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【#86】地下3階・第四話:崩れる鏡の回廊

 扉が鈍く唸りを上げて開いた。

 きしむような金属音と共に、冷気が吹き込む。鏡の回廊の奥に広がっていたのは、かつて神殿だったような、円形の広間だった。

 だが、神聖さなど残ってはいない。


「……ここにいるのは、魔物だけだな」


 視線の先、柱の間にうごめく影。

 六本の腕を持つ異形の巨体——人と蛇と獣を無理やり貼り合わせたようなその姿は、明らかに融合の失敗作だった。

 だがその分、理性のかけらもなく、本能だけで暴れまわる。

 ミスティを手に、俺は地を蹴る。


「どけッ!」


 斬撃が唸りを上げ、一本、また一本と腕を切り落とす。だが魔物はお構いなしに再生を始めた。粘着質な肉塊がぬるりと蠢き、腕を生やす。

 天井が揺れた。鏡が割れ、粉々になって降り注ぐ。

 ——フロアの崩壊が始まった。


「このタイミングかよ……!」


 足元の床も、わずかに傾く。ひび割れた石材の隙間から、赤黒い光が漏れていた。魔力の暴走だ。階層そのものが限界に来ている。

 ミスティが警告するように振動する。

 階段を探す。見えた。崩れかけた石柱の奥、わずかに開いた通路——あそこが地下2階へ続く階段だ。


「俺の邪魔はさせん……!」


 魔物が立ち塞がる。再生した腕を振り上げ、全身で通路を塞ぐ。

 だがその瞬間、俺は壁際の崩れかけた柱を蹴った。身体が宙を舞う。


「お前は、ここで終われ!」


 ミスティが赤く輝き、全力の一閃を放つ。

 魔物の頭が真っ二つに割れ、爆ぜるように崩れた。

 床が抜け落ちるよりも早く、俺は階段に飛び込んだ。

 背後で鏡の回廊が完全に崩れ落ちる音が、低く、重く響いた。

 もう、戻ることはできない。

 エルゴスの紋章の光る階段を、俺は駆け上がる。いつものようにその光が青から赤に変化するが、調べている余裕はない。


「いよいよ地下二階か……」


 息を整える間もなく、階段の先に広がる新たな気配が、次の戦いの始まりを告げていた。

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