれば、それだけデンマーク軍も戦える。ニールスの話だと、優れたドラゴンナイトの戦力は一個装甲師団の火力に匹敵するそうよ」

「一個装甲師団……対地攻撃こみの話だな」


「対地攻撃の実演もやりたいけど、今はドラゴン同士で編隊を組む要領を掴むのが先よ。操縦は戦闘機と同じだから、私の動きに合わせてついて来て」

「わかった」

「状況開始」


 命じるや彼女はドラゴン──エリキウスを急上昇させた。

 こちらも反射的に操縦桿を引き、スロットルを開く。

 途端に俺のドラゴン──ラニウスが上昇した。

 戦闘機の上昇とは比較にならぬ角度、速度に一瞬狼狽するが感覚を強引に切り替える。


 そうだ。これはレシプロ戦闘機じゃない。ドラゴンだ。

 現代で喩えるならF15イーグルやF32に匹敵するジェット戦闘機、そう思え!

 光学照準器のレティクルに彼女のドラゴンを捉えつつ、俺は心の中で自分に言い聞かせた。

 そう。認識とデバイスの違いを切り替えられたら、決して無理な話じゃない。


 スピットファイア単体の時はレシプロを飛ばす要領、ドラゴンと融合した後はジェット戦闘機を飛ばすつもりで操れば──。

「速度を上げるわ。ついてきて!」

 無線からノアの声が響く。


 俺は押し寄せるG──重力に顔面を歪めつつ負けじとスロットルを開いた。

 速度計の針が七〇〇キロを超え、さらに上がっていく。垂直上昇しつつ加速するなんて、確かにこれはジェット戦闘機の感覚だ。


「次、インメルマン後に水平飛行。追いついて!」

 飛行機雲を引きつつ、彼女のドラゴン──エリキウスがインメルマンターンを決めた。

 上昇の頂点で機体を横転させ、水平飛行に入れて機体の向きを変えたのだ。


 彼女のドラゴンがもう一度横転を決め、ドラゴンは上下の向きを正常に取り戻した。俺もそっくりその機動を再現しつつ、スロットルを開く。

 追いついた。


 彼女のドラゴン、エリキウスの横七〇メートルに並び、水平飛行に入る。

「再加速開始、ズーム上昇で高度六〇〇〇まで上がる」

「待てよ。酸素マスクの用意がない。酸素なしで上がるつもりか?」


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