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星のオトシモノ【愛の火種が降る夜僕らは空を見上げる】  作者: 高冨さご


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10/20

 ミヅキの言葉に、ナオは顎に手を当てて小刻みに頷く。

「ふーん。じゃあ今のあなたは、ただの人間ってこと」

「ですね」

「そして、今のアタシは魔法使いか。へへへ……」

 ナオは不気味な笑い方に加え、関節をカクカクさせた挙動不審な動きをして見せた。明らかに何かを企んでいる様子の彼女に、ミヅキは眉を顰めてみせる。

「何か悪いこと考えてませんか?」

「してない、してない」

 そう言いながらも丸い瞳は綺麗な月目状へと細められる。

「例えばよ? えっと……」

 ナオはミヅキから少し離れると、足元に広がる白い塵へ向かって人差し指を差し出した。青い光が指先へと集中する。……出来る、出来る気がする!

「床に広がる白い塵たちよ! ぜーんぶまとめて、あっちに飛んでいけー!」

 その雄たけびと共に、指先をミヅキの顔面めがけて振りぬいた。まるで渾身の一球を投げ飛ばすかの如く、とても綺麗なフォームであった。

「…………」

「…………」

 そのまましばらく待ってみた。しかし何も起こらない。ナオの動きによって塵が少し舞い上がっただけで、地面を覆いつくす白は全く微動だにしなかった。

「あ、れ……?」

 最後見た夕日とどちらが綺麗な茜色だっただろうかと考えさせるほど、ナオの頬はみるみる赤に染まっていく。そして何とも言えない空気を蹴散らすように、彼女はミヅキへと怒鳴り声をあげていた。

「何させるんだよ!」

「自分で勝手にしたんじゃないですか」

 ナオは恥ずかしさを覆い隠すように両腕を組むと、頬を膨らませてミヅキから顔を逸らした。

「なあんだ! 結局アンタの魔法ごときじゃ、こんなものよね! 期待して損したわ! とにかく事情は分かったからさ! さっさと元に戻してよね!」

 現状を薙ぎ払うよう早口でまくし立てたところで、ナオはふと何かに気が付いた様子で目を見開いた。

 

 ――違和感。先ほど、自分の手を見下ろした時の、違和感だ。

 

 自分を包み込む青い光であまり気にしていなかった。でも、確かに見えた。自分の両手を通し、その先ある自分の足元が。

 慌てて今一度自分の両手を前へ突き出し確認する。その手の甲を越して、相変わらず頼りなさそうな顔でこちらを見上げているミヅキの姿が透けて見えた。

「何、これ……」

「あれえ、気づいちゃいましたか?」

 すっとぼけた彼の声。

「え! 私透けてるんだけどっ! どういう事なのコレーっ!」

 全身見渡してみてやっと気が付いた。なんとナオの体()()が透けていたのだ。白い塵が形をかたどっていたが故、すぐには気が付けなかった。

 ナオは未だ座り込んだままのミヅキの方へ駆け寄ると、同じようにしゃがみ込み顔を近づける。そしていぶかしげな顔のまま、嘗め回すように彼の体を見回した。

「なんでしょう?」

「うーむ……」

 だがどの角度から見ても、ミヅキの身体は透けていないことが確認されたのだった。

「なんでアタシだけだよ⁉」

 鬼気迫るナオとは相反して、ミヅキは変わらずの笑顔を浮かべたまま淡々と答えを出した。

「ですから何度も言っているように、人間の前で魔法を使うことは規則違反にあたるんです。そして規則を破ってしまった魔法使いは罰として、その肉体を奪われてしまう、それがこの国の決まりなんですよお」

 端的に説明された言葉があまりにも分かりやすくて、よりナオを逆上させた。

「いやアタシ魔法使いじゃねーし!」

「どうやら最終段階で能力を持っていたのが鳴海さんだったので、鳴海さんが魔法使い認定されちゃったみたいですね」

 なんというご都合主義か。魔法使いかそうでないかなど、きちんと分別をつけてもらいたいところだ。

「百歩譲ってアタシが魔法を使ったことは認めたとして……。なんでアンタは透けてない訳⁉ 先に使ったのはアンタでしょー!」

「実際に使ったのは鳴海さんですよ。僕は魔法の力を譲渡してしまっただけですから。僕の場合、魔法使いでなくなった元魔法使いことで、一時的にこちらの世界へ隔離されたと言った感じでしょうか」

「魔法の譲渡は、規則違反にならないの⁉」

「まあそれも魔法といえば魔法ですが……運良くその瞬間を、誰にも見られていなかったのでしょうね。人間の前で使用することは、という定義なので、見られていなければ問題ないようです」

「納得できるかあ!」

 ナオは思い切りミヅキへと飛び掛かりその胸倉を掴もうとしたが、見事にその体をすり抜け地面へとダイブした。床を覆いつくす塵へと頭から突っ込み、またしても全身が真白に染まる。かつて汗と涙をしみ込ませたユニフォームを身に着けたかのような風貌となったナオが慌てて顔を上げると、サンタクロースのような髭までも顔に出来上がっていた。

「うわあ! 大量に口に入っちゃった! さすがに甘すぎー!」

 角砂糖をそのまま食べたかのような鋭い甘味がナオへと襲い掛かる。一人暴れて、一人もがいているナオを黙って見つめていたミヅキ。ナオが動けば動くほどに塵は溶け、透けている体がさらに分かりやすくなっていく。それを見てミヅキは心配するでもなく、鮮やかな笑い声をあげた。

「わあ! 本当に透けてる! 本物の幽霊みたいですね! ハハハー!」

「人の不幸を、笑ってんじゃねえーっ‼」

 その言葉にナオはお得意の声量で対抗した。あまりの大きさにその場へとひっくり返るミヅキ。しかしまだ笑い声は続いている。ナオはイライラを抑えつつも、必死に顔中に纏わり着いた塵と格闘していた。

「いやあ、すみませえん」

 しばらく笑って満足したのか、いつも通り間延びした声がようやく返って来る。全く悪気のなさそうな謝り方に更なる怒りを覚えつつも、ナオは塵をはたくことも諦め立ち尽くした。

 そして改めてミヅキの方へと振り向く。

「んで」

「はい」

「どうやったら戻るの」

 ナオが見せた真剣な表情に、ミヅキはきちんと座り直す。頭にこんもり塵を乗せ来た時と全く同じ姿に逆戻りをしているのだが、彼がそれを気にする様子はない。

「私のからだ、もちろん元に戻る方法はあるんだよね。ここから出る方法があるということは、からだを元に戻す方法もあるってことでしょ?」

「まあ、ないことはないです」

「じゃあその方法教えてよ」

 だがミヅキはまたしても答えを言いあぐねている様子だ。口元に手を当てて何かを考えている。彼の言葉をしばらく待ってみたが、そのまま彼は舟をこぎ出してしまいそうな程頭を落とし込み始めたので、慌てて声を荒げるナオ。 

「もしもーし! 聞こえてるー?」

 ミヅキはゆっくりと顔をあげると、重たい口を開いた。

「再び肉体を得るためにすることは、たった一つです」

「一つだけ?」

「はい。それは――――『犯した罪を償うこと』」

「犯した罪を、償う……?」

 ナオは戸惑いながら繰り返した。

「それって、何をすればいいの?」

「……さあ」

「さあ⁉」

 答えを出し続けてくれていた彼に突然突っぱねられたので、思わずナオは今までにない声量で反応してしまった。周囲の塵はその声に合わせてミヅキへと襲い掛かる。まるで先ほど大失敗に終わった塵を動かす魔法が、一斉に押し寄せて来たかのようだった。ミヅキは痛みを感じる程の甲高い耳鳴りがして、ナオに近い方の片耳を抑えつつ慌てて弁解する。

「い、いえ! することは決まってるんです! この世界での罪の償いとは、己の存在証明です! 自分がいかに必要とされている人間であるかを証明できれば、ナオさんは元の肉体へ戻ることが出来ます!」

 早口に言い切ったその言葉に、ナオはあっさりと肩の力を抜いた。

「なーんだ、簡単じゃん! じゃあまず私の家族とか知り合いにコンタクトを取って、アタシのこと必要だって言って貰えればすぐにでも……」

 ナオはそこであることに気が付く。ミヅキもそれを懸念してなかなか言い出せなかったのだ。

「ここ、どこって言った?」

「魔法の国です」

「どうやって帰るの?」

「ナオさんは人間ですから、肉体を取り戻しさえすれば元の世界へ戻ることが出来ると思います」

「んで、どうやって取り戻すって?」

「自分の存在証明をしていただければ」

「魔法の国で?」

「はい」

「知り合いも誰もいないのに?」

「はい」

 堪忍袋の緒が切れた。ナオはミズキめがけて拳を振り回す。

「はい、じゃねーわ! 何の解決にもなってねえよ!」

「だから最初に『さあ』って言ったじゃないですかあ!」

「具体的な案を出せよ! 何すりゃいいかテメーが考えて提案しろー! 誰のせいでこうなってんだコラー!」

「落ち着いて、鳴海さん! その拳、当たらなくても怖い事は怖いですから! 幽霊ですし!」

「うるせー‼」

 それからしばらくの間、二人の小競り合いは続いた。

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