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星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


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 何とか空の旅に行きついたナオ。空を飛んでいる間は真っ直ぐ穏やかに進んでいるので、安心して街を見下ろすことが出来た。だがやはり馬車の時と同様、あちこち争った形跡が遠目からでも確認できるので、ナオはすぐに顔を逸らしてしまった。

 風に負けぬようやや大きめの声で、背中越しのミヅキへと話しかける。

「ねえ、田舎町って向こうの世界で言うと、どこらへん?」

 ミヅキは視線を前にやったまま答えた。

「そうですねえ……。僕はあまり向こうの地理は得意ではなくて。都心を中心部だと置き換えると、ナオさんが住んでいる町くらいがちょうどいいのかもしれませんね」

「田んぼとかある?」

「稲作は栄えていませんので。牧場なら」

 ミヅキの運転でヴォラールは次第に高度を落とし、広い荒野の一角へと降り立った。周りは元々牧場であったのか、朽ちた柵が何もない大きな荒地を囲っている。深緑でおおわれていたであろうそこは、枯草色を通り越し朽葉色になり果てている。とてもじゃないか動物が生きて居られる状態ではなかった。そこには全くと言っていい程人気はなく、生暖かい風が広野を駆け抜けるだけだ。

「うわあ……なーんにもない」

 ナオはあたり一面を見渡しながら率直な感想を述べた。ヴォラールの足元には、朽ち果てて倒れている家の残骸が転がっている。風に煽られた破片がナオの目の前に舞い上がり片手でそれを払っていると、何やら呟く声が聞こえて来た。

「ここが――そうですか……」

「?」

 その声は間違いなく自分の目の前から聞こえてきたが、いつものへらへらしているミヅキとは全くの別人のようだった。彼以外に誰かいるのかと覗き込むが、他に人影はない。まさかヴォラールが喋る訳はないよなと思いながらミヅキの顔を覗き込もうとしたのだが、背の高い彼の表情を後ろから確認することは出来なかった。

 しかし次に発せられた声は、いつもの拍子抜けする彼の声であった。

「さあ、着きましたよお。降りましょうか」

 彼は背後にいるナオへ軽く声をかけると、軽い足取りで先にヴォラールから飛び降りた。振り返った彼は、へにゃへにゃしたいつもの笑顔を浮かべている。――気のせいだったのかもしれない。

 ナオも同じように地面へと降り立つ。

「長旅ご苦労様。ありがとうございました」

 ミヅキはヴォラールの顔を優しくなでながらお礼を言った。

「ありがとうね」

 ナオも手を差し出すと、ヴォラールは顔を摺り寄せてくる。

「えへへ、可愛い」

 何度かその子の頭を撫でた後、ヴォラールは満足したように数歩下がって行った。そしてお辞儀をするように頭を地面近くまで下げ、そのまま空へと飛び立って行く。ナオはその姿を少しだけ追いかけると、大きく手を振ってみせた。

「またねー! ばいばーい!」

 ヴォラールの姿が小さく見えなくなるまで、ナオは手を振り続けていた。

 ナオは手を下ろすと、そこから続く砂利道の方を振り返る。その道の片側には家や納屋などが軒並み並んでいたのであろうが、見える限りでもすべてが崩れており家を支えていたであろう柱さえ真っ二つに裂けている。田舎というよりも廃村と言った方が正しいのではないか、とさえ思えてきた。あまりにも静かすぎて、自分たち以外に何もいないような気がして来たナオは、何か物音がしないか耳を澄ませてみる。

 すると、何かが荒野を走る音が聞こて来たのだ。そちらへ目を向けると、数匹の羊らしき動物が走って来るのが見えた。動物も全て絶滅したかとも思える風景の中、彼らは元気そうに尾を揺らしていた。彼らを保護している人がいるのかもしれない。ナオは目を凝らしてさらに荒野の奥を見据える。他にも数匹影が見えたが、生きている人の姿は発見できなかった。

「動物はいるみたいだけど……。ねえ、こんなところに誰かいるのかな?」

 ミヅキからの返事はない。ナオがミヅキを振り返ると、彼は壊れた家の前で目を伏せ立ち尽くしていた。その顔に表情はなく、何かをぼんやりと見つめている様子だった。

「魔法使い? どうかした?」

 ナオの声にハッと我に返ったミズキは、慌てて笑顔を作ったようにへらへらと笑った。

「い、いえ……。なんでもないんですう」

 いつもの間延びした話し方。ミヅキはそう言うと、まるでそこから逃げるかのように早歩きで砂利道を歩き出した。ナオは慌ててミヅキを追いかけ、その横に並ぶ。

「なんか元気ないね?」

 気にかけるようにそう言うと、ミヅキは困ったようにボサボサの頭を掻いた。

「まあ、そうかもしれませんね。なんと言うか……。ここらへんも、変わってしまったなあと思って」

「へえ。じゃあ魔法使いは、ここらへんよく知ってるんだ?」

「まあ、知っていると言うか――元々、僕の家があった場所なんですよ」

「え?」

「ヴォラールに頼んだのはこういう事。かつて僕が住んでいた場所までお願いします」

 ナオはそれを聞くと、急いで先ほどミヅキが立ち尽くしていた家を振り返った。ぐちゃぐちゃになった家の欠片が風に飛ばされていく。もはや面影も残らないその残骸が、かつて彼が住んでいた場所だったなんて。彼の何も語らない表情が、全てだったのだと悟った。

「そう、だったんだ……。ごめん、アタシ知らなくて」

「いえ、鳴海さんが謝ることなんてなにもないですよ。まあ、人間界に行ってからしばらく経ちますし、()()()()()()()()()()()()で、壊れていてもおかしくはないですよね」

「でも、何にもなくなってるとさ……。ちょっと寂しいよね」

「……そうですね。さ、昔話はこれまでにして、ナオさんの体を取り戻すための方法を考えましょう。もうすぐ日暮れが近いですよ」

 二人は再び足を進める。その横を並行して羊たちが付いて歩いた。彼らは食べ物一つない荒野の中、嬉しそうに首を振りながら歩いている。彼らの無邪気さに元気をもらったナオは少し笑みを浮かべ、羊たちに手を振ってみせた。すると羊たちは一つ鳴き声を上げると、彼女らが向かっているはるか先へと走り去っていく。元気だしなよと声をかけに来てくれたんだな、なんて勝手に納得していた。

 ナオは歩きながら周囲に散らばる家の残骸を見渡した。かつてはここでも多くの人と動物たちが楽しく生活を営んでいたのだろう。ここが自分の住んでいた町だと言われたならば。――ナオは自分の住む町とここの情景を重ね合わせた。

 ――戦争で爆弾が落ちて来る。空から雪の代わりに、真っ黒にすべてを焼け焦がす爆弾が。その時にはこんな風に、何もかもなくなってしまうのかな……。

 またしても少しセンチメンタルになりかけて、ナオは慌てて頸を振った。そしてあえて明るい声でミヅキへと話しかける。

「ねえねえ、私の住んでたところと似てるんだったらさ、この近くに商店街とかあったりしない? 私の家の周りには、面白いお店がいっぱいあってさ。大好きな場所だったんだよね!」

 それにミズキはあっさりと答える。

「ありませんね」

 ナオはそこで引き下がることなく、さらに言葉を上乗せした。

「きっと素敵な場所だったんでしょう? ほら、お店屋さんとかないの? コロッケ屋さんとか」

 ミヅキは前に進みながら、淡々と言葉を返す。

「そう言えば、ベーコンエッグのお店ならありましたね」

 話に乗って来たミヅキを元気付けるように、ナオはさらに捲し立てた。

「鉄板焼き屋さんは?」

「鉄板焼きはありませんが、鉄板によく似た呪物を売るお店なら」

「八百屋さんとか!」

「野菜は畑で育てていました。……ああ、もう腐ってますね」

 ミヅキは何一つ関心を持たぬような口ぶりで返事をし続けた。あえてそうしていることに気が付いたナオはそれ以上の言葉を飲み込み、永遠と続いているような荒地の横をただただゆっくりと前へと進んだ。

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