第4話 義妹と正ヒロイン
「しかし……マジか……マジで俺……転生してしまったのか……」
しみじみと実感しながら歩く俺と、その横にいる陽花。
時間感覚と曜日感覚がバグっているが、どうやら今この世界は朝で、ド平日らしい。
俺と陽花は伊刈虎彦の父親と母親に急かされながら支度し、こうして学校へ向かっているところだ。
うん。
なんか伊刈虎彦の父親と母親って言い方もおかしい。
この場合、俺の父親と母親、みたいな表現をした方が正しいんだろう。
だって俺、今伊刈虎彦だから。
ラバポケの悪役。あの伊刈虎彦なのだ。
「ね、ねえ……? とらくん……?」
考え事をしていた矢先、隣を歩く美少女に声を掛けられる。
「……? どした、陽花? てかお前、本当に可愛いな」
「っ……! だ、だからそういうのはもう……!」
「そうやって照れてるところも反則だよ。俺以外の男の前で絶対にその表情は見せちゃダメだ。一発で恋に落ちてしまうから」
「っっっ~~~……! そ、そんなの……私だって同じだよ……とらくんが……とらくんが……」
頬を朱に染め、挙動不審に右、左と視線を泳がせながら何かブツブツ言ってる陽花。
俺を起こしに来てくれた時とは違って、今はツインテールだ。
切れ長瞳で照れ屋なツインテール義妹。
微妙にツンデレのツン要素もあるし、まさに絵に描いたような二次元妹だった。俺もここがラバポケの世界で、自分が正木俊介ではない伊刈虎彦だから、こうして思ったことを好き勝手言えてる。
正木俊介の体でこんな恥ずかしいことをベラベラと喋れるはずがなかった。絶対無理。
「て、ていうか、そういうのは今いいの! そういうのは置いといて、私、今もっと大切なこと言おうとしてたんだよ!」
「うん。何? あぁ、可愛い」
「んぐっ……! そ、そんなガン見しないで……!」
ジッと陽花のことを真剣に見つめながら相槌を打っていると、手で顔を強引に正面へ向けさせられた。痛い。
「もう、とらくん! ちゃんと私の話聞いて! 真剣なんだから!」
「聞いてるって。可愛いはもはや語尾」
「何が語尾よ……! あぁ、もう! 無視! 無視して話進める!」
言って、わざとらしくプイっと俺から顔を背ける陽花。
その拍子に、長く垂らされているツインテールがふわっと揺れた。それさえもまた良いと思ってしまう。
「とらくん、瑠香先輩のことまだ狙ってるの?」
「……え?」
「八神先輩と今すごくいい感じじゃん、あの人。それなのに、まだとらくんは狙ってるの?」
八神先輩。瑠香先輩。
二つの固有名詞がいったいどんな存在を指すのか、言うまでもなくすぐに俺は察する。
虎彦自身の立ち位置もすぐに理解できた。相変わらずこいつは(今は俺自身だが)人の恋路を邪魔し続けているらしい。
「とらくんの入る余地、私は無いと思うけどなぁ。二人、昨日一緒に帰ってるところ見たし」
「……まあ、だろうな」
「イッチャイチャしてたよ? もう、イッチャイチャ」
「言い方に強さがあるな」
「だって、本当にお互いべったりだったもん。私、実はその時瑠香先輩と目が合ったんだけど、なぜかマウント取られるような視線送られたからね」
「なぜに? 陽花は関係ないだろ」
「わかんない。でも、もしかしたらとらくんの妹って認識されてるのかも。兄に伝えといて、とかじゃない? 私たちのラブラブ具合ー、みたいな」
嫌な匂わせのさせ方だな。
瑠香ってあまりそういうことはしない子だと思ってたんだが。
「……なるほどな。了解。教えてくれてありがとう」
「ん。どういたしまして。……だけど」
まだ狙い続けるのか、と。
陽花の顔にそんな思いがこれでもかというほど貼り付けられている。
俺は首を横に振った。
横に振って、「いや」と否定する。
「もう瑠香は狙わない」
「へ……? ほ、本当に……?」
「ほんとほんと。一切あの子のことは追いかけません」
じゃあ、いったい誰を追いかけるのか。
陽花がそう言おうとしていたので、それを先読みして俺は続ける。
「誰を狙うか、それはやっぱり――」
――陽花。
そう言おうとしていたところで、だ。
「――あ」
道の曲がり角を曲がったところで、これまた美少女と出くわす。
その美少女は俺たちを見つけるや否や目を丸くさせ、やがてその瞳を一瞬うっとりさせた後、すぐに警戒色いっぱいのモノに変えた。
「る、瑠香……」
目の前で名前を呟く俺と対峙して。




