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騎士ですが、奈落道を行きます  作者: PuRi
偽伯爵令息と事件簿
19/25

18.偽伯爵令息は企てる。






「よくやった。」



モンターニュ家の屋敷に戻った後。アベルとカイが屋敷の扉を開け、中に入った瞬間その言葉が振りかかってきた。

見ると、アルフォーレが上機嫌で中央の階段の手すりに寄りかかっていた。

「ありがとうございます。」

カイが丁重にお礼を述べた。アルフォーレはにんまり笑った。

「次男は、また来てもいいぞと言った。なら、また来てもいいと言うわけだ。」

ん?どういうことだろう??

アベルが首をかしげると、耳元でマハルの声が聞こえた。

『グリムヴァルト公爵家には結界が張ってあるんだ。歓迎するもの以外は中に通せないと言う、結界がね。』

「じゃあ、アンドリューがまた来ていいって言ったから、公爵家に侵入できる条件が整ったってこと???」

「そうだ。」

アルフォーレがうなずいた。

「公爵家の人間が許可さえすれば、後はこちらが好き勝手させてもらうと言うわけさ。さて、早速今夜侵入させてもらおうじゃないか。」

「え??!」

さっき帰ってきたばかりだというのに。また行くと言うのか??

そう考えたのはアベルだけではない。カイも同様だったようだ。微かに目を開き驚いたように見えたが、

「はい、わかりました。」

と主人に絶対忠誠のカイ。………………かっこよすぎる。



だが。

アベルは納得していない。大人の体力と子供の体力の差をちゃんと把握してから指示してほしいものだ。カイが鍛えられた美しい筋肉を持っていても、アベルはそんなもの持っていない。

アベルが不満そうにしているのをアルフォーレは見逃さなかった。

「絶好のチャンスだ。」

「明日はダメなの?」

「できるだけ早く動いた方が良い。」

アルフォーレは淡々と言った。依頼人との契約の期間が差し迫っているからなのだろう。

「あの、ギルド長。」

カイがおずおずと口を挟んだ。

「俺も、今日行くのは得策ではないと思います。アベルの体力的にもそうですし、まずは作戦を立てるのが先ではないかと。急いでなにかをして失敗してもおそいですし。」

アルフォーレが難しい表情を浮かべた。さらに、

『ギルド長、焦らずゆっくりやるんだ。事は慎重に。今はうまくやっているじゃないか。』

マハルも口添えした。三人から言われると、さすがのアルフォーレも認めるしかなかった。焦りと不安の表情を浮かべていたが、それでも口元だけは冷静だ。

「そこまで言うなら、良いだろう。その代わりしっかりと作戦を立てよう。まだ建物全てを把握しきったと言うわけではないのだろ??」

「はい。何となく、敷地の構造はわかりましたけど。」

カイが申し訳なさそうに言った。

……………………いや、ただアンドリューの部屋に入るまでの廊下を歩いただけだよね?????

一体どこを見ているのだろうか……。やはりベテランには違う目がついているみたいだ。

「なら、明日はとりあえず屋敷を散策しよう。とりあえず、各公爵家の人間がどこの部屋にいるのかを把握したい。いいな、アベル、カイ????」

「はい!」

自分なんかが役に立つかなんてわからないけど---。

でも、やってみたい。






公爵家潜入の日の夜になった。

冷え込んだ空気がアベルの柔い肌をかする。普段は布団にもぐりくるまっているはずの時間に、今はグリムヴァルト公爵家を囲む塀の上で待機している。いつも寝るとき横にいるはずの母親はおらず、代わりに全身黒服のカイが注意深く辺りを確認していた。カイもアベルも身バレ防止のためにアルフォーレがいつも着けているみたいにウサギの仮面を着け、髪の色を変えた。アベルは深紅の髪から黒髪へと、カイは黒髪から銀色へと魔術道具を使い、完璧に身元を隠すために偽装をした。外が寒くて、アベルは思わず身震いした。

「緊張しているのか?」

カイが気を遣ってアベルに声をかけた。アベルは苦笑いした。

「いえ、大丈夫です。」

「そうか……マハルの指示はちゃんと聞こえているか?」

カイが耳元の超小型無線機に手を当てた。アベルも耳元に手を当てる。

『こっちは準備オッケーだよ!』

心なしか、いつもより機嫌が良さそうなマハルの声がする。やはり潜入捜査だからだろうか?こういうのがやりたかったのかもしれない。

「今日もよろしく頼む。」

『任せときな~!』

カイが潜入捜査の時にはいつもマハルとタッグを組んでいたのだろう。慣れたようなやり取りに、アベルは感心した。二人とも落ち着き払った口調。初めてのアベルはなかなか落ち着かない状況だ。

「それでは、調査を開始する。まずは三階の部屋から探索だ。」

「どうして三階から行くの???」

『アハハ。それはね、三階から潜入するからだーーーよ!』

マハルが言い終わらないうちにカイはいきなりアベルをお姫様抱っこした。突然のことにアベルが目を真ん丸にしていると、カイは膝を折り曲げ、塀の上で助走をつけながら、屋敷の方向へ向かって高くジャンプをした。

ただのジャンプではない。…………大ジャンプだ。



ああああああアアアアアア



声を出せない代わりに心のなかで絶叫をあげる。

塀から屋敷まで、約30メートルの距離だ。プラス三階。どう考えても人間が越えられる距離ではない。それに、カイはアベルを抱っこしているのだ。そんな状況でこの塀を飛び越えようとする者はいないはずだ。

カイの勢いが、風を切った。風がカイが通ったところを境目に左右に流れていく。庭園の草木が一斉に揺れた。花壇の花が散る。まるで、自分が打ち上げられた花火のようだと思った。



ダンッ

と音を立て、カイが三階の公爵家の屋根に降り立った。降りた瞬間、ブワッと小さな台風のように風が渦巻いたが、それもすぐに消えた。代わりにアベルの心臓がうるさい音を立てた。

「い、今のはなに???」

「ジャンプだ。」

「絶対違うよね????」

アベルが思わず突っ込むと、マハルの自慢げな声が聞こえた。

『ふふふふ。忘れたのかい??この僕がいることを!!今のジャンプはなんと言ったって僕の発明品のおかげなのだよ!』

「ああ、マハルの発明品だったんだね!」

「違う。俺のジャンプだ。」

カイが不服そうに言った。自分の能力だとでも言いたそうだ。それに対し、マハルがピシャリと言いのけた。

『だまらっしゃい、カイ!僕が開発した魔術道具、超威力拡大シューズを履いてるんだろ?自分の能力を過信してはダメだ。』

マハルがたしなめるように言うと、まるで小学生のようにカイは頬を膨らませる。

「わかった。」

『わかったか?じゃあ、そろそろ捜査をしないとな。三階の端から行くぞ。二人に分けて両端から中央にかけて捜査をしよう。』

アベルとカイはうなずいた。



アベルとカイは屋根から三階の窓へと移った。屋根の下にある三階に行かねばならないため、一度屋根にぶら下がらなければならない。カイは簡単に屋根から腕力を利用して片方の腕で体を支え、片方の手で三階の窓を開けて中に滑り込んだ。鍵がかかってなくてラッキーだ。アベルは恐る恐る、落ちたらおしまいの恐ろしい間際で何とか三階の窓に滑り込めた。

「俺は、向こうの端から見てくる。お前は、ここから中央にかけて部屋を確認しろ。くれぐれも、見つからないように。何かあったらこれのところに駆けつけろ。いいな?」

「わ、わかった。」

アベルはごくりと息を飲む。ただでさえ難しそうな任務なのに、初めての任務がグリムヴァルト公爵家だなんて…………!!

バレたら終わり、と思いながら、バクつく心臓をおさえ、ただただ向かい側まで行ってしまうカイの背中を見届けた。カイがいなくなったことで、さらに不安が増した。どうも冷や汗が止まらない。

アベルは恐る恐る一歩目を踏み出した。近くの部屋のドアにそおっと近づいて、耳を当てる。

『そんなんじゃ確認できないっしょ。なに考えてんの。』

耳から呆れたこれが聞こえた。

命がかかってるだから、仕方ないでしょう…………!?

やはり耳を当てるだけじゃダメらしい。厳しい世の中だ。アベルはゆっくりとドアノブを回し、そおっと中を開いた。わずかな隙間から小型カメラを忍ばせる。

『うーん……誰も使ってないみたいだけど。』

カメラを通じて、マハルが確認してくれている。アベルはそっと部屋を閉じ、胸を撫で下ろした。

『はいっ、次々!時間ないんだから!!』

「ううう、わかったってば。」

マハルに促され、アベルは隣の部屋も同じように確認をした。だが誰もおらず、また次の部屋も確認したが、誰もいなかった。マハルが確認してからアベルも部屋を覗いてみたのだが、どの部屋も殺風景で、人が使った痕跡がひとつもなかった。

「三階は、空き部屋が多いみたい。」

『そうみたいだ。アンドリューの部屋は三階にあったけど、もしやアンドリューしか使ってないのかな……??』

マハルが確認しながら考察していく。確かにそうだ。アンドリューはひとりで三階を使っているのか???

アベルが端から中央までの部屋を確認し終わったとき、カイはすでに終えて物陰に隠れながらアベルを待っていた。

「どうだった??」

「アンドリューの部屋を避けて、それ以外を確認したんだけど、誰もいなかったしなにもなかったよ。」

「こっちも同じくだ。何かおかしい。………………二階を確認しよう。」

アベルは顔をひきつらせた。


何かがおかしい、グリムヴァルト公爵家の屋敷。別荘とはいえ、怪しい臭いを隠しきれない。


アベル達は、二階へ続く階段を慎重に降りた。



―――今日はここから生きて出られるのだろうか…………。


ふと、そんな考えが頭をよぎった。


なにもなければいいけど…………。





そう考えると何か嫌な事が起こりそうで、アベルはぶるりと身を震わせた。







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