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騎士ですが、奈落道を行きます  作者: PuRi
偽伯爵令息と事件簿
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6.ギルド長は恐がる。








深夜の大通りは、一人で歩くにはなかなか勇気がいる。賑やかだった町通りが、嵐が過ぎ去ったあとのように静かだ。遅くまで店を開ける店はそう多くはない。店を開けていてもそこにふらりと訪れる客は酔っぱらいか、訳ありのお尋ね者くらいだ。


ヘブンバーは、深夜をまわると灯りを消す。だが、その代わりにその地下の空間は明るく照明が灯っている。深夜を回って訪れる客を歓迎するためだ。

今日もアルフォーレは黒ウサギの仮面をつけ、黒いスーツを見にまとった。もちろん「俺は今ギルド長だあッ!」と自身に言い聞かせ、荒い口調を直すことも忘れない。部屋に飾ってあった絵やら高価そうな壺やらは、埃が被っていたことがバレないように念のためはたおいた。照明の強度を落とし、ほんのり光るよう調節する。

準備は完璧なのだ。あとは、客を迎えるだけだ。

アルフォーレは作業デスクの椅子に腰かけ、息を潜めて、静かに客が来るのを待った。



10分経ったぐらいだろうか、ビチッとしたスーツに、痩けた顔の男がルアに案内されて入ってきた。男はもとの顔がそうなのか、それとも本当にその気分なのかは知らないが、濃く生えた眉毛がよっていて、えらく不機嫌そうに見えた。顎にはびっしり黒髭が生えていた。


「ようこそ、情報ギルドへ。」

アルフォーレは朗らかに言った。どんな野郎が相手でも、客には明るく、朗らかに。

黒髭男が口を開いた。

「情報屋に、依頼を頼みたい。」

「はい、よろこんで。」

男の声は太く、しわがれていた。

自分だけ椅子に座っているのもあれなので、アルフォーレは依頼人にソファを進めた。ソファは二台、向き合う形で並べられてあるので、アルフォーレはデスクの椅子から依頼人に向き合う形でソファに腰かけた。


じっと部屋の空間を見つめていた依頼人は、静かに口を開いた。

「ここは敢えて偽物を飾っているのかね?」

「…………はい??」

アルフォーレは聞く耳を間違えたのかと思った。

依頼人は端の壺を指差す。

「あれ、あまり高価そうに見えないがね。インテリアとしてただ置いているのかい?」

部屋の隅で待機していたルアが、ブッと吹き出す音が小さく聞こえた。

この部屋のインテリアは、アルフォーレが趣味でただ置いたものだ。画家の友人が「なんか描けるかも!」とインスピレーションが100%の純度で描いた怪しい絵、廃家を探索したときに見つけた高価そうに見えた壺、地面を掘ったときに発掘した宝石の首飾り………………。

「敢えてかね??」

依頼人のなぜそこまで気になるのかわからない、執着するような質問に、アルフォーレは内心舌打ちをしたかった。

「それより、依頼はなんでしょう???まさかこれを言うために来たのではないでしょう???」

お前はどれだけ暇人なんだと憎しみを口調に込めて言ってやった。依頼人は咳払いをして、ああ、そうだと言った。


「私は、クレモン伯爵家に20年以上遣える執事である。先日、クレモン伯爵家で誠に遺憾なる事件が発生した。」

依頼人は目を伏せた。続けて、悲しそうな声で言った。


「第4令嬢が、何者かに惨殺されたのだ。」

「……………………!!!!」

部屋に、静かな緊張が走る。


依頼人はシワの刻まれた顔をくしゃりと歪めた。

「まだ公にはしていない。この事件の犯人を捕まえるまではな――――!」

そこに、確かに確固たる決意をアルフォーレは感じた。顔に刻まれたシワは、その分の苦労だ。20年もの間献身に伯爵家に遣えてきて、事件が発生したのだ。その分責任に感じている部分も大きいのだろう。やるせないのだろう。

アルフォーレは老人の、表には出さない静かな熱情をひしひしと身に浴びた。


「だが、調査を進めていくなかで、どこの誰かがこの惨殺を企てたのか大体は目星をつけれたのだ。……が、相手がなかなかやっかいでなぁ、保安官も交渉をしてはいるのだが、なかなかその家内調査に踏み出せずにいる。確定した証拠もない。裁判で訴えたとしても、証拠がなければ我らが負ける。負ければただではすまない。相手は、あの、グリムヴァルト公爵家だ。」

グリムヴァルト公爵家――――!アルフォーレは息を飲んだ。王国の6つの公爵家のうちの1つだ。

「もし伯爵家が負ければ、公爵家の名誉を貶めようとした罪で、最悪一家は滅ぼされ、もっと最悪なのは死刑になることだ。それくらいあの公爵家の人間は悪だ。悪魔の権化だ。良心なんて言葉はもっとも当てはまらないところだ。」

怒りか、悲しみか。依頼人は声を震わしながら、恐ろしげに言った。


グリムヴァルト公爵家なら、情報ギルドの繋がりで、何度か耳にしたことがある。グリムヴァルト公爵家関連の仕事はやっかいなため、どこの情報ギルドも依頼を引き受けたがらないのだと…………。



アルフォーレは咳払いしながら言った。

「それで、依頼の方はなんでしょう……??」

依頼人は拳を握りしめ、恐ろしい顔をさらに恐ろしくされて言った。

「もちろん、公爵家が犯人だと言う証拠を見つけることだ!!!表から捜査できないのであれば、裏から行くしか他にあるまい。」

アルフォーレは額を押さえたくなった。

「ですが…その、依頼をするには条件がありますよ。」

「なんだね。」

「私たちにとって有益な情報を提供するか、私たちの労働に似合った額を払うかしていただかなければなりません。額を払うならですね…………命をかけて情報を掴むので、600万ソル、とかいきますがね……。」

しれっと豪邸を買えるほどの高い額を言って、依頼人が引き下がるのを促す。グリムヴァルト公爵家なんかただの情報屋が相手にすれば、確実に死ぬ――――――――!!!!!




「――――――払って、見せますとも……………………!!!!」



依頼人が力を込めて言った。アルフォーレは泣きそうになった。


「い、いいのですか……!??」

「なんだね、私は払ってやると言ったのだよ。奴らを裁ける確実な証拠さえ手に入れてくれるのならばね……!むしろ君の方がやりたくなさそうに見えるが、ギルド長?」

アルフォーレは冷や汗をかいた。

「いえいえ、そんな、滅相もございませんよ!少し、調査が難航しそうな点が考慮されまして、、、」

そうかね、と依頼人が目を光らせながら反応する。この老人、侮れない。

アルフォーレはどうか、どうか、引き下がってくださいと言う気持ちを込めて、ありったけ低く恐ろしそうな声で確認の念を入れる。


「本当に、いいんですね………………!!???」


それに答えるように、依頼人は力をありったけ込めて頷いた。

「もちろんだよ、ギルド長………………!!!」




かくして、契約は結ばれたのである。



だが、依頼の難航性をかねて、二ヶ月と言う期間をもらった。依頼人は今すぐ情報をもらいたそうに渋っていたが、そんな簡単に手に入る情報ではないのだと強く言い聞かせた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


まず、アルフォーレは知り合いの情報ギルドを回った。なにかグリムヴァルト公爵家について知っている情報はないか、と。しかし、どこもかしこも口を揃えてこう言った。


「グリムヴァルト公爵家には手出しするな。」


昔ひっそりと家宅調査に入ったギルド員が戻ってこなかったと言っていたギルド長もいたし、屋敷が結界で覆われていて招かれた客しか入れないように工夫されているという情報をくれたギルドもいた。

実際に、一度試しにグリムヴァルト公爵家の周辺をギルドの調査員に調査させたのだが、なにか結界で覆われているようだという報告をもらった。


これはなかなか調査が難航しそうだ、とアルフォーレは指の爪を噛んだ。

依頼人が再び来たとき、全然進んでいない調査報告に顔を真っ赤にさせ、アルフォーレを脅してきたのだ。

「私はッ、屋敷が結界で覆われているなどと言う、どうでもいい情報を手に入れたいのではないッ!!いいか、忘れるな。二ヶ月後にもし私との契約が果たせなければ、お前の指は弾けるのだッッ!!」

アルフォーレは正直、ストレスと恐怖でチビりそうだった。



そんなこんながあって、アルフォーレはとある考えに至った。裏からいけないのでは、もう正面突破しかないのでは?

この考えをルアに言えば、お前はとうとう狂ったのか、と言われるかもしれない。だが、もしかするとそれが一番の方法なのかもしれない。奇想天外というやつだ。


そう思っていた矢先、アルフォーレは戦争の祝勝祝いに訪れた店で、偶然アベルを目にした。偶然の出会いだった。貴族の気品を持ち合わせた、美しい顔のアベル。確認したところ、貴族というわけでもなく、その店主の息子だという。血の繋がりはないようだが、だとしても貴族の血が入った孤児というわけでもなさそうだ。


アベルを見て、突如、案を思いついた。アベルを貴族に見せて、公爵家の息子だか娘だかに家に招待される。そうやって堂々と公爵家の中を歩き回れるようにすればいいのでは??

そう思い、アルフォーレは仕掛けることにした。まず、アベルをヘブンバーに誘う。誘いに乗らなかった場合は、もう一度店に訪れるつもりだった。うまく誘い込めたので、破れぬ契約をさせる。そうすればもうこっちのものだ。一ヶ月間、アルフォーレはアベルが貴族に見えるように知識という知識を叩き込んだ。思ったほかアベルが賢かったのは、嬉しい計算ミスだった。焦らず一ヶ月という期間をかけて、アベルを着実に【貴族】という部類にさせていった。

この判断が、間違っていないと信じて…………。


アルフォーレは、来るその日に備え、全て準備をしてきた。彼がこれから使う名前も、身分も、服も――――――。


あとは、祈るだけなのかもしれない。


アルフォーレはそっと目を閉じ、アベルの成功を祈った。






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