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星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


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 ミヅキは腕の傷を隠すように裾を下げると、その手のひらを広げてナオの目の前に突き出した。ナオはじっとその手を見つめる。

「えっと、何……?」

「五回、といったところでしょうか」

「五回……? なんのこと?」

 ナオは戸惑いながらミヅキの言葉を繰り返す。するとミヅキは手を引っ込めて説明を始めた。

「鳴海さんが一日に使える魔法の回数です。鳴海さんは元々人間ですから、自ら魔力を生み出すことは出来ません。つまり実際に使える魔力は僕が持っていた分しかないということです」

「それが一日五回分、ってこと?」

「少なくてすみません」

 ミヅキは恥ずかしがるような仕草で、差し出していた手を翻し自分の頭を掻いた。ナオは律義に掌を出して、指を折り数えて見せる。

「じゃあ今一回使ったから、後四回……」

「大抵は寝て起きればある程度の回復は見込めます。ですが万が一休めないことも視野に入れ、明日の朝までがあと四回。という風に考えておくと安全ですね」

「明日の朝まで……。それまでにはアタシの存在を証明できるもの見つけておきたいんだけどなあ」

 ナオの言い分も分からないことはない。しかし、何が起こるか分からないのもまた事実。寝る間も惜しんで存在理由を探すことになるかもしれない。ミヅキはそれを知ってか知らずか、ナオに言い聞かすように言葉を重ねる。

「ほら、大切に使わないとすぐに魔力切れになってしまいますよ」

「魔力がなくなったらどうなるの?」

「どうもなりません。魔法が使えないだけで。まあ、魔法使いであれば致命的ですが、鳴海さんにとってはプラスがゼロに戻っただけなので体に支障はないかと」

 ナオは指を一本折り曲げたままの自分の掌を見下ろす。

 ……あと四回。あと四回で自分は魔法も使えないただの人間の幽霊になってしまう。

 ナオはぎゅっと指を織り込むと、拳を握りしめてミヅキの方へと向き直る。彼女の視線の先にあるのは、傷口を抑えていた手のひらに残る血の痕だった。それに気が付いたようにすぐさまポケットに右手を押し込んだミヅキに、ナオは縋り寄る様に言う。

「でもやっぱさ、あと四回あるなら――」

「こういうのはどうでしょうか」

 ナオの言葉を見越してミヅキは言葉を遮り、彼女の背後を指さした。ナオは負けるかとミヅキの前に立ちはだかるが、彼が答えてくれる様子はない。どうあがいても傷を治させては貰えないらしいことを悟ったナオは、素直に諦めて大人しくミヅキの言った方向を振り返った。

「何?」

 ミヅキが指さす先には、瓦礫を拾い集めている人々の姿があった。中には包帯を巻いた青年の姿もある。

「街の瓦礫掃除をお手伝いするというのはどうです? 復興するにも、まずはお掃除からですよ」

 ナオは言われた通りに瓦礫を集めている人の近くへと近寄ってみた。大きな瓦礫はひとつひとつ丁寧に持ち上げ運んでおり、ばらばらに砕けた欠片は箒でかき集め片付けている。ナオはそれを見て不思議に思った。それを遅れて歩いて来たミヅキに問いかけてみる。

「ねえ、なんで皆魔法使わないの? ここにいる人たちは皆魔法使いでしょう? 魔法でやったら、あっという間に片付いちゃうのに」

「それはそうかもしれませんが、我々魔法使いはカラダを使うよりも魔法を使う方が労力としては大きいんですよ。食事も休息もままならない状態で、負荷のかかる魔法は控えたいところではあります。それに、敵の攻撃の片鱗が残っていると危険ですし」

「攻撃の片鱗?」

 ミヅキは周囲を見渡すと、道の端に転がっている石ころを持ち上げた。手の上に乗るほどの小さなその石は、どことなく青い光で発光しているように見える。

「光ってる!」

「魔法の国同士の戦争なので、もちろん魔法での戦いになります。時々攻撃した魔力がその場所にとどまっていることがあるんですよ。不用意に魔法を使ってしまい相手の魔力に触れてしまうと、片鱗が爆発して術者を飲み込んでしまいます」

「怖っ……。戦争は終わったのに、足元に地雷が埋まってるみたいなものだね」

「その通りですね」

「じゃあさ、アタシももしその片鱗に魔法をぶつけちゃったら飲み込まれちゃうの?」

「同様に」

「じゃあ、片付け出来ないじゃん!」

「それなら、彼らが集めたものを運ぶ作業をお手伝いするのはどうです? 一度手に触れて太陽の元に出されたものは、たとえ魔法の片鱗が残っていたとしても既に浄化されていますから」

 ミヅキは手に乗せた石ころを、太陽の光にかざすように持ち上げた。暗闇で発光していた石は次第に力を弱め、何もないただの石ころへと戻って行く。それを見て安心したのか、ナオは袖のない腕をあえて腕まくりする仕草をしながら歩き出した。

「よーし、じゃあ手伝うぞ!」

 集められた瓦礫の山の前に立つと、思うがままに両手をかざした。うーんとうなりだしたかと思えば、焦ったようにそれを止められた。

「あ、ちょっと待って!」

「え、何⁉」

 既に半分魔法を使いかけていたナオの掌からは青い光が発せられていたが、それが消え切る前にミヅキは早口に言い切った。

「魔法を使えるのは、あと四回です。一度魔力を放出したら、やりたいことは一気にやってしまってください。その間に色々な術を使っても一回は一回とみなされますから」

「オッケー!」

 ナオはそれを聞き終えると、目を閉じて屋外に積まれた瓦礫に手を向けさらに強く念じ始めた。すると両手が先ほどよりもはるかに強い瑠璃色に包まれる。

「良い感じです」

「どうすればいい?」

「とりあえず浮かせてみましょうか」

 そのまましばらく念を送るナオだが、瓦礫が動き出す気配はなし。だが目を閉じているナオにはそれが見えていない訳で。

「ねえどう? 浮いてるー?」

 何も変わっていない風景を見ながら、ミヅキは正直に答えた。

「ええまあ、浮いてはいますよ」

「え! やったあ! じゃあこれ、どこにやればいいかな」

「そのまま地面にお戻りになった方がいいかと」

「じゃあ浮かせた意味ないじゃん!」

 そこでナオが目を開ける。そしてあたりを確認するが、全く浮いている瓦礫は見当たらない。

「え! 全然できてないじゃん!」

「出来てますよ」

「どこ」

「ここ」

 ミヅキが指さした先。そこはナオの足元だった。

「って! アタシが浮いとるんかい!」

 ……ナオが数センチ、浮き上がっていた。

「もう違うって! アタシは、あの瓦礫をぜーんぶ浮かせたい訳!」

「うーん、ならばその意識をあの瓦礫へと飛ばす感じで」

「飛ばす?」

「はい。それで目的のものを浮かせるんです」

「そうやってアナタは自分の能力ごと飛ばしちゃったって訳」

「お恥ずかしながら」

 言われた通りのことをしてしまった過去の自分を恥じるように、ミヅキは片手で自分の顔を覆い隠した。

「飛ばすってどんな感じ?」

「ビューンって感じで」

「空飛ぶ時と同じ説明してる」

「僕は落ちこぼれなので説明とかは――」

「ああ分かった、みなまで言うな」

 さらに彼を追い詰めてしまいかねない要求に、ナオは説明してもらうことを諦めた。とにかく自分だけの力で念を投げるイメージを膨らませる。

「えーっと、浮かせたいものに向かって投げる、投げる……。ボールなら自信あるかも!」

 ナオは念を込めた力をうまく操り、野球ボールほどの大きさに変化させた。丸くとどまったボールを慣れた手つきで力強く握りしめる。

「大きく振りかぶって――鳴海選手、投げました! ストラーイク!」

 瓦礫に向かって光をぶん投げたナオ。見事それは瓦礫に直撃。その直後青い光があたり一面を包み込んだかと思うと、瓦礫は一斉に宙へと浮き上がったのだ。その場で瓦礫掃除に勤しんでいた人たちは、浮かんでいる瓦礫を不思議そうに見上げている。なんせ目に見える範囲、誰も魔法を使っていないのだ。

「誰だ? 魔法使ってんのは」

「私じゃないわよ」

「ワシでもないぞ」

 ナオはえっへんと胸を張って私がやりました! と鼻高々に手を挙げていた。

「それで? 浮いた後、どうすればいいの?」

「力を完全に投げ飛ばしちゃったので、操作は難しそうです」

「え? じゃあ移動できないじゃん」

「そうですね」

「そうですねって!」

「でもまあ、安心してください。皆さんそんなに喜んでいそうにありませんから!」

「安心できねーよ! 本末転倒じゃねえか! なんでやらせたよ⁉」

「ついでに何か良いことでも起こるかと思って。ほら、二階から目薬って言うじゃないですか」

「棚から牡丹餅な! でも現状はアンタの言うとおりになってるけど!」

「いやあ参りましたね。豚に真珠とはこのことで―ー」

「だれが豚だ! 意味も知らない言葉を知ったげに使うな!」

 言い争っている間も、宙には瓦礫が浮いたままになっている。ナオはふとそれを見上げた。

「あのさ」

「はい」

「あの瓦礫って、どうなんの?」

「そうですね。力がなくなれば――落ちます」

「えええええ!」

 そうこう言っている間に小さな瓦礫がひとつ落下して、地面へと当たるとともに砕け散った。次第にその数は増えていき、夕立を告げる雨足のように降り注ぐ瓦礫の勢いは強まる。

「おい! 降ってくるぞ!」

「逃げろー!」

 ぼんやり空を見上げていた人たちも、慌ててその場から逃げ出した。浮き上がった大量の瓦礫は、豪雨のように次々と降り注いでくる。なんとそこにタイミング悪く、一人の男の子が路地からその場に飛び出してきた。小さい瓦礫は彼の身をかすめることなく落ちていく。このまま通り抜けられれば問題ない。

 かと思いきや、突然プツンと糸が切れたようにすべての瓦礫が地面に向かって動き始めたのだ。

「まずい!」

 少年の頭上に容赦なく降り注ぐ瓦礫の束。今から魔法を放ったところで間に合いはしない。誰もが少年が生き埋めになるところを想像したが、ナオだけは諦めていなかった。大きく息を吸い込むと、全力でその瓦礫に向かって叫び声をあげたのだ。

「とんでけええぇーっ‼」

 するとその衝撃波で、なんと瓦礫だけが数メートル先へと吹き飛んでいった。巨大な瓦礫が空を駆け抜けて行ったことに目を丸くしている少年であったが、怪我はなさそうだ。

 安心感がどっと押し寄せてきて、へなへなとその場に座り込むナオ。

「た、助かったあ……」

 魔法は失敗に終わったが、自慢の大声から発せられる不思議な力に助けられたのであった。

 この安心感を分かち合おうと隣にいるはずのミヅキを見上げると、そこに彼の姿はなかった。おかしいなと見渡してみると、自分の真横に片耳を塞いだままうずくまっているミヅキがいた。

「あれ、どうしたの?」

「魔法よりそちらの方が使えそうですね……。耳線が必要ですが――」

 しばらく片方の耳が機能しなくなってしまった、元魔法使いであった。

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