【#90】地下2階・第四話:封印破壊
クロイツとの激闘を終え、焦げた床を踏みしめながら、オレは階段へと足を向ける。
地下1階へと続く最後の階段——その入り口には、禍々しいエネルギーの渦が渦巻いていた。
「……エルゴスの紋章か」
魔術式の封印。しかも、単なる物理的障壁ではない。
空間そのものをねじ曲げ、上階への接続を遮断する結界だ。触れただけで意識を断たれる類の、厄介な呪いが込められている。
ミスティがかすかに震え、俺に伝える。
「この紋章、これまでの階で見たものよりはるかに強い……ただの遮断ではないわ。ここを越えさせたくない、“強い意志”がある」
「クロイツの……あるいは、もっと上の幹部の命令か」
俺はしばし考え込む。
ミスティを剣形態から人型に戻すと、彼女は静かに歩み出て、紋章の前に立った。
「……どうする気だ」
「試す価値はあるわ。私は今、あの男——マーカスとクロイツ、“二つの縁”を喰らって力を増している。封印の構造自体は、私にも分かる……このままでは無理でも、“反転”させれば」
ミスティの両手が淡く光り、剣の形へと再変化する。
「蓮。振って。思い切り。私を“信じて”。」
「——わかった」
両手で柄を握りしめ、一歩前へ。
目の前には、赤黒く脈動する封印の核。俺は息を吸い込み、剣を振りかぶる。
「……ぶち壊せ、ミスティ!」
一閃。
剣が唸りを上げて封印に叩き込まれた。
空間が軋む音。重い、重い歯車が無理やり動き出すような感覚。
そして——
バァァンッ!
封印が砕け、魔力の奔流が四方に散った。空間の揺れが収まり、階段の入り口が露わになる。
「……成功、か?」
「ええ。封印は、完全に破壊された。これで、地下1階へ行ける」
ミスティの声は、どこか疲れていた。だが、その声音の奥に、確かな達成感があった。
「助かった。ありがとう、ミスティ」
「まだ……先はあるわ。これで終わりじゃない。エルゴスの本懐は、もっと上にある」
「わかってる。だが、まずは一歩ずつだ」
俺は階段を見上げ、足を踏み出す。
足音が、地下1階へと続く闇の中に消えていった。




