表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/102

【#84】地下3階・第二話:鏡の影

 鏡張りの回廊を進むたび、次々と現れる自分や魔物、追跡者のコピー。

 だが、それだけではなかった。


「……あれは……?」


 通路の先、濃い闇が揺れていた。

 まるで液体のように波打ちながら、一つの“存在”が形を成す。


 それは、俺と同じ姿の追跡者——

 いや、“追跡者の影”だった。


 実体を持たないはずの影が、鏡の魔力に引き出され、現実に干渉してくる。

 姿形は追跡者と同じだが、動きはより鋭く、そして執拗だった。


「ミスティ、いけるか?」

「ええ、問題ないわ。でも、少し厄介な気配……」


 俺は剣を構え、影の追跡者へ斬りかかる。

 刃が通る、確かな手応えがあった。

 だが、次の瞬間——


 ヒュウウ……ン……!


 背後から風が抜けた。


「……!?」


 振り向くと、俺の動きを完全に模倣した、もう一体の影がいた。

 鏡ではない。光でもない。

 それは、追跡者から現れた“副次的な影”——まるで、影にすら影があるようだった。


「まずいわ、“鏡の影”よ……!」

「鏡の影……?」


「強力な追跡者が鏡を通じて具現化されると、その存在が“分岐”するの。本体の動きを補完するもう一つの存在、それが“鏡の影”……」


 それは、追跡者の補佐のように動き、俺の隙を突いてきた。

 追跡者とそのコピーの行動は被らない。

 まるで、二人で俺を狩ることに特化した連携。


「面倒なことになったな……!」


 息を整え、力を集中させる。

 そのときだった。


「蓮——ここは私に任せて!」


 ミスティの声とともに、剣の形が脈動した。

 瞬間、剣から青白い光が吹き出し——

 ミスティが、再び人間形態となって地に降り立った。


 プラチナブロンドの長い髪、氷の色をした冷たい目、戦乙女のような気配。その姿が鏡に映ると、今度はミスティの影が鏡の中から現れた。


「これが、私の“影”よ……」


 風を裂くような剣閃が走った。

 追跡者とその影の首が、次々と宙を舞う。まるで時間すら切り裂いたかのような速さ——

 ミスティの影の剣技は、俺の記憶に刻まれている。


「……ロザリンド……?」


 呟いたその名に、彼女は静かに微笑んだ。


「懐かしい顔ね、蓮」


 しかし、その笑みにはどこか空虚さが混じっていた。

 目の前のロザリンドは、師であって、師ではない。

 彼女は——鏡の中から現れた、“ミスティの過去”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ