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騎士ですが、奈落道を行きます  作者: PuRi
偽伯爵令息と事件簿
20/25

19.偽伯爵令息は探索する。






アベルとカイはひっそりとした不気味さの中で、端の階段からこっそりと二階へ降りた。二階の廊下には三階にはなかったシャンデリアがぶら下げられており、わずかながらグリムヴァルト公爵家の中でも華やかな雰囲気がした。だが相変わらず廊下は薄暗く、床にしかれたカーペットは炭を被ったかのように真っ黒だ。

ここでも両端に別れて調査をすることになり、アベルはまたドキドキしてきた。今度こそ、見つかってしまうかもしれない。

アベルはひとまず、壁に耳を当てて音が聞こえないかを探ろうとした。当然、なんの音も聞こえない。

『だから、なんなの君?公爵家の部屋の防音システムなめてんの???』

マハルの呆れた声が聞こえる。別に、そういうわけじゃないのだが……。

アベルはそっとドアを開け、隙間からカメラを差し込んだ。カメラは暗視効果があるので、暗闇でもマハルが見ることができる。

『どうやらここは人が使った部屋みたいだ。誰もいないけど、ピアノやギターが置かれている。』

アベルは緊張してきた。どうやら三階にはなかった人気が、二階にはある。公爵家の人間は二階に部屋を構えているのかもしれない。

アベルは隣の部屋も同じようにしてみたが、今度は書類がたくさん散らばっていた。どうやら書斎として使われているらしかった。アベルはごくりと唾を飲み込む。

次の部屋はドアが少し離れた位置にあったので、泥棒の必殺特技、抜き足差し足忍び足とやらで恐る恐る近づく。金の装飾が施された取っ手に手を掛け、静かに回す。扉をわずかに開け、カメラを間に挟んだ。マハルが息を飲む。


『ビンゴだ……。ここがカーネリウスとその妻、セリーヌの寝室のようだ。』


アベルは慌ててカメラを引っ込め、ドアを閉めようとした。すぐにマハルが耳元でささやく。

『慌てるな!奴らはぐっすり眠っているようだし、大丈夫だよ。少し忍び込んでみる??』

アベルはブンブンと頭が弾けるくらい首を横に振った。そんなのしたら、今度こそ死んでしまう。まだ経験の浅い素人がしていいことではない。扉の前で固まるアベルを見て、もう片端から中央までの部屋を確認し終えたカイが何かを察し近寄ってきた。それだけでもアベルは妙な安心感を覚えた。

「人がいるのか?」

最大限の小さな声でカイが聞いた。アベルはうなずき、近づいてきたカイの耳に手を当て、そっと耳打ちする。

「カーネリウス公爵と、セリーヌ夫人の寝室だよ。」

報告を聞いてもカイは変わらぬ表情でうなずいた。

「そうか。少し中を探ろう。」



………………。



こういうものなのか???



カイがやると言うなら、任せるしかない。カイはプロの手付きでドアを慎重に開け、ひとり中に入った。カイは不思議なほど足音がしない。そのせいか、公爵達も安心しきってぐっすりと眠り放題だ。公爵の寝顔は見えなかったが、ひどいいびきがぐっすり眠れていることを証拠付けている。逆に、夫人はこのいびきの中その男の隣でどうやって眠れているのかが不思議だ。

カイはひっそりとクローゼットの引き出しや、机の上を確信し、最後に公爵と夫人の寝顔を確認してからまた戻ってきた。開けた扉を音がでないようにピッタリ閉じる。

「特に何も証拠物はなかった。」

無事に見つかることもなくカイが部屋から出てこれたことにほっとするアベルの横で、カイは淡々と報告する。やはりこれがプロと素人との差なのだ。


「―――が、コーネリウスの横で眠っていた女性はセリーヌじゃなかった。」

は????

アベルは理解できなくてポカンとした。だったら誰だ???

『アベルが聞かなくていいこといちいち報告しなくていいから。』

マハルが咎めるように言った。カイもすまん、と申し訳なさそうに謝る。

いや、一体なに??

全くわからなかったが、マハルはいまいちアベルに教えたくなさそうだった。それなら、まあ……仕方ない。



とりあえず二階を調査した結果、その階にはカーネリウスの寝室、セリーヌの寝室(セリーヌはいなかったが)、書斎、応接室があることがわかった。書斎も軽くあさってはみたが、特に怪しいものはなかった。なぜセリーヌはいないのだろうかと疑問を呟いたところ、マハルが咳払いして

『さあね~。彼女も別のところでカーネリウスと同じことしてんじゃないの?』

と言った。どうしてそうぼかしていうのか。もどかしさだけが残ったが、いくら聞いても答えてくれそうにないのでこれ以上は聞こうとしなかった。



「一階に行こう。」

ついに、その言葉が発せられた。一階に行けば、長男の部屋があるはずだ。起きてなければ良いけど、とフラグにもなりえる事を考えてしまう。

三階から二階まで、これまで誰にも見つからずに部屋を確認することができた。次の一階で最後なのはわかっているのだが、どうも誰かにばったり出くわせそうで寒気がする。

アベルは不安げに眉を寄せた。カイが涼しそうな目でアベルを見つめる。

「行かないのか?」

「行くよ。でも……怖くて。」

行きたくなくても、任務だから行かねばならない。これはアベルの指一本と、アルフォーレの指一本、そして尊厳がかかった大事な仕事だ。……それにこの調査の依頼主だって、それなりの理由があったのだ。怖いだなんてそんな理由で行かないわけには行かないだろう。


……しっかりしろ、アベル。

弱気になるな。怖がるなんて、ばかばかしいじゃないか。


アベルは自分を奮い立たせた。

「ううん、大丈夫だよ。」

アベルひとりのために、迷惑をかけるわけにはいかない。重要な任務なのだ。

「そうか。」

カイは単純な返事のみを返し、真顔のまま前に進んだ。二階から一階に降りていくと、まだ廊下にぼんやりと明かりがあった二階と比べ一階は真っ暗だった。明かりひとつない廊下は、とてつもなく怖く感じた。

カイがこっそりと指示する。

「アベル、もってきた例のものを使え。」

例のもの、とは、恐らくマハルの発明品のことだろう。

『暗視ゴーグルね。名前も覚えられないの??』

マハルが刺々しく言った。暗視ゴーグルは、暗闇の中でもよく見えるマハルの天才的な発明だ。こういった暗闇での活動には救世主的なアイテムだろう。マハルが説明するには、この暗視ゴーグルは周囲の僅かな光を増幅して映像を作るらしい。明るい光には注意してねと言っていた。一瞬真っ白になって何も見えなくなるんだとか。

アベルは腰につけたいろいろな魔術器具が入ったアイテム袋に手を突っ込み、ゴーグルらしき感触を探った。固いものに手があたり、それが暗視ゴーグルだと気づく。それを取り出し、仮面の上から装着した。ゴーグルから見た景色は緑かかったモノクロ映像のようだ。

装着した途端一階がよく見えるようになり、アベルは少し安心した。こんなに暗かったら恐らく誰もいなさそうだ。

アベルとカイはまた別れて部屋を開けては確認するを繰り返した。そうして一階をくまなく捜索したわけなのだが、不思議なことに長男の部屋が見つからない。一階は主に、中央ホール、食堂、厨房、応接室といった構成でできていた。


『違和感があるね…。』


ボソッと呟いたマハルの声が一段と怖く感じる。多分、暗闇の中だから怖いのだ。アベルはぶるりと震えて、近くにいたカイの手を思わず握った。

「なんだ?任務の邪魔になる。」

カイは冷淡に言ってアベルが掴んだ手を無慈悲に振り払った。カイの手に帯びる僅かな温かみから離れ、ひんやりとした空気が手をかする。

やっぱそうだよな…ふえん。

『ねえ、そろそろ引き返した方がいいかも。日が昇りそうだ。』

マハルの忠告に、アベルはまたもびびってカイの腕を掴んだ。カイは迷惑そうにアベルの手を払い除ける。だが、この屋敷から引き返せる喜びは半端ではない。早くここから脱出したい。

「ったく、とりあえず引き返そう。」

カイはしきりにカイを掴もうとするアベルの手を引いて、手繰り寄せた。

「じっとしてろ。そして落ち着くんだ。」

アベルはうんうんとうなずいた。で、どうやって落ち着けば良いのだろう?とりあえず、カイに捕まっていることでざわざわする気持ちは消えた。

だが、恐ろしいほど暗く、誰もいない一階に違和感を隠しきれなかった。

「行くぞ。」

カイはアベルを引っ張った。

「う、うん。」

引っ張られ、アベルもカイに続く。カイは先程来た道を引き返した。なので、一階からまた三階に来たわけだ。まさか、またあれをやるつもりか……と思った矢先、

「屋根に登れ。」

と言うカイの指示でやはりそうなのだと肩を落とした。カイは三階の廊下の一番端の窓から身をのりだし、壁の凹凸を利用して上に登っていった。やはり運動神経が素晴らしいと思いつつ、ひとり残されたアベルは気が気でない。アベルも窓から身を乗り出してみたのだが、なかなか僅かな壁のへこみといってもいいくらい心もとない凹凸を命綱にして屋根に登る気にはなれなかった。

「早く登れ。」

「…………どうすればいいの?」

カイはため息をついてアベルに手をさしのべた。…………届かない。

「もっと上半身に力を入れて前に伸ばせ!」

アベルは腹に力をありったけ込め、上半身を浮かせた。ギリギリのところでカイがアベルの手を掴む。そのままカイの馬鹿力でアベルは一気に屋根まで到達した。


「さあ、またやるぞ…………。」

「うっ、は、はい。」

カイはアベルを軽々と御姫だっこすると、広々とした公爵家の屋根の端まで行き、端から端へと助走をつけながらまた思い切りジャンプをした。

風が切り裂かれ、左右へと流れていく。もうこれで最後ならいいのに、とアベルは懇切な気持ちでカイに必死に捕まっていた。








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