ケモショタ好き、異世界転移する
キャラが、勝手に動くんです。
落ちていく。あれほど辛かった痛みも苦しみも気付けば何も無く、ただただ暗闇に包まれながらどこかへ落ちていく感覚だけが体に残る。
どんどん落ちて…………いや、長くない??死んだ後ってこんな意識残るもんなの?実は死んでなかったとか?それならばあの子たちに名前を付けてあげられる!起きろ、起きるんだ私!開けるんだ目を!!!
行くぞ、さーん、にー、いちっ!
「…………うっそでぇ」
問1、自室で倒れた筈なのに目を開けると身に覚えのない森のド真ん中だった主人公の心情を7文字で答えよ。
答え、「何処だよ、ここ」
「何処だよ、ここ……」
見渡す限り木、木、木。上を見あげるとうっすらと青い空がコンニチワしているが、それを覆うほど主張の激しい緑。右を見ても左を見ても、前を向いても後ろを向いても視界は緑と茶色に覆われている。
未だ脳みそは上手く起動してないが、唯一わかることはケモショタ達に囲まれた自室《楽園》ではないということだ。
そう、自宅じゃないってことは……つまり…
「あんぎゃァ!!!私の子供たちぃぃぃぃいいい!!!!」
愛しのケモショタ達とお別れしてしまったということだ…!
「えぐっ……ひぐっ……う゛う゛う゛………わだじのっ、ごども゛だぢぃ゛ぃ゛!!!」
ぐしゃぐしゃになったスーツという着の身着のままの状態で全く知らない場所に放り出された事より100余人の愛し子たちとお別れになったというショックの方が強すぎて、もはや洪水かというほどドバドバと涙を流した。
今の私の顔は、誰にも見せられたものではないだろう。いや、こんな人気のない森の中で見せるも何もないが。
「え゛ぅ゛……ズッ………… フゥ……」
思う存分泣いて、気持ちを落ち着かせたあと我に返ればこの摩訶不思議な現象に出会った経緯や何故自分が巻き込まれたのか、そもそも何故死んだと思ったら森の中だったのか、脳内が何故という言葉で溢れかえった。
理由だのなんだのの他に、これからどうして行くのかだとかそもそも無事に森を抜けられるのかなど、考えることはたくさんある。でもまずは顔を洗いたい。涙と鼻水でぐっちゃぐちゃなのが気持ち悪い……
「水場、探しますか」
顔を洗うついでに命綱でもある飲み水を確保しようと意気込み立ち上がった。
だが、私はすっかり忘れていたのだ。己が極度の方向音痴だということに。
「アレ?ここ……さっきも通った……??」
草の根を掻き分け、出た道は何故かつい10分ほど前に目印を書いた木がある場所だった。つまり、元の場所に戻ってきたのだ。
「は…つら……」
これくらい立派な森であれば必ず何処かに水源はあるだろうに、一向に見つかる気配がしない。
そもそも何時間も彷徨って同じ場所をグルグルするなんて一種の才能じゃなかろうか……
ハハハ、と乾いた笑い声が響く。もう、諦めてしまおうか。どうせ元いた場所には帰れないのだから。
カクン、と膝から崩れ落ちる。膝を抱え、今度はぽろぽろと静かにこぼれ落ちる涙を拭いもせずより一層身近に感じるようになった己の死について思いを馳せていると何処からか声が聞こえた。
「はぁ……見ておれん。おい小娘。水辺はここから北西に60mほど進んだところだ」
「……え?誰……?」
顔を上げ、辺りを見渡すが誰もいない。そうか、心身ともに疲弊して幻聴が聞こえ始めたのか……そろそろ終わりも近そうだな…
「幻聴ではあらぬ!ここじゃここ!!!お主の目の前におるであろう!!」
「目の…前?」
言葉の通りに目をやると何故かぴかぴか光ってる木が上下左右に揺れながら何かを叫んでいた。
「うぎゃぁあああ!!!!木が喋った!!?しかも光ってる!!!」
「木とは失敬な!我はただの木ではあらぬ!1000年の時を生きる霊木ぞ!崇めよ人間!」
「木じゃん!?」
ぴかぴか光ってるし喋ってるし、霊だか神だか知らないけど木の見た目してる上に名前に木が入ってんだからそれは木でしょ!?
「まぁ、よい。見たところお主、異世界からやって来た者じゃろう」
「そうですけど……なんで、そんな事分かるんです?」
人の過去を見通す力があるのか、この木は。
「そういう逸話がこの世界にはあるのだ。青の空に赤き光が落ちる時、異世界からの来訪者が来る、とな。先日その現象が起こった。」
「あ、そういう……」
「あと純粋にお主が着てる服はこの世界では流通しておらん」
「そりゃ分かるわけだ!?」
なるほど、確かに異世界モノではスーツは珍しいアイテムだからね。
「それと、我は厳密には木では無い。木に宿る精霊じゃ。1000年生きたこの器に宿った魂が我なのじゃ」
ほぉ……なんか、日本で言う九十九神みたいな存在なんだな。ファンタジー世界っぽいし1000年も生きてりゃ魂くらい宿るか……
「ところでお主名をなんという?」
「急!?」
「人族は初めて会う時に自己紹介をするのだろう?精霊の我がお主ら人間の文化に合わせてやるのじゃ。有難く我に名を明かせ」
「いや、言い方……ていうか何故私からなんですか。普通言い出しっぺからでしょ」
「我はお主より位が高い故、位の低いお主から自己紹介するのが通りであろう?」
何だこの木は。暫定九十九神だとしても上から目線が過ぎないか??燃やしてやろうか。
でも燃やしたら唯一の情報源が消えるということを理解しているお利口な私は怒りをグッと堪え、簡潔に自己紹介をすることにした。
「私の名前は牧場彩雨です。歳は28。元の世界では言葉通り死ぬまで仕事に追われてました。多分、向こうでは私は死んでるでしょうね……」
「そうか……あの、まぁ、なんだ。色々大変じゃったのう……ゴホン!さて、我の番じゃな。我の名はラド。この霊木に宿る精霊じゃ」
恐らく途中から目が死んでいたのだろう。憐れまれたのが地味に辛い。しかも相手は木だ。余計にクるものがある。
「ラドさん?様?取り敢えず水辺の場所を教えてくださってありがとうございました。それじゃ、私はこれで」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を洗いたいし、飲み水も確保したいから一刻も早く水辺に行きたいのよ私は。
情報をくれたお礼を良い、ラドに背を向け歩き始めると何故か引き止められた。
「まぁ待て。数百年ぶりの来訪者じゃからな。優し〜く慈悲深ぁい我がお主に着いて行ってやろう!そして、特別に!お主はタメ口でも良いぞ!出血大サービスというやつじゃ」
着いてくるて……何故私に着いてくるのよ。そもそも木に足が生えるわけでもあるまいしどうするつもりなのかね、この木は。しかもすっごい上から目線。
「いや、めっちゃ恩着せがまし。てかどうやって着いて来るのよ……こんなでかい木引き抜くなんて私には無理なんだけど…」
腕を組み、ジトっと木…基ラドを見やると何処か愉快そうに左右に揺れていた。木が、ビョンビョン左右に揺れていた。凄い恐怖。
「ていうかホントどうやって着いてくる気なの……足生える?それとも枝でも折るの?」
「そんな訳無かろう!!不敬じゃぞ!全く、これだから人間と言う奴は………上ら辺に洞があるじゃろう。そこを見てみよ」
そう言われ、パッと探すと、洞は身長167cmの私が背伸びしてようやく見えるだろう位置にあった。
洞に近付き、縁に手をかけ中を覗く。そこには緑毛の狐と猫を足したような手のひらサイズの生き物がいた。え、可愛い。
そっと手のひらに乗せるとパチリと目を開けた。くしくしと前足で顔を擦る仕草があまりにも可愛すぎる。
「うっわ、可愛い」
「ふはははは!そうじゃろう!!精々我を可愛がることだな、彩雨!」
立ち上がるや否やどう喋っているのか不明だがドヤりながらぴょんっと手のひらから肩に乗ったラドは私の頬に頭突きをしてきた。
態度は可愛くないが見た目と仕草が可愛いので許してやるとするか。
「それじゃあ、ラド。慈悲深〜いラドに1つお願い」
水場へ、案内してくれない?
***
「ぷっはぁ!!!スッキリ!生き返る!!!」
案内されたのは川でも、水溜まりでもなく割とデカめの湖だった。
陽は大分傾いてきたというのに未だキラキラと光る水面はとても美しい。しかも水が超美味い。煮沸消毒とか知らない。お腹下したらその時はその時だ。ラドによれば、ここら一帯は浄化されているから安全らしいけど衛生観念が幼少期より叩き込まれている日本人からすれば生水は少々怖かった。でも、美味しかった。最高に。
顔を洗って、水を飲んで一息ついた私をラドがちょんちょんとつつく。
「ん?どうしたの?」
「そういえば先程聞くのを忘れておったのじゃが、お主自分のステータスは把握しておるかの?」
「ステータス?」
「まさかとは思うがステータスという存在自体…」
「知りませんでしたね」
「ハァ…………」
ガックシという言葉が直に目に見える程ラドは肩を落とした。
そんな重々しくため息つかれましてもそんなファンタジー的なものが私にあるとは思わないじゃん。ケモショタ好きではあってもラノベの主人公になりたかった訳じゃないんだから。
「ねぇラド。ステータスってそんなに大事なものなの?無くても良くない?」
「良いわけあるか!!!この世界におけるステータスっていうのは最早生命線と同義じゃぞ!お主の世界では危険な魔物などおらんかったかもしれぬがこちらの世界にはたった前足ひと振りで街を滅ぼすほどの危険な魔物がうじゃうじゃおる。そんな世界で守ってもらえるのは幼い子供だけじゃ。自分で自分の身を守らねばすぐに淘汰されゆくだけ……そんな奴を我は多く見てきた。それが故にステータスは1等大事なものなのじゃ」
「そっ、んなに大事なものだったのねステータスって……ただの厨二病台詞じゃなかったのか……てか前足ひと振りで街が滅びる生き物なんて怖すぎでしょ……え、こっから先そんな危険と隣り合わせで生きていかないと行けないの?無理よ?私すぐ死ぬ未来しか見えない」
約30年、戦のいの字もない平和な日本で仕事という悪魔に追われながらも平凡に暮らしていた私にとってこの事実は余りにもハードルが高すぎた。
「安心しろ。暫くは我がお主の面倒を見てやる。我は慈悲深ぁい霊木の精霊様じゃからな!取り敢えずステータスの見方を教えてやるから言う通りにせい」
「あ、はい」
「なぁに、難しい事はない。ただ想像すればいいのじゃ。目の前に己の情報が浮かび上がるのをな」
「?それだけ?」
「それだけ」
「ステータスオープン!とか言わなくていいの?」
「今更そんな恥ずかしい事する奴がおるか。4〜5歳の幼児でもせぬぞ」
「うっわマジか……じゃあ、やってみる」
目を閉じ、目の前に自分の情報が載った紙……所謂プロフィール帳が出てくるよう強くイメージする。プロフィール帳なんて時代遅れだって?うるさい、私の世代はプロフィール帳だったの!!
そのイメージをだんだん強くしていくと、フォンっという音が聞こえた。その音を合図に目を開けると、なんということでしょう!!本当にプロフィールが目の前に現れているではありませんか!
「ラド!!出来た!プロフィール出てきた!」 「プロフィールではない!ステータスじゃ!!」
「あ、そうそう。ステータス、ステータス。てかこれラドも見れるの?私これシステムよく分かんないんだけど……」
「基本ステータスは自分しか見れないようになっているが、許可さえ出せば他者にも共有することが出来るぞ」
「てことは、私が許可だしたらラドもステータス見れるってことね」
「うむ」
「んで、どうやるの???」
今しがた漸くステータスを見ることが出来た人間に共有だのなんだの言われても無茶が過ぎると思う。
「全く、しょうがないのぅ………ステータス画面の右上に共有という文字があるじゃろ。それを選択すると我の名が出てくるからそのままそこを選択すればよい」
「うっっわぁ……生命線言う割にはすんごいゲームチック……」
取り敢えずラドの言う通りにして、ステータスを共有してみた。出来てるといいけど……
因みに私のステータスはこんな感じだ。
名前:牧場彩雨 年齢:28歳 性別:女 種族:人間
備考:ケモショタに狂っているアラサー社畜喪女。仕事は出来るバリキャリウーマンだが仕事以外の全てをケモショタへの愛へガン振りしているためプラマイマイの人間である。
魔力:100 魔力容量:測定不可 魔力濃度:100000
体力:300 身体能力:150 潜在的身体能力:測定不可
狂気度:300 (特定の条件あり)
愛情:測定不可 (特定の条件あり)
称号:異世界からの来訪者、霊木の守り人、???の庇護者、狂人
固有スキル:言語理解、文字理解、アイテムボックス、鑑定、幸運、直感、発狂
スキル:火魔法Lv1、水魔法Lv1、風魔法Lv1、雷魔法Lv1、土魔法Lv1、闇魔法Lv1、光魔法Lv1、生活魔法Lv85、魔法耐性Lv5、物理耐性Lv5、精神汚染耐性Lv99、隠蔽Lv10、気配遮断Lv10、危険察知Lv50、空間把握Lv30
所持品:霊木ドラディアス
相棒:ラド
「備考欄いらんかったやろ絶対!!!!!あと発狂と狂人ってなんやねん!!!それから所持品!!!木が入ってる!!!苗木じゃなくて木が入ってる!!!」
なんだこのツッコミどころの多いステータスは!!!勢いつきすぎてエセ関西人でてもうたやないかい!!しかも若干チートっぽいのが逆に腹立つわぁ……てか後半スキルは確実に社畜時代に築き上げられたものだな、コレ。
「ねーラド。これってどうなの??良い方?悪い方??」
ステータス共有した時から一切の反応がないラドをつつき訊ねると、かぷっと甘噛みされたあと徐に首を振られた。いや、可愛いな。
「流石の我もここまでだとは思わなんだ……」
「何が!?そんなに弱かったの!?私すぐ死んじゃう貧弱ステータスだったの……?」
「いや、ステータス的には凄く恵まれておる。じゃが……余りにも変態的すぎる」
「変態的」
「なんじゃ発狂と狂人て。1000年生きとる我でさえ初めて見たぞ」
「いや、それは私が聞きたい」
「称号の数と固有スキル、スキルの量とスキルレベルだけ見ればお主は勇者であったろうな」
ラドの話によると、個人差はあるが大体の人間はスキルが3つあれば良い方だという。固有スキルがあれば所謂エリート、称号持ちとなると後世まで伝えられるレベルとのこと。でも魔族や妖精族、獣人達はそれに限った話ではないらしい。種族によってステータス変わるの面白いな。
いやでも、それってつまり……
「私、色んな意味でヤバくない?」
「うむ、ヤバいな」
「これバレたら……」
「確実に面倒臭い事になるじゃろうな。本当に信頼の置ける者にしか見せてはならんぞ」
「そうする」
一応死ぬ心配は無くなったようだけど、これまた別の問題が出てきて凄く頭が痛い。スキルの事やらこれからの事やらを考えなければいけないけど、気付けばもう陽は沈みかけていた。
「ラド、私、テント持ってない」
「………しょうがないから我が包んでやる」
そう言うとラドは一瞬のうちで手のひらサイズから2m超えの超大型もふもふへと早変わりした。
やっばい。すんごいもふもふ。
「ここら一帯は浄化の結界が貼られておるから魔物は入っては来れん。じゃが夜は冷えるからな。お主は特別じゃ。有難く包まれて眠れ」
「ん………ありがと……ラド、おやすみ」
「うむ」
ふわふわで暖かく、トクトクと聞こえるラドの心音がとても心地良くて段々と意識が遠のいていく。あの時のような苦しさは全く感じず、むしろ優しい暗闇に癒され私はとうとう睡魔に身を任せた。
だがこの時、私はラドとの冒険の中で起きる、とある出会いによって人生を大きく変えられることになるとは全く思いもしていなかったのだ。
楽しかった




