【#7】地下19階・第三話:重力を制する者
「ガルルルル……ッ!」
ダスクハウンドの群れが俺を取り囲むように配置を変える。
獣型の魔物がやる典型的な狩りの動きだ。前方の二体が正面から牽制し、後方の二体が俺の死角から襲いかかるつもりだろう。
「蓮、追跡者が接近しているわ」
ミスティの冷静な声が背後から響く。振り向くまでもなく、階段のほうから俺の足音がもう一つ近づいてくる気配がある。
選択肢は二つ。
ここでダスクハウンドを蹴散らすか、重力ギミックを利用して一網打尽にするか。
「……なら、両方だ」
俺は剣を強く握り、足元の重力エリアを見極めながら動いた。
一歩踏み出せば身体が軽くなり、逆に踏み込めば一気に重くなる。その特性を利用すれば、敵の動きを制御できる。
「行くぞ」
前方のダスクハウンドが飛びかかってくる。
俺はわざと足を重力エリアに乗せ、突進の瞬間に身体を沈ませた。狙い通り、ハウンドの攻撃が上を通り抜け——そのまま俺は軽くなるエリアへと跳び込む。
「遅い」
俺の剣が閃き、ハウンドの首を一刀のもとに断ち切った。
ミスティの刃が黒い血を吸い込み、俺の身体に活力が戻る。エナジードレインの効果だ。
「ガアアッ!」
もう一体が横から噛みつこうとするが、今度はそいつの足元が重力地帯に入っている。思うように動けず、もがく隙を逃さず、俺はミスティを振るう。
一瞬の斬撃。黒い血飛沫が散り、二体目が崩れ落ちる。
だが——
「……ッ」
その時、背後から圧倒的な殺気が迫る。
追跡者だ。
すでに傷は塞がり、俺と同じ速度で動ける状態に戻っている。
「蓮、追跡者が距離を詰めてくるわ」
「ああ、わかってるさ」
俺は一気にダスクハウンドの死体を蹴り、軽くなるエリアへと跳び込む。身体が一気に軽くなり、すぐに立ち直ることができた。
追跡者も俺の動きをトレースしてくるが、次の瞬間——
ズン……ッ!
俺がわざと誘導した場所に足を踏み入れ、重力が最大のエリアに捕らえられる。
「……ッ」
奴の動きが一瞬止まった。わずかに沈み込んだ足が、地面に縛り付けられたように動かない。
「今のうちだ」
俺は残ったダスクハウンドを一気に斬り伏せ、奥の通路へと駆け抜けた。
後ろで追跡者が無言のまま足掻く気配を感じるが、今は構っている暇はない。
次のギミックと敵が待ち受けている。
俺は息を整えながら、さらに奥へと進んだ。