表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/102

【#88】地下2階・第二話:黒き腕の裁き

 床に転がった融合者の死体から、なおも黒い靄が立ち昇っていた。体の一部が魔物と完全に癒着し、死んだ後でさえ異形のまま崩れ落ちない。

 斬っても、焼いても、すぐに次の敵が現れる。

 ミスティは俺の怒りを吸って熱を帯びていたが、それ以上に戦場全体の空気が澱んでいる。


「このまま数で潰せると、思っているのか……!」


 息を整える暇もない。次々と襲い来る融合者を斬り捨てながら、俺は高台のクロイツを睨んだ。


 奴は動かない。

 代わりに、その背後から別の影が現れた。


 全身を黒いマントで包み、右腕だけが異常に肥大化している。

 まるで魔獣の腕をそのまま移植したような——いや、違う。あれは生きている。蠢きながら、地面を抉るようにして前に出てきた。


「お前が……“黒き腕”のヒューベルトか」


 記録にあった。エルゴスの処刑人。かつて五人のSランク覚醒者をたった一晩で消し去った男。


「お前にはクロイツ様への道はない。ここで死ね」


 その声は、驚くほど冷静だった。だが、次の瞬間にはもう、奴は俺の目の前にいた。


 ——速い。


 魔獣の腕を振るい、まるで大鎌のような斬撃が飛んできた。咄嗟にミスティで受けるも、重さが桁違いだ。

 腕の一撃に床が抉れ、俺の身体は後方に吹き飛ばされた。


「クッ……!」


 背中が柱に叩きつけられ、肋骨の奥に鈍い痛みが走る。

 だが、ミスティがすかさず共鳴を放った。

 俺の中に残っていた怒りが引き出され、痛みすら霧散していく。


「……お前のような怪物とは、戦い慣れているのでね」


 立ち上がり、剣を構える。ヒューベルトは表情を変えず、再び異形の腕を振り上げた。


 今度は、受けない。

 跳躍と同時にギミックの柱を蹴り、逆に相手の背後へと回り込む。


 斬撃。

 異形の肩を裂いた瞬間、肉が蠢き、牙のような触手が飛び出して俺の首を狙った。


「ミスティ!」


 返す刀で触手を一閃。切り飛ばし、続けざまに腹部へ貫く。

 しかし——まだだ。ヒューベルトは膝をつきながらもなお、立ち上がろうとしていた。


「……この程度では……処刑は終わらない……」

「だったら、終わらせてやるよ!」


 俺は力を込めて剣を振り抜いた。

 ミスティの赤黒い光が尾を引き、異形の腕ごとヒューベルトの上半身を裂く。


 動きが止まった。

 数秒後、断面から黒煙が噴き出し、ヒューベルトは崩れるように倒れた。


「……はぁ、はぁ……」


 肩で息をしながら、俺は剣を地面に突いた。

 まだ、終わりじゃない。

 クロイツは、そこにいる。高台の上で、ずっと俺の戦いを眺めていた。


「面白い。処刑人を倒すとは……お前、やはり“特別”だな」


 クロイツがゆっくりと前に出る。

 その手に、漆黒の長杖が現れた。


「次は私が裁こう。蓮——“鍵”を壊す者よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ