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【#74】地下5階・第四話:死なない怪物

 爆発音が、耳の奥を殴る。

 地響きと共に血と肉片が飛び散り、焼け焦げた匂いが鼻を刺した。

 数秒前まで人の形を保っていた融合者が、自らの身体を起爆装置に変えて吹き飛ぶ。

 それが合図だったかのように、周囲の融合者たちが一斉に叫びを上げ、俺に向かってくる。


「蓮……始末……すル」


 崩れた顔面。ねじ曲がった手足。

 声にすら、かつての面影はない。


「……消えろ」


 振り下ろした剣が、融合者の身体を斜めに裂く。

 血が飛び、断末魔が響き、そのたびにミスティがわずかに輝きを増していく。

 まるで飢えた獣のように。


「いいわ。もっとよ。彼らの縁が、私を強くする」

「……頼もしい限りだ」


 何かを思う余裕はない。

 爆炎の中から追跡者が現れ、俺に飛び掛かってくる。

 俺と同じ顔、同じ動き。けれど、違うのは“感情”だ。その目には、何も映っていない。ただ任務を遂行する機械のように、俺を殺しに来る。


「……邪魔だ」


 追跡者の斬撃を紙一重でかわし、逆に肩口へ斬り返す。が、追跡者は傷ついても気にせず、平然と斬り返してくる。

 厄介なやつだ——だが。


(……重力反転ゾーンがあったな)


 このフロアに張り巡らされた重力を狂わせるギミックに、追跡者を誘い込む。ぎりぎりまで引きつけてから、タイミングを見計らい、地面を蹴った。


「今だ——!」


 重力が反転し、追跡者の身体が一瞬宙に浮く。

 その一瞬を逃さず、俺はミスティを振り抜いた。

 斬撃が、追跡者の胸を真っ直ぐに貫いた。

 着地と同時に、追跡者の身体が崩れ落ちる。

 これで、シエナを守る者は消えた。


「ふふ……少しは強くなったかしら」


 ——シエナの声が、背後から聞こえた。

 振り返るより先に、ミスティを振るった。そこには何の手応えもない。そうなることはわかっていた。だが、戦士としての本能ではなく、個人的な憎悪から、そうせずにはいられなかった。


「……そんなところに私はいないわ」


 再びシエナの声がした。拗ねるような、甘えるような。この期に及んで、そんな媚びた態度に出るのが腹立たしい。

 振り返り、シエナの姿を確認する。

 彼女は赤いドレスを着ていた。15階のときと同じもの。俺と一緒に買いに行ったもの——

 俺は一気に距離を詰め、シエナに刃を叩きつけた。


「これで終わりだ、シエナ!」


 斬撃が彼女の胴を両断する。赤黒い血が飛び散り、彼女は崩れ落ちた。


 ……かに、思えた。


 ズル、ズル……ズチュ。


 斬られた肉が、自動的に繋がっていく。

 裂けた皮膚が癒え、骨が伸び、傷がなかったかのように身体が再構築されていく。


「嘘だろ……」


 ——リジェネレーター。


 不死身の魔術装置。“人を辞めた”者が手にする、呪われた力。


「ふふ、もう終わり? 私、まだ“遊び足りない”わ」


 シエナが口元を拭いながら、無邪気に微笑む。

 胸元には、さっき俺が斬り裂いたはずの傷があった。

 いや、“あった痕跡”だけが残っている。


「……彼女、最初から死ぬ気なんてなかったのよ」


 ミスティが俺に囁いた。

 俺はシエナに切っ先を向けたまま、ミスティに答える。


「……不死身だろうと、再生しようと、俺はやることをやる。何度でも斬る。消えるまで、終わるまで。……やれるか?」

「当たり前でしょ。私たち、ふたりで一つじゃない」


 俺はミスティを構え直した。


「ならば、何度でもいくぞ——!」

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