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【#97】地上・第二話:喰われゆく世界

 追跡者の気配は、背後から突然、鋭く突き刺さってきた。

 一歩、振り返る。剣を振るう前に、奴の刀が俺の背を裂いていた。


「……遅ぇよ」


 俺はミスティを真横に払った。

 追跡者の仮面が砕け、血と黒い霧が飛び散る。

 奴の体は反転した重力のせいで壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。


「しつこいんだよ、テメェは……!」


 地面に転がったその体に、俺は容赦なく剣を突き立てた。

 確信があった。さっきの一撃で“核”を砕いた。

 追跡者は再生しない。俺は血塗れの剣を死体から抜き、息を整えていた。

 だが、休む暇なんて最初から存在しない。ここは、地獄の最前線だ。


『蓮、聞こえる?』


 ミスティの声が、脳内に響く。

 その刃はすでに手の中で脈動している。


「ああ。次が来るな」


 揺れていた。地面が。空間そのものが。

 周囲の壁が粘膜のように鼓動し、瘴気が立ちこめ始めていた。


 ──エルゴスの本拠地は、既に「生きて」いる。


 踏み込んだ場所は、肉壁に覆われた広間。

 床の脈動に合わせて、壁からは融合者の培養体が滴り落ちてくる。

 新しい命。だが、そこに魂はない。ただの兵器。人間の骸。


「こんなものを“進化”と呼んでるのか……」

『これは、滅びの形よ』


 ミスティの声が、怒りを滲ませる。

 この場にいたのなら、ロザリンドも、きっと同じことを言っていただろう。


 そのときだった。

 巨大なモニターが、肉壁から隆起するように姿を現した。

 映っていたのは、地上の都市だった──いや、“かつて都市だった場所”。

 ビルは崩れ、道路は裂け、そこから異形の触手が天へ向かって蠢いている。

 街の人間は逃げ惑い、叫び、そして喰われていた。


「……ふざけんな」

『蓮、見て。あれ』


 ミスティが示す先に、赤い円環。儀式陣だ。

 それは街の中心──いや、世界中の主要都市にも同時に出現していた。


「……同時儀式」

「そして、ここがその中枢であり、すべての制御点だ」


 聞き覚えのある声がした。

 巨大モニターの向こう、広間を覆う肉壁の奥に異形の男の姿が見える。


「クロイツ……!」


 地下で倒したはずの男が、何らかの技術で再生し、今度は“核の守人”として儀式を行なっていた。


 その姿はもう人間ではなかった。

 半身が黒曜石のように変質し、巨大な翼のような魔力の触手を背から生やしていた。

 クロイツは腕を組み、焦げた空気の中に立っている。


「地上をダンジョンと接続する。これこそが、エルゴスの至上命題だ」


 その瞳には一片の揺らぎもない。


「理不尽な選別だな」


 俺は剣を構えながら言った。


「強いものだけが生き残る世界。それを創るために、何人を実験に使った?」

「弱者の犠牲なくして進化はない。君の存在が何よりの証明だ、九條蓮」

「……だから、お前たちは滅ぶしかない」


 二人の間に、風が走った。次の瞬間、剣が火花を散らす。


 ──世界の命運を懸けた決戦が、始まる。

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