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星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


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16

 翌朝。固い地面に転がって眠っていたミヅキは、自分へと呼びかけられているけたたましい声で目を覚ました。

「こら! いい加減起きろ! 朝だぞ、魔法使い!」

「ん……、うん……?」

 ミヅキは眠たい目をこすりながら起き上がる。どうやら星を見ているうちに、そのまま眠ってしまっていたらしい。

 だが起き上がるとそこは眠っていたはずの河川敷ではなく、もはや数センチで川といったところだった。

「どんな寝相の悪さだよ! こんなところまで転がってきてさ!」

 ナオに問い詰められて、ミヅキは半ば照れながら頭を掻いてみせる。

「いやあ、寝穢いのは誰よりも優れておりまして……」

「いらん特技だな」

「そんなことよりも――おはようございます」

「おはよう!」

 改め直して言ったミヅキの挨拶に答えたナオの元気な声は、何もない荒野へと響き渡り五回ほどこだました。おそらくここから数キロメートル離れているマルクにも届いていることだろう。この大きな声でミヅキもやっと目を覚ましたかと思いきや、なんと再び地面へ仰向けに転がり、再び夢の中に旅立っているのであった。

「ってちょっと! 二度寝しないでよね! 目を覚ませ魔法使い!」

 ミヅキはうっすら目を開くと、空を仰ぎながら呟くように答える。

「違いますよお……。今何かに吹き飛ばされたような気がして。まあ、二度寝にはちょうどいいですかねえ……」

「何わけわかんない事言ってんの! アタシの大事な時間をアンタの寝坊助に使う訳にはいかないのよ! ほら、さっさと起きる!」

 ナオはミヅキを覚醒させるように、体を揺さぶるような仕草をした。と言ってもナオの指先は彼の体を通り抜けているので、実際のところ何も起こってはいない。

 ミヅキは先ほどのような大声を耳元で出されてはたまったものではないと、観念したように起き上がった。そして肉まん三個がすっぽり入りそうな程の大きな欠伸をしてみせる。

「ふわあ……。相変わらず、元気ですねえ……」

「そういうアンタは元気ないよね」

「まだ眠たいんですよお……」

「どうせ夜更かししてたんでしょ! ちゃんと寝ないと背が伸びないぞ!」

「これ以上伸びたら困ります」

 ミヅキは全力で伸びをして半分眠ったままの身体を無理やり叩き起こすと、重たい腰をやっと上げた。

「では、行きましょうか……」

「よし! 今日こそはアタシの存在理由、見つけてやるんだから!」

 意気揚々一歩を踏み出すナオを見て、ミヅキは笑顔を浮かべて共に歩き出す。

 碧空一変白い雲、紅炎の天道、虹の橋。まるで彼女の見据える未来のようであった。


「すみませーん! 見えますかー! ごめんくださーい!」

 ヴォラールに乗って東の街へと移動したナオとミヅキ。昨日は街の雰囲気にのまれて何もアクションを起こせずにいたが、今日は行きかう人の前に立ちはだかり何かしら接触できないものかと試行錯誤している。だがナオへ向かって歩いてくる人は皆その体を通り抜け、ナオに気が付くこともなく歩いて行ってしまう。やはり直接何かをしようとするのは至難の業らしい。

 ミヅキはナオの様子を道端に立ち黙ってみていたのだが、十分程経ったところでナオへと歩み寄り声をかけた。

「どうです? 何か収穫有りましたか?」

「知ってて聞かないでよね」

 ナオは大きなため息をついた。肺の中を空っぽにした分めいっぱい息を吸うと、思いきり声を張り上げる。

「くっそー! 私に何か力があればなあー‼︎」

 渾身の独り言。その瞬間ナオを中心として衝撃波が発せられたように、空気の波紋が周囲へと広がって行った。

「わわわわ!」

 ミヅキは本日二度目となる謎の衝撃波を真横でくらい、思わず後ずさりをしてその場に転がった。そこに行きかう人もまた何かに押されたような感覚がして、不思議そうにあたりを見渡している。たった一人予期せぬところで発生した事象に気がついていないナオは、怪訝な顔をして地面へしりもちをついているミヅキを振り返った。

「え、なに? どうしたの?」

 ミヅキは両耳を塞ぎながら、へらへらと笑ってみせる。

「いやあ、特殊な能力をお持ちなようで……」

「へ? 何、アタシなんかした?」

 ナオが首をかしげていたその時、ミヅキの転んでいた近くの家から何かがバキッと折れるような音が聞こえてきた。いかにも嫌な雰囲気である。

 ちらりとそちらを振り向いた直後、家の一階部分が上から押し潰されたかのように崩壊した。折れた柱がや瓦礫が、バラバラと道端に転がり落ちて来る。そして大きな物体がずるずると這いずるように、何かがミヅキの頭上へと迫っていたのだ。

「危ないぞ!」

 道端からミヅキへと叫ぶ声が聞こえた。上を見上げると、そこには今しがた崩れたばかりの家の屋根が、なんとそのままはぎ取られたかのように降り注いで来たではないか。

「魔法使い!」

 ナオが咄嗟に手を差し出す。振り返って見た彼女の手は、既に青い光を放っていた。目の前に迫る閃光を直に受けたミヅキのカラダは宙に浮き上がり、コンマ数秒後には後ろへと吹き飛んでいく。屋根は地面に当たると同時に大きな音を立て、バラバラに砕け散っていった。

 砂煙が落ち着くと、ナオはミヅキの姿を確認する。ミヅキは先ほど彼が座り込んでいた場所から数メートル先の地面にうつぶせで倒れていた。ナオは急いで駆け寄り、不安そうに声をかけてみる。

「魔法使い……、大丈夫?」

 ミヅキは腰をさすりながら、なんとか上体を持ち上げるようにして起き上がった。どうやら意識はあるようだ。

「痛たた……。急に吹き飛ばすだなんてひどいですよお」

「ごめん! なんか無意識に魔法が出たみたいで……」

 ナオはそう言うと、何かに気が付いたように今自分が発言した言葉を繰り返した。

「魔法……? 魔法……。そうだった、魔法だ!」

 ナオはミヅキを心配するのを辞めると、軽快にピョンピョンその場で飛び跳ね始めた。

「私には今魔法の力があるんだった! すっかり忘れてたよ! これでさ、人助けとか出来るかも!」

 ミヅキはゆっくりと立ち上がりながら、衝撃を一心に受けた腰をいたわるように撫でながら答える。

「魔法ですか」

「そう! 今みたいにさ、誰かを助けるために魔法を使えば、何かしら役に立つことが出来るかもしれないよ! っていうかさ、今アナタを助けたことで、それがアタシの存在証明になったりは――」

 ナオは期待を込めた表情でミヅキの方を振り返る。その言葉を否定したわけでもないのに、彼女の顔から表情が消え去った。ミヅキはきょとんとしてナオを見つめる。

「鳴海さん、どうしました?」

「魔法使い……。そ、それ……」

 恐る恐る、指をさすナオ。ナオが指したのはミヅキの左腕だった。その腕の服は真っ赤に染まり、指先からぽたぽたと赤い雫が垂れている。そこでミヅキはやっと自分の怪我に気が付いたようで、左手の裾をまくり上げた。吹き飛ばされた時に出来たのか前腕部に大きな切り傷が出来ており、そこから血があふれ出していたのだ。

「おや、いつの間に」

「う、嘘! ひどい怪我だよ⁉︎ もしかして、今のアタシのせいで……!」

 ナオは動揺しているが、ミヅキは手慣れたようにポケットからハンカチを一枚取り出すと、すぐに左腕にグルグルと巻き付けた。

「いえ、鳴海さんのせいではありません。偶然そこに割れたガラスが転がっていただけです」

「で、でも、そのガラスもアタシがあの家壊しちゃったから、飛んできたやつかもしれないし……!」

「もしそうだったとしても、別に壊そうと思って壊したわけではありませんよね。この家自体その程度の耐久力しか残っていなかったということです。遅かれ早かれ、いつかは崩れていたでしょうし」

「でも怪我させたのはアタシのせいだよ! え、どうしよう! 血がいっぱい出てる……!」

「抑えていればすぐに止まりますよ」

 見る見る赤く染まっていくハンカチを見ると、じっとはしていられないナオ。あくせく周囲を見渡したり、自らのポケットをまさぐったりしている。

「えっと、えっと……何かないかな、何か。そ、そうだ! 魔法! ほら、血を止める魔法とか、傷を治す魔法とか、そういうのってないの⁉︎」

 懇願する表情を向けて来るナオに、ミヅキはにこやかに答えた。

「ないことはないですが、鳴海さんには難しいかと」

「なんでそんなこと言うのよ! やってみないと分からないじゃん!」

「大丈夫ですよ。僕の事なんかより、もっと大きなことにその力を使ってください」

「何言ってんの! 今がその時でしょ!」

「…………」

 ミヅキはナオの言葉に少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに目を細めて笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます。でもほら、もう血は止まりましたから」

 彼は腕の上に縛っているハンカチをナオに差し出した。どんよりとハンカチを曇らせる赤はそれ以上広がることはなさそうだったが、ナオの表情が晴れることはなかった。

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