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星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


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 その後は魔法の力も限られるということで、大声で瓦礫を撤去できないかと奮闘してみたが、思うように動かせはしないし、終いにはもう一件家を大破させてしまったナオ。今は人気のない路地裏で膝を抱えぐったりとうなだれている。

「何が人助けだよ。掃除の邪魔しただけじゃん。家もぶっ壊してさ、子どもに怪我を負わせかけたり、アンタには本当に怪我を負わせたりして……。アタシ最悪じゃん」

「まあまあ、そう気を落とさず。最初に提案したのは僕ですし」

「…………っ」

 ミズキの言葉にいつもの元気な返事はなかった。ナオは膝にうずめていた顔を上げると、ぼんやりと空を見上げた。青い空はだんだんと夕日が差し橙色に染まっていく。あんなにも長いと思っていた一日が、あっという間に過ぎ去っていく。もうこの空を明日、見ることはないのだ。

「もう黄昏時だね」

 ナオは自分に言ったのかミヅキに話しかけのか分からない程の声で告げると、顔を上にしたまま立ち上がった。隣に座っていたミヅキはナオの背中を見上げる。

「鳴海さん?」

「今日もなーんの手がかりもつかめなかった。アタシの人生これでお終いかあ」

「そ、そんな……! ま、まだ諦めちゃだめですよ! さっきのは失敗しちゃいましたけど、きっと何か出来ることがあるはずです! 明日の朝までにはきっと何か方法を……!」

 だがナオの返事はない。彼女は背を向けたまま必死に声を押し出すようにして話し出した。

「なんか、アナタにもいろいろ迷惑かけちゃって、ごめんね」

「……鳴海さん……」

「ねえ、アタシが幽霊のまま消えちゃったらさ、この魔法の力ってどうなっちゃうんだろう? 一緒に消えちゃうのかな? それともアタシが消えると同時にアナタの体に戻る?」

「鳴海さん、そんな話やめましょう」

「もし戻らなかったら本当、申し訳ないな。財布も奪って魔法の力も奪っちゃってさ。仕舞には幽霊になって、取ったもの持ったまま消えちゃったなんて。本当笑い話にもならないよね」

「…………」

「あーあ。こんなことになるんだったら、もっと一杯好きなことしとくんだった。後輩にあげたはちみつレモン横取りしたりさ。朝までカラオケしたり、夜中にカップラーメン食べたり、欲しいもの即決買いしちゃったり」

 ミヅキは何も答えず、その話を聞いていた。

「消える前にさ、せめてあの子が無事かどうかくらい確認したかった。マンションから落ちた女の子。――あの子が無事だったら、もうそれでいいんだ。そりゃ消えちゃうのは悲しいけどさ、助けたことに後悔はしてないの。人を助けて命を落としたヒーローみたいで、アタシってかっこいいじゃん! とか胸張ってみちゃったりしてさ……」

 空へと語り掛けていた声がだんだんと震えて小さくなっていく。ミズキはナオの頬に涙が伝うところを初めて見た。その涙もまた、空と同じ光に染まっている。

「そうですよ……」

 ミヅキは思わず息をのんだ。

「人助け、したんじゃないですか」

「え?」

 ナオが振り返る。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

「どうしてそんな単純なことに気が付かなかったんでしょうか! 鳴海さんの存在理由、それは彼女を救ったことです!」

「どういうこと?」

 ナオは鼻をすすりながら袖で涙をぬぐった。

「人間の世界で助けたその女の子ですよ! もし鳴海さんがいなかったら、あの子はあそこで命を落としていたかもしれません。彼女に証明してもらえばいいんですよ!」

「だからそれは無理じゃんか。ここは魔法の国なんだから。それにあの子、まだ二、三歳くらいだよ? 証明も何も……」

「迷ったら即行動! 鳴海さんがそう言ったんですよ! ほら、行きましょう!」

 ミズキはナオの体を通り抜けて先へと歩き出した。ナオは一瞬呆けていたが、すぐに我に返り今一度涙を両手で拭いきった。そして先を歩くミヅキを大急ぎで追いかける。

「待ってよ! 魔法使いー!」

 二人は細い路地を一直線に並び進んで行った。


 ミヅキの案内で着いた先は、古びた大きな図書館だった。あたりは一面瓦礫の山なのに対し、その建物だけは傷ひとつ入っていない状態で建っていた。

「やっぱりここは無事でした。この建物は第一保護区域に分類されていましたからね」

「ここ何?」

「魔法界のすべての書籍が集う場所、そして向こうの世界と唯一通じる場所です」

「向こうの世界って……人間界のこと⁉」

「はい」

「もしかして、帰れるの⁉」

「いいえ、ここから出入りは出来ません。ですが、向こうの様子を覗き見するくらいなら可能です」

「なあんだ」

 ナオは口を尖らせて、いじけたような表情を作る。

「覗き見るって何? 着替えとか?」

「まあ運悪く覗き見るタイミングを間違えば、そうなる可能性はありますね。ですがこんな形であっても、向こうの世界と繋がることが鳴海さんにとっては存在理由に近づける最も有益な時間だと思いますよ」

「確かにそれはそうだね。というか、こんなところがあるなら最初に言ってよ」

「それが頭の中からすっぽり抜け落ちていまして」

「まさかあの時記憶まで飛ばしちゃったんじゃないよね?」

 ナオの手厳しい言葉を背に受けながら、ミズキは図書館へと入って行った。

 中はとてつもなく広く、奥まで肉眼では確認できない。天井まで聳え立つ棚には色とりどり本がずらりと並び、見上げても先が見えない程だった。本は自由自在に宙を飛び回り、まるで鳥のようにバサバサと羽音を立てている。そして自分の巣箱へと戻るように棚の間に身を滑り込ませていた。本棚にかけてある吊り階段は、自動でぐるぐると移動している。

「すごい。魔法の国みたい!」

「まあ、その通りなんですが」

 率直な感想が口から飛び出した。ミヅキは淡々とそれに返答する。

「綺麗なところだね! なんかワクワクしちゃう!」

 ナオは泣いていたことも忘れ、あちこちを楽しそうに眺めていた。

 図書館の中央部分に差し掛かると、その足元に太陽と月の紋章が描かれているのに気が付いたナオは、ふと足を止める。

「この模様、どこかで見たような……」

 しばらくそこに立ち止まり、足元を見下ろしていた。すると突然天井から夕焼け色の光が降り注いだ。自分にスポットライトが当てられているかのような錯覚に陥るナオ。まぶしさに目を細めながら顔を上げると、天井に二人の男女が書かれているステンドグラスが張られているのが見えた。それは光に照らされて、様々な色へと変化し輝いている。

「綺麗……」

 眩しさに目がくらんでいるのも忘れ、しばらくそれに見とれていた。次第に光が消えていくにつれて、先ほどの本が羅列する風景へと戻っていく。

「あれ?」

 ナオは確認するように何度も天井を覗き見るようにするが、もうその先には先ほどのステンドグラスは見えなかった。

「おっかしいなあ」

 ナオが首をかしげていると、ミヅキがナオを振り返る。

「どうかされました?」

「うん、今さ、この天井に白い服を着た女の人と、黒い服を着た男の人が書いてあるステンドグラスが見えたの。でも今見ても、何も見えない」

「これは珍しいものを見ましたね、鳴海さん」

「珍しいもの?」

 ミヅキはそう言うと、ナオが立ち止まっているところへと戻って来た。

「この紋章が入った図書館の中心部、この上に立つと白の番人と星の精霊の姿を見ることが出来るんです。一日に二回、空に星が現れる時と消える時だけ」

「白の番人と、星の精霊……?」

「はい。この国を司っている二人の神様です」

 ナオはそれを聞くと、街の中心部にある高い塔のことを思い出した。

「あ、あの塔のてっぺんにいる神様のこと?」

「その通りです」

「へえ。でも、どうして二回だけなの? あんなに素敵なものなら、ずっと見れたらいいのに」

「常にあるものに人は見向きもしなくなる。けれど時に姿を見せるから、人はいつまでも美しいと感じるのだと思います」

「まあ、一理あるかも」

「さ、こちらですよ」

 ミヅキは立ち止まっているナオを促すように歩き出した。

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