【#6】地下19階・第二話:重力の罠
追跡者の傷がゆっくりと塞がっていくのを横目に、俺は奥へと走る。
この階層のギミック——重量変化エリア。うまく利用すれば敵を翻弄できるが、逆に足を取られれば命取りになる。
そして、俺を追うのは俺自身。
——その模倣にどこまでの精度があるか、試させてもらう。
俺は意図的に進行ルートを変えながら、重量の変わるエリアを駆け抜けた。軽くなったり、重くなったりする感覚に意識を割きながら、できるだけスムーズに動く。
だが、追跡者は俺と同じ動きを繰り返しながらも、ほんのわずかに遅れる。
「やはり、お前は完全な俺ではないな」
追跡者の模倣は完璧ではない。わずかに判断が遅れ、ギミックの影響を完全に把握していない。
「それなら——」
俺は進行方向を急に変え、意図的に重くなるエリアへと足を踏み入れた。全身に強烈な負荷がかかるが、一瞬だけ耐えて、すぐに軽くなるエリアへと跳ぶ。
追跡者は、俺と同じルートを辿ろうとした——その瞬間。
ズンッ……!
奴の足が沈み込んだ。
重力エリアにハマり、身体の動きが鈍る。俺は振り返らずに、そのまま走った。
「成功ね」
ミスティが静かに呟く。俺は微かに笑いながら答えた。
「一時的には、だがな」
追跡者は不死身だ。いずれ追いついてくるだろう。しかし、今は距離を稼げる。
その時——
ガルルルルッ!
前方の通路から、黒光りする獣のような魔物が数体現れた。
四足歩行の獣型、だが頭部が異常に大きく、裂けた口には無数の牙が並んでいる。
「ダスクハウンドか」
闇に適応したハンター型の魔物。群れで行動し、俊敏な動きと獰猛な攻撃力を持つ。
「……追跡者を振り切ったと思ったが、思うようには進ませてくれない、か」
とはいえ、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「ミスティ、やるぞ」
「了解しました」
ミスティを構え、俺は一気に駆け出した。
追う影と、前に立ちはだかる魔物。
俺の実力を試したいなら、試させてやるよ。