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星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


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 後戻りが出来なくなってしまった二人は、とにかく先へと進むことにした。ナオはおでこをさすりながら隣をあるく唐変木を見上げる。

「この先は何があるの?」

「僕の記憶が正しければ、住宅地ですね」

「橋があの状態だったということは……」

「まあ、期待は出来ないでしょうね」

 足元には風によって飛ばされたであろう家の残骸が、転がってきていた。

 

 予想通り、そこは軒並み半壊した家が続いていた。瓦礫の下にはかつて愛情を注がれていたであろう可愛い人形や子供服が下敷きになっている。なにもなくなった家を呆然と眺めている人や、行き場をなくして路上で寝ている人も多くいた。

「さっきの駅の周りとは、大違いだね」

「それぞれ人によって失ったものの大きさも違いますからね」

「なんか、辛いね」

「ええ。けれど、もう終わったことですから」

 先ほどから他人事のように言葉を返すミヅキに、ナオははっきりとした口調で言い返す。

「でもさ――――何も終わってないよ」

「……そうですね」

 ナオの言葉にミヅキは目を閉じ、小さく返事をするしか出来なかった。

 

 その後何かしらヒントが見つかりはしないか歩き回っては見たものの、気が重くなるばかりでめぼしいものは見つからない。

「ねえ、どうしよう。何も思いつかないしテンションは下がるし。もう、どうすりゃいいのよ!」

 どこにもぶつけようのない苛立ちに頭を掻きむしるナオ。ミヅキは顎に手を当てて考えを巡らせる。

「人が多いので何かしら情報を得られるかと思いましたが、逆効果とは……。では、反対に田舎町へ行ってみるのはどうでしょう」

「田舎町?」

「はい。家も少ないので、ここのようにうなだれている人も少ないかと」

「なんか悲しい選び方」

「ではまだこの道を進みますか?」

 ナオは行く先を見つめる。この道をどれほど歩いても、美しかったであろう風景がバラバラに切り刻まれている様を見ていくだけになりそうだった。胸がきゅーっと握りつぶされるような感覚がして、思わず首を大きく横に振る。

「では、場所を変えましょう」

 ミヅキは軽々しく提案した。ナオは後ろを振り返るも、来た道は既になくなっている。

「変えるってどうやって? 橋は落ちちゃったから馬車乗り場には戻れないし」

「馬車以外にも移動手段があるんですよ。ちょうどそれを見つけてしまいましてね」

 そう言うとミヅキは向かいから歩いてくる不思議な動物を連れた商人を指さした。ナオは目を凝らしてその動物を確認する。どこか既視感のあるシルエット。黄色い体に茶色のまだら模様。首が体よりも長く、すらっとした足。

「……キリン?」

 そしてその背中には、鳥のような大きな翼が生えていた。

「……って! 背中に羽根が生えてる! キリン鳥だ、キリン鳥!」

 見たままの名前をつけるナオに、ミヅキは少し口角を上げて返事をした。

「こちらの世界では『ヴォラール』という名の動物なんです。人が馬で移動したりするのと同じで、背中に乗せて走ってくれるんですよ」

「馬はいるのに馬には乗らないんだね」

「馬は虹の橋は走れますが、自由に空を横断は出来ませんから」

「なんかややこし~の!」

 ミヅキはその商人へと近づくと、軽くお辞儀をしながら話しかけた。白いローブをかぶった商人はヴォラールを引いていた手綱を緩め、その場に立ち止まる。

「どうも。そちらのヴォラールは借りられますか?」

「こんな時にお客とは珍しい。別に構いませんぜ」

「ありがとうございます」

 そう言うとミヅキは手早く契約書にサインをして、お札を三枚手渡した。そして一匹のヴォラールを借りてナオの元へ戻って来る。商人はせっせと得た稼ぎを胸元へと押し込んでいた。

「お札三枚? 馬車の三倍するの、これ」

「人間界でいうタクシーみたいなものです。ヴォラールは好きなところを走り、好きなところで乗り捨てて構わないんです。この子達は頭がいいので、自分で主人の居場所を嗅ぎ分け戻っていくんですよ」

「へえ、賢いんだね」

 ナオは触れもしない手でヴォラールに触れようとした。するとなんとヴォラール自ら、ナオへとすり寄るようなしぐさをしてきたのだ。思わずナオは手を引っ込めて数歩後ずさりする。

「うえっ⁉」

「ああ、そうそう。この子達には幽霊が見えるそうですよ」

「うっそ! アタシ見えてんの⁉」

「動物は幽霊など怪奇なものを感じ取れると良く言うでしょう? そういうものです。では、乗らせてもらいますよ」

 ミヅキはヴォラールの体を軽くトントンとたたいた。するとヴォラールは乗りやすいように腰を下げてくれる。ミヅキは軽々と背中に飛び乗るが、ナオは動かずその様子を眺めているだけだ。何か言いたげに頬を赤らめもじもじしている。ミヅキはそれをぽかんとした表情で見下ろしていた。

「どうされました?」

「えーっと、一緒に乗る感じ?」

「そうですが」

「まさかと思うけど、アタシ、アナタの背中にへばりついていないといけないのかな? そのー、二人乗りしてる()()()()みたいに」

 やや語尾に力が入っている。どうやら引っかかっている部分は()()らしい。それを知ってか知らずか、ミヅキは顔色ひとつ変えず淡々と答えた。

「そうなりますね」

 だがそこですんなり引き下がるナオではない。どうしても二人乗りをしたくない理由があるようで、あれこれ断る理由を模索し始めた。

「空飛んでたらきっと風強いよね? わりとしっかり捕まんないと振り落とされちゃったりするかも。二人乗りだとバランス悪いし、気がついた時にはアタシ、いなくなってるかもしれないじゃない?」

 ちらりとミヅキの顔色を確認するため顔を持ち上げた。だが彼は何ひとつ表情を変えることもなく、静かにヴォラールの上からこちらを見下ろしている。ナオは慌てた様子で、さらに言葉を付け足した。

「や、やっぱりさ! もう一匹借りようよ! この子達にはアタシが見えてるわけだし、アタシが一人で乗っても問題ないわけじゃん」

 その言葉にやっと目を細めて笑うミヅキ。分かってくれたかと胸を撫で下ろしているナオに、ミヅキはハッキリとした口調で告げた。

「どうやって契約をするんです?」

「え……?」

 ナオは瞬きを繰り返す。

「彼らに見えていても、商人に鳴海さんの姿は見えませんよ」

「それは……そうだけど。じゃあアンタが代わりにさ……」

「そうしたいところではありますが、あいにくのところ一人一匹までの決まりなんですよ。飛行時の心配ならいりません。万が一振り落とされたとしても、地面へ落ちる前にヴォラールが拾いに行きますから」

 するとナオは諦めた様子で大きなため息をつき、肩をがっくりと落とした。

「ダメなら期待させるような間、作らないでよね」

 そしてついに本音を曝け出す。

 

「あーあ。初めての二人乗りは大好きな彼氏の後ろって決めてたのにな~」


 それにミヅキは目をぱちくりさせて正直な感想を述べた。

「鳴海さんにも彼氏がいるんですねえ」

「失礼しちゃう! でもまあ、これから出来る予定……って話だけどね!」

「馬に乗れる彼氏ですか。ジョッキーか何かです?」

「バイクだよ、バイク!」

「だとしたら、事故しないよう十分注意しないと。振り落とされないように」

「空から落ちるほうがもっと危ないと思うけど?」

 ナオはあれこれ文句を言いつつも、他に移動手段がないので大人しくミヅキの後ろへと乗ることにした。そして戸惑いながらとりあえず肩へと手をのせる、つもりだったが相手の身長が高く届きそうにないのでカーディガンの端を握りしめることにした。

「では行きますよ」

「うん……。あのさ、これってどれくらいの速さで――って! きゃあー‼」

 先ほどのようにゆったりとしたスタートかと思えば、突然空へと舞い上がり角度は綺麗な斜め四十五度。ナオは振り落とされそうになって、迷うことなくミヅキの腰へとしがみ付いた。

「落とされないように気を付けて!」

「それは走り出す前に言ってー!」

 夢の二人乗りは想像以上の暴走車であった。

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